今回はドイツプレミアムブランド3社の北極圏で行われた過酷なウインターテストをレポート。まずはメルセデスベンツのフルサイズ電動SUV、EQS SUVのテストを紹介する。(Motor Magazine2022年5月号より)
セダン系のEQSと、ほぼ同時期に開発をスタート
メルセデス・ベンツがすでに欧州市場で発売しているセダン系のBEVであるEQS、そして間もなく発売されるEQEにSUVを追加することはもはや明らかで、「EQS SUV」「EQE SUV」とすでに正式なモデル名の商標登録を済ませている。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
「SUV」と言う略語をそのまま使用するとはちょっと垢抜けない感じがしないでもない。内燃機関搭載のGクラスに合わせてEQS-GやEQE-Gではどうかなとも思う。ただしどうやら「G」は今後発表されるGクラスのBEV版のために予約されているようだ。
さて、話題を変えて今回、厳寒のスウェーデンから報告するのは、アッパークラスのEQSに加わるEQS SUVである。メーカーによる北極圏でのニューモデルテストでは、これまでは主に低ミュー路面における電子制御シャシコントロールのチューニングが多かったが、BEVに関してはそれに加えて低温度が航続距離にどんな影響を与えるのかというテストが追加されている。
今回取材したのは、EQSと同じEVAプラットフォームを採用するEQS SUVのプロトタイプのウインターテストだ。フルカムフラージュされたボディの印象は、EQSの背高クロスオーバーと言うよりも堂々とした本格的なSUVであることを強調している。
開発担当のホルガー・エンツマン氏によれば、開発が始まったのはEQSとほぼ同時期で、同一のアーキテクチャーを採用しており、搭載されている107.6kWhの大容量バッテリー、さらにブレーキやエアサスペンションまで共通であるという。
ハイスピードな雪上テストで、高い走破性と優れた乗り心地を両立
まず、広い氷上テストコースで始まったのは、驚いたことにかなりのスピードでの挙動テストだった。ここではスポーツモードを選択しており、120km/hを超えると車高は25mmダウン。空気抵抗を減らした状態での安定性を確認する。このエアサスペンションは80km/h以下になると車高は再びアップ、さらにオフロードでの走破性を考えてさらに30mm引き上げることも可能である。
続いてはハンドリングコースだ。全長5m超えの大きなボディで、セダンより750kgも重い3トン近い空車重量にもかかわらず、挙動は極めて軽快。パイロンスラロームを難なくこなして行く。この要因は後輪の操舵機構によるもので、スタンダードの操舵角4.5度に対してこのEQS SUVでは10度まで切れる。
また、EQS SUVにはオフロードモードも用意されているが、優れた4マティックでは低ミュー路では個々の車輪に最適なブレーキを与えてニュートラルな姿勢を保持させ、よほどの深い雪だまりでなければ軽く走破することができる。加えてエアサスペンションによる快適な乗り心地はこの上なく上質であった。
もちろんBEVにとって北極圏でのテストで重要なのは航続距離の確認である。これまでのデータでは低温でのドライブは平均で80%ほど、すなわち20%ほどの性能低下がみられると言われてきた。しかし、それは電池が外気の影響を受けるのではなくて、主に車内の暖房システムでエネルギーを消費するためだと判定されている。
小型BEVの低温時航続距離がカタログ値と大きな乖離がないのはキャビンが小さく、暖房エネルギー消費が少なくて済むからだ。そうなるとキャビン空間の広いEQS SUVは相対的には不利だが、大容量バッテリーのおかげで悪くても600kmには到達するはずである。この長い航続距離は大きな魅力であることは間違いない。
EQS SUVは2022年の9月からまず北米市場へ、そして年末にはドイツをはじめとするヨーロッパへ向けて出荷される予定だ。価格は未発表だが、およそ12万ユーロ(約1580万円)と予想されている。日本への導入タイミングはまだ発表されていない。(文:アレキサンダー・オーステルン<キムラ・オフィス>/写真:キムラ・オフィス、ダイムラーAG)
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