新型アクアで初搭載! 新たなバッテリーはハイブリッド車に革命を起こせるか?
トヨタが7月19日に発売した新型アクア。小型ハイブリッドの盟主として大いに注目を集めているが、その目玉となる新技術が『バイポーラ型ニッケル水素電池』だ。トヨタが「従来型アクアのニッケル水素電池に比べバッテリー出力が約2倍に向上した」とアピールする、その実力は本物なのか?
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ニッケル水素電池には、現在主流となってきたリチウムイオン電池に対して性能で劣るイメージもあるが、実はこの新型アクアのバッテリーは大きな可能性を秘めているといえそうだ。
文/高根英幸
写真/TOYOTA
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そもそもニッケル水素とリチウムイオン電池 それぞれの強みは?
2021年7月19日に発売された新型アクア。駆動用バッテリーには世界初の「バイポーラ型ニッケル水素電池」を採用
ニッケル水素電池は、長くトヨタがハイブリッド車用のバッテリーに採用してきた電池で、トヨタ THSシステムを支えるバッテリーとして使われてきたもの。乾電池型(円筒型)の二次電池(充電して繰り返し使用できる電池)としても広く使われているだけに、家庭でも馴染みのあるものだ。
ニッケル水素電池の一番のメリットは、信頼性が高いことだろう。安全性が高いことと、耐久性に優れることが、信頼を積み重ねられることにつながり、ハイブリッド車を幅広いユーザーに受け入れてもらうことができたのだ。
起電力(セル毎に発生できる電圧)が低いことから(リチウムイオン電池のおよそ3分の1)、同じ電圧を得るためにはセルをより多く重ねなければならないという問題はあるが、サイクル寿命が長く(約3000回)、優れたバッテリーマネージメントシステムと組み合わせれば、長期間安定した利用をすることができる。
一方でリチウムイオンバッテリーは、エネルギー密度が高く、同じ容積でもより多くの電力を供給することができるから、航続距離を伸ばしたいEVにとっては現時点で最適なバッテリーであることは間違いない。
だが、電極の素材にコバルトなどレアメタルを使用することから、製造コストの負担は小さくない。さらに今後、世界中でEVの需要が高まっていることから、リチウムの争奪戦も予想されるなど、原材料の供給不安が起こる可能性もある。
さらに、エネルギー密度が高いことから熱暴走を起こしやすく、温度が上昇してしまうと電解質に有機溶剤を使用していることもあって、バッテリーの膨張や発火といった事故につながる可能性がある。
海外では充電中にEVや電動スクーターが発火事故を起こすことが度々あるのも、リチウムイオン電池のエネルギー密度の高さと製造品質がシビアなことが原因だ。
新型アクアで初搭載 「バイポーラ型」のメリットは?
バイポーラ型電池は、正と負の電極版を両面に塗ったバイポーラ電極を複数重ねてパックにした電池のことを指す
「バイポーラ型」とは2つの電極を合体させた電池のこと。通常の電池は正極と負極、それぞれに電極板があり電子を出し入れしているが、バイポーラ型は1枚の電極板の両面に電極活物質を備えている。
クルマの12Vバッテリーは、2Vのセルを6つ連結しているが、隣のセルとは電極同士を繋げているものの、電子はそれぞれの電極板を流れるためU字型に流れる。
それに対してバイポーラ型は、電極板の表裏に電極活物質があるため、電極板の厚さ方向に電子が移動するだけでいい。Uの字の開いている頂部を直線的に移動するだけなので、抵抗が少ないのだ。
さらに電極板と各セルの仕切りを省略できるので、必要なスペースが小さくなる。これによってエネルギー密度が高まるのである。
わかりやすく例えると、乾電池型のニッケル水素電池では電圧を高めるために直列つなぎにして連結させるが、これを乾電池を切り開いて板状にして重ねたものがバイポーラ型に近いと思っていい。どちらがスペース効率、電導率に優れるかは、想像するまでもないだろう。
トヨタの電動化に対するノウハウの深さが感じられる
バイポーラ型電池の仕組み自体は、古くから考え出されていたものだ。しかしこれまで実用化は難しいと考えられていた。
2020年に、FB(フルカワバッテリー)のブランドで知られる古川電池と、その親会社である古川電気工業がバイポーラ型鉛蓄電池の実用化に成功したことを発表し、2022年から再生可能エネルギーの蓄電システム用に出荷することになっている。
これが実用化第1弾だと思っていたら、トヨタが新型アクア用のニッケル水素バッテリーでバイポーラ型を実現して搭載してしまったのである。
これには電池業界の技術者もビックリしたことだろう。実は2016年にトヨタと豊田自動織機は、このバイポーラ型ニッケル水素電池の特許を申請している。
つまり、その前から実用化に向けて研究開発を続けていて、特許を取得するほどのブレイクスルーを実現し、それが新型アクアでようやく投入できた、という訳なのだ。
従来型のニッケル水素バッテリーとバイポーラ型の比較イメージ。コンパクト化とそれに伴う2倍のバッテリー容量を実現することが出来た
今回の新型アクア用バッテリーの場合、単にバイポーラ型にするだけでなく、高容量化にも成功しているのがポイントだ。電圧は変わらないとしても電池容量を増やそうとすると、水素イオンを吸収する負極側の電極活物質の厚みを増やす必要があった。
しかし電極活物質の厚みを増やすと、導通性が低下してしまうという問題があったのだが、件の特許技術によって、それを解消している。
バイポーラ型によって電極板のスペースを減らして、直列つなぎの抵抗を減らしているだけでなく、電極板と電極活物質の導通を高めて1つのセルで充放電できる容量を高めることにも成功しているのだ。
これによって1セルあたり1.5倍の電池容量を実現し、コンパクト化にも成功していることから、先代アクアと同じ体積のバッテリーユニットで1.4倍のセルを搭載可能になったことで、約2倍のバッテリー容量を実現しているのである。
勢力図に変化? 新しい「バイポーラ型」は今後トヨタのハイブリッド車で主流へ
アクア以降のトヨタハイブリッド車にもバイポーラ型ニッケル水素電池を採用していくだろう。バイポーラ型電池の登場で、電動車の搭載電池の勢力図に変化が出ることは間違いない
トヨタは、ハイブリッド車のほとんどに、このバイポーラ型ニッケル水素電池を採用していくことになるハズだ。リチウムもコバルトも使わないことに加え、安全で高容量となれば、リチウムイオン電池を搭載するメリットは少ない。
それでもEVやプラグインハイブリッドには、今後もリチウムイオン電池が使われ続ける(全固体電池も含む)だろう。エネルギー密度は高まっても、一気に大電流を出し入れできる出力密度に関しては、やはりリチウムイオンのほうが優れているからだ。急速充電や急加速の性能では、ニッケル水素では分が悪い。
したがってこれからもリチウムイオン電池との使い分けが続くだろう。しかしバイポーラ型によってニッケル水素電池を一線級のバッテリーに引き上げたことは、これからの電動車の搭載電池の勢力図に影響が出ることは間違いない。
そして、リチウムイオンバッテリーでもバイポーラ型にすることは理論上は可能だから、今後開発が進めばリチウムイオンバッテリーのエネルギー密度は大きく高まり、EVの性能向上にも貢献できるハズだ。なぜなら実用化が待たれるリチウムイオン全固体電池でさえもバイポーラ型の試作に成功しているからだ。
話をアクアのバイポーラ型ニッケル水素電池に戻すと、今回のハイブリッドシステムで素晴らしいのは、全車に外部給電システムが搭載されていることだ。1500Wの出力を誇る外部給電があれば、ほとんどの家電製品が使えるから、停電時には大いに助かる。
実際に使わなくても、安心できるユーザーは多いことだろう。それを実現できたのも、こんなにコンパクトなクルマに容量の充分なバッテリーを搭載できたことが大きい。
これほど安心で便利、優れたシステムを搭載した超省燃費なクルマを低価格(198万円~)で発売した、トヨタには脱帽しかない。ハイブリッドを除外しようとしている頭のカタい欧州委員会の面々に試乗してもらいたいと思うほどだ。
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