最新のブレーキにコイルオーバー・サス
text:Richard Lane(リチャード・レーン)
【画像】【画像】最新V8搭載 リボロジー・マスタング・ブリット モダナイズ事例は他にも 全132枚
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
AUTOCARでは年間数100台のクルマへ試乗するが、これほど多くの視線を集め、盛大なサウンドを放つモデルは限られる。一見すると、ハイランド・グリーンに塗られた1968年式フォード・マスタングそのものだ。
当時のフォードは、年間32万台ものマスタングを製造していたから、欧米ではそこまで珍しいモデルではない。レストアを手掛けるガレージにとっても、良い稼ぎ相手になっている。
とはいえ、映画ブリッドに登場するマスタングに似せた、普通のレストモッドとは一味違う。実際に近づいて観察すると、実態が明かされ始める。ホイールは17インチと大きい。扁平率45のミシュラン・タイヤのトレッドパターンも、どう見ても現代的。
ホイールの内側には、6ポッドのウィルウッド社製キャリパーが備わっている。ドラムブレーキはもはやない。
後ろに回ってみると、明るいバックライトにバックカメラも付いている。ボーラ社製のエグゾーストの背後には、肉厚なリアタイヤが姿を見せる。しゃがみ込んでタイヤの内側を覗くと、最大のモディファイ・ポイントの1つが目に入る。
ライドテック社製のコイルオーバー・ダンパーキットが組まれている。クラシカルな容姿なだけに、時代錯誤感が大きい。本来、初代マスタングはリーフスプリングが支えていた。ハンドリングを決定付けていた要素でもあった。
独自のシャシーに5.0L V8コヨーテ・ユニット
今回ご紹介するマスタング・ブリットは、見た目以外はオリジナルとまったく異なる。アメリカ・フロリダ州オーランドに拠点を置くリボロジー社が手掛けた1台で、自社設計のシャシーの上に、レストアされたボディが載っている。
構成で強く関心を引くであろう部分が、パワートレインが現代のマスタングのモノだということ。試乗車の場合は、5.0LオールアルミのV型8気筒コヨーテ・ユニットに、6速ATが組まれていた。MTを選ぶことも可能だという。
ちなみにオリジナルの1968年式マスタングは、6.4LのビッグブロックV8に4速MTが組まれていた。
フロントはダブルウイッシュボーン式サスペンションで、最新のブレーキと油圧のラック&ピニオン・パワーステアリング、LSDも搭載する。新しいパワートレインでパフォーマンスを向上させつつ、よりスイートなドライビング体験を作っている。
ブルートゥース接続機能、良く効くエアコン、パワーウインドウも付いている。ステアリングは滑らかに動き、ペダルは2枚しかないから、クラシカルな容姿でも運転は非常に簡単。前方視界も良く、ネバダ州に広がる砂漠もよく見渡せるだろう。
クルマの特徴を保ちつつ、信頼性も高められている。このマスタングは、スティーブ・マックイーンの愛馬のように仕立ててある。だが現金と想像力次第で、違った仕上がりにすることも可能らしい。
クラシカルな車内に調和する現代的な装備
ステアリングコラムの角度は調整可能で、長距離ドライブでも快適な姿勢を取りやすい。ただし、クラシックな形状のシートのおかげで、コーナリング時のサポート性は良くない。人間工学的にも悪くはないが、完璧とはいえない。
車内の構造で1番大きな違いは、高く幅も増したトランスミッション・トンネル。車内のあちこちに、リボロジーによるアルミ削り出しのパーツが用いられている。ドアの内張りやダッシュボードの仕立てもスマートだ。
部品のフィット感は、シンガー社が手掛けるモデルほどではないものの、当時のマスタングよりは遥かに高い。メーターはモダンなデザインだが、ステアリングホイールはウッドリム。1960年代のマスタングの雰囲気と、見事に調和するデザインだと思う。
読者の想像通り、こんなマスタングは安くは手に入らない。英国への輸入費用を載せる前でも、ベントレー・コンチネンタルGT V8と同じくらいの予算が必要になる。
リボロジーのマスタングは、金額に負けないくらいのドラマ性がある。英国でこのクルマの輸入を手掛けるクライブ・サットン社の地下駐車場でキーをひねると、V8エンジンは一発で目覚めた。
エンジンの存在感は現代的ながら、アイドリングは脈動する。鼓膜を破る勢いで、エグゾーストノートも大きい。
モダンな雰囲気が入り交ざるダッシュボードの先に、昔ながらの大きなボンネットが伸びている。ノイズはさほど興奮を誘うものではないが、イベント性は極めて高い。
マスタングらしいアンダーステア傾向
一般道に出ても、ビッグブロックV8のような独特のビートは得られない。そのかわり、ガサツさもない。ドライバーに友好的なコヨーテユニットは、滑らかに積極的に回転数を高める。
当時のマスタングは273psだったが、リボロジー・マスタングは440psもある。シフトフィールは冴えないながら、正しいギアにつながればボクスター級の加速を楽しめる。
見た目とは裏腹に、シャシーは路面の乱れを巧みに吸収してくれる。ステアリングは正確でライン取りも簡単。指先で狙い通りに導ける。
少し気になったのが、パワーステアリングが不自然にクイックに感じる場面があること。ハンドリングも活発とはいい難い。マスタングらしいアンダーステア傾向が残っている。コーナー中程を過ぎ、加速へ移るまで続いてしまう。
トラクションは高く、ブレーキは力強く効き、姿勢制御も引き締まっている。ドライバーの充足感は大きい。郊外の道をハイスピードで走らせれば、オリジナルの癖も一緒に楽しめる。
運転時の安心感や安全性が高められ、動的性能も引き上げられたリボロジー・マスタング・ブリット。現代に乗りやすいモディファイも加えられ、リボロジーのアイデアは良く具現化されていると思う。
ただし、英国価格21万ポンド(3234万円)に見合うかどうかは、受け取り方次第。このノイズを気に入り、1968年のファストバック・ボディの大ファンなら、恐らく支払う価値はあるのだろう。オリジナルにはない利便性も備わっている。
リボロジー 1968マスタング・ブリット(北米仕様)のスペック
英国価格:20万9375ポンド(2334万円)
全長:4663mm(オリジナル・マスタング)
全幅:1801mm(オリジナル・マスタング)
全高:1311mm(オリジナル・マスタング)
最高速度:241km/h(予想)
0-100km/h加速:4.0秒(予想)
燃費:−
CO2排出量:−
車両重量:1470kg(予想)
パワートレイン:V型8気筒4951cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:440ps/6500rpm
最大トルク:55.2kg-m/4250rpm
ギアボックス:6速オートマティック
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