EV普及を急ぐ英国の動向
バッテリー式電気自動車(BEV)の普及はまだ始まったばかりで、今後も着実に増加し続けるだろう。最近の研究では、バッテリーの製造から使用後までを考慮した場合、従来のパワートレインや代替パワートレインよりも温室効果ガスや環境に対する影響が少ないという見方もある。この点については反論の余地もあるかもしれないが、エネルギー需要と充電キャパシティの重要性がこれまで以上にクローズアップされていることは間違いない。
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何万台ものEVを同時に充電できるキャパシティがあるかどうかや、膨大な規模のインフラ整備、公共充電器の信頼性の確保など、巷ではさまざまな議論がかわされている。他国に先駆けて電動化に舵を切った英国は、こうした諸問題についてどのように向き合っているのか見ていきたい。
まず、英国における電力需要はここ数年来、減少傾向にある。過去数十年で最も需要が多かったのは2002年の62GWで、これをピークに減少を続け、現在は50GW強まで下がっている。英国の送電大手ナショナル・グリッドは、国中の自動車が仮に一晩でEVに切り替わったとしても、全体の需要の増加は10%に過ぎないと推定している。
今年は感染症対策により、需要はさらに5%減少し、ナショナル・グリッドESO(電力系統運営会社)は、今年の冬のピーク需要を44.7GWと予測している。
EVでの長距離運転は
近年、英国で販売される家庭用充電器はすべて、地域の配電網が充電を行う時間をある程度制御できるように、「スマート充電(smart charging)」機能を装備しなければならなくなった。これにより、午後6時から午後8時の間のピーク需要を管理できる。
しかし、EVの増加に対応するために大きく変わるのは、公共の場での充電であろう。家庭での充電が多いというデータもあるが、バッテリー容量がどんどん増えていく中、長距離走行もEVで、という人は増えているはずだ。2040年までに3600万台(ナショナル・グリッドが現在想定している台数)が従来のエンジン車からバッテリーEVに代わるとすれば、その用途が近所の買い物や通勤にとどまらないことは明らかである。
英国で販売されている3万5千ポンド(約580万円)前後の一般的なEVは、80%の充電残量でも320km以上走行することが現実的に可能である。ナショナル・グリッドは、公共の充電ネットワークが不十分だと、航続距離への不安からEVの普及が阻害されると考えている。
同社によると、52%のドライバーはEVの長距離運転に不安を感じているといい、その解決策として、高速道路のサービスエリアに50か所の超高速充電器ネットワークを設置することを提案している。超高速充電器は、対応車種であれば5分から12分で充電することが可能である。この提案については現在、高速道路のサービス事業者と協議が続けられているところだ。50か所の充電ネットワーク設置にかかる費用は、5億ポンド(約830億円)から10億ポンド(約1650億円)と推定される。この費用は、自動車税や電気代、その他の課税により賄われるだろう。
ライフサイクル全体が重要
しかし、これは20年後という少し遠い未来の話であり、今後数年の間に何が起こるかは、脱炭素化と2050年までのネット・ゼロ・カーボン達成を目指す英国政府の対応に影響を受けることになる。
現在、注目を集め始めているライフサイクルアセスメント(LCA)は、製造されたあらゆるものの炭素への影響を評価する方法であり、自動車ライフサイクルのあらゆる段階を考慮に入れている。コンサルティング会社リカルドは最近、パートナーであるE4tech社、ifeu(ドイツのエネルギー・環境研究所)とともに、EUの排出量政策の根拠となる情報を欧州委員会に提出するため、LCAに基づく大規模調査を完了したばかりである。
一方、英国政府の考え方は、依然として自動車の「使用段階」に偏っており(例えば、2030年までにすべての内燃機関を禁止する)、複雑な問題に対するアプローチとしては単純すぎるという指摘もある。その考え方が変われば、EVの普及スピードも変わるかもしれない。いずれにせよ、ある段階でのEVへの完全移行は、もはや避けられないだろう。
電動パワートレインが早晩、乗用車だけでなくタクシー、商用バン、一部のトラックやバスにも適用され、道路交通の基幹となることを考えると、持続可能な電力が不可欠である。もし、発電時に大量の温室効果ガスやNOxなどの規制対象の汚染物質が発生するようであれば、コンセプト自体が無益なものになってしまう。
大規模な洋上風力発電所
LCAに基づくと、自動車は持続可能なエネルギーで製造され、持続可能な燃料を供給し、最終的に持続可能な方法で廃棄されなければならない。温室効果ガスは、マフラーからであろうと工場の煙突からであろうと、排出されれば同じであり、EVに化石燃料で作られた電力を供給しては元も子もない。規制された排出を自動車から発電所に移すだけである。
しかし、英国では、状況は好転している。ジョークのネタにされることも多いが、持続可能な電力の生産量は急速に増加しており、2019年は風力発電(オンショア、オフショア含む)、太陽光、植物バイオマス、水力などが化石燃料を上回る、記録的な年になった。
2020年第1四半期には、英国の総電力の47.8%が再生可能エネルギーにより賄われ、第2四半期も44.6%と同様の結果に。しかし、2021年になると生産量は減少し、同年第2四半期には37.3%と、7.2%も減少している。英国政府は2030年までに、洋上風力発電を現在の10GWから40GWに増やす(英国の全家庭の電力を賄える量)など、二酸化炭素排出量を削減する野心的な計画を立てているが、これに水を差された形だ。
再生可能エネルギーはどうやって作っているの?
EVを有意義なものとするためには、再生可能エネルギーへの完全な切り替えが重要である。英国の電力生産量の約半分を占めるまでに成長した再生可能エネルギーは、主に風力発電によるものだ。
政府の発表によると、波力発電や潮力発電はまだ初期段階にあり、22MWの発電能力しかないが、陸上風力発電は最近の集計で4万8487MWと、国内トップに立つ。第2位が1万4143MWの太陽光発電、第3位が洋上風力、第4位が4551MWの植物性バイオマスである。ビクトリア朝時代からある大規模水力発電は1473MWと、貢献度は意外に低い。廃棄物エネルギーと埋立ガスがそれぞれ1337MWと1055MWで、すぐ後に続いている。
そして、再生可能エネルギーには国民全員が関わっている。下水汚泥処理で247MW、嫌気性消化処理で559MWを発電しているのだ。2020年第2四半期、バイオエネルギーと廃棄物は、英国の総エネルギー消費量の14.7%という目覚ましい貢献をしている。
EVでお金を稼げるようになる?
英国や欧州で試行が始まっているV2G(ビークル・トゥ・グリッド)。ピーク時の電力需要バランスをとるために、コンセントに繋がれたEVのバッテリーから電力を取るというものだ。
現在、商用車に限定して試験運用が行われており、日産もE.ON(エーオン、ドイツのエネルギー大手)と提携してこれに参加している。両社は、E.ONの法人顧客であれば年間1万マイルの走行に必要なエネルギー(約5万円相当)を節約できると予測。この数字は、日産リーフの40kWhモデルで、WLTPサイクルの航続距離270km、1マイルあたり0.238kWhの消費、電気代1kWhあたり12.93ペンス(約22.4円)と仮定したものである。
まだ初期段階であり、一般ユーザー向けの計画はまだ発表されていない。V2Gに対応した充電器の価格はどんどん下がってきているが、英国内での利用に影響を与える要因の1つは、コストとスペースだろう。そして、次のステップはV2H(ビークル・トゥ・ホーム)だ。低料金時にEVが蓄えた電力を家庭に供給したり、ソーラーパネルがあればその電力を利用したりすることが可能になる。コスト削減だけでなく、CO2排出量の低減も期待できる。
運転習慣の変化が送電網に影響を与える?
EVの利点の1つは、ガソリンスタンドに足を運ぶ必要がなく、「給油」する場所の選択肢が増えることにあると考えられている。
急速充電器ネットワークはEVの普及に不可欠とされているが、英国で行われたCVEI(消費者、車両、エネルギー統合)試験では、地元の無料公共充電ステーションを利用できるにもかかわらず、参加者は電気代の発生する自宅での充電を選択することが明らかになったという。試験に参加した消費者の大多数は、先述の「スマート充電」を希望すると答えたが、これは路上駐車をする何百万人ものユーザーを考慮したものではない。
もし、大多数のEVドライバーがスマート充電を利用すれば、お金を節約できると同時に、送電網への負荷も減らすことができる。また、ピーク時とオフピーク時の料金体系には人を動かす力があるだろう。人々がいつ、どのように充電するかは、送電網の需要を安定化させる効果がある。
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