ホンダの新型軽バン「N-VAN」の販売台数が、ここまでの合計(2918年7月から9月)でついに1万台に迫らんとしている(9649台)。
注目すべきはこのN-VAN、その本来の使用目的である商用車としてだけではなく、ホビー用途を目的とした層にもよく売れている、ということだ。軽バンは税金など維持費も安くて済むから、そういった点も購入を後押ししているのかもしれない(浮いたお金もさらに趣味に回せますしね!)。
デカすぎる 高すぎる 「俺たちのホンダ」はどこから方向性がずれたのか
そこで今回は、N-VANと、そのベース車であるN-BOX、そしてN-VANと同じく商用ユースメインの軽バン ハイゼットを持ち出してテスト。“アソビグルマ”として最適な人生の相棒を探してみた。
比較ポイントは「乗り心地」「安全性能」「小回り性能」「積載能力」「車中泊性能」の5つだ。
※本稿は2018年8月のものです
文:渡辺 陽一郎、ベストカー編集部/写真:平野 学、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2018年9月26日号
■エントリーリストおよび価格・主要諸元
●N-VAN +STYLE FUN
NAは156万600~169万1280円。ターボは166万8600~179万9280円
●ハイゼットカーゴ デラックスSA3
93万4200円から用意されるハイゼット。今回の撮影車の価格は115万5600円
●N-BOXカスタム G・Lターボ
ターボは189万5400~202万6080円。約20万円ほど価格が下がるNAもある
●3台の主要諸元の比較表
■TEST1 乗り心地:軽バンは後部座席の人や荷物にも優しいのか?
(TEXT/渡辺陽一郎)
軽商用車を選ぶ時に注意したいのが乗り心地だ。小さなボディで重い荷物を運ぶため(最大積載量はN-VAN、ハイゼットカーゴともに350kg)、足回りは積載に対応して硬めだ。指定空気圧も、両車ともN-BOXに比べると大幅に高い。
シートも異なる。N-BOXは前後席ともに頭上と足元の空間が広く、背もたれと座面には充分な厚みがあるから座り心地が快適だ。
これに比べてN-VANは、満足に座れるのが運転席のみという状況。助手席は小さく畳める代わりに座り心地が硬い。後席はN-VAN、ハイゼットカーゴともに簡易型だ。
乗り心地は前述のように軽商用車は全般に硬いが、N-VANの運転席は、そのなかでは快適だった。ハイゼットカーゴは荷室長を長く確保するため、前席を前側に押し出して、その下にエンジンを搭載する。したがって前輪と前席の間隔が狭く、路上の段差を乗り越えると、突き上げを直接的に伝えやすい。体が上下に跳ねる感覚が生じる。
これに比べてN-VANの運転席は、前輪との距離が離れることもあって快適だ。
しかし、これが後席となると逆転する。ハイゼットカーゴの後席は、床と座面の間隔が乏しく、座ると腰が落ち込んで膝が持ち上がる。その代わり膝先空間はN-VANよりも若干広く、座面も少し柔軟でシートの振動吸収性がいい。足回りも柔軟に伸縮するから、快適に感じる。
N-VANは床と座面の間隔に余裕があり、前席の下に足が収まって着座姿勢は良好だが、シートは薄手で振動の吸収性が悪い。足回りも路面のデコボコを伝えやすく、後席で判断するなら、快適なのはハイゼットカーゴだ。
■TEST2 安全性能:安心して乗れるのは?
(TEXT/渡辺陽一郎)
軽商用車で最も安全性が高いのはN-VANだ。前輪駆動で床が低く、ホイールベースも長いから走行安定性が優れる。横滑り防止装置は、商用車には非装着車が残るが、N-VANは全車に標準装着した。緊急自動ブレーキも先進的だ。
自動車事故対策機構の衝突試験は実施していないが、ベース車のN-BOXは評価が高い。N-VANは構造が異なりサイド&カーテンエアバッグを装着できないが、基本設計は新しく、期待できる。
ハイゼットカーゴとスズキのエブリイは一長一短だ。ハイゼットカーゴは緊急自動ブレーキをスマートアシスト3に進化させて歩行者検知も可能だが、現行型の発売は2004年で設計が古い。エブリイは2015年に現行型に一新したからボディ設計は新しいが、緊急自動ブレーキは赤外線レーザー方式で歩行者を検知できない。作動速度の上限も時速30kmと低い。
■TEST3 小回り性能:狭い道で取り回せるのは?
(TEXT/ベストカー編集部)
テストは、停止した車両の内側前輪が接する地面にマークをつけ、そこからハンドル据え切り状態で車両が180度転回するまで走行。その後、真っ直ぐバックして、マークを付けた場所と平行になる位置にクルマを停め、その位置の内側前輪部から始めにつけたマークまでの距離を計測するという方法で行った。
優秀だったのが4.21mという結果を出したハイゼットカーゴ。N-VAN、N-BOXのホンダ勢より、60cm近く小回りがきくという結果になった。
FFのホンダ車に比べ、後輪駆動を採用するハイゼットは前輪のハンドル切れ角を大きくとれる。そんなところが、この大差の勝利の要因となった。多くの軽バンが後輪駆動を採用するのには、こんなところにも理由があるのだ。
TEST4 積載能力:荷物をたくさん積みこめるクルマこそ優秀!
(TEXT/渡辺陽一郎)
積載能力はハイゼットカーゴが優秀だ。エンジンを前席の下に搭載して室内を長く取り、後席を畳んだ時の荷室奥行は177cm。N-BOXの146cm、N-VANの138cmを大幅に上回り、ダンボール箱も66個を積めた。
2位はN-VANだ。エンジンをボンネット内部に収めたため、ハイゼットカーゴに比べ空間効率が悪い。荷室奥行も39cm短い。それでも後席に加えて助手席も畳めるから、運転席以外のすべてを荷室に使える。この状態でダンボール箱を59個積めた。
また、N-VANは助手席側ピラーをドアに内蔵したから、前後ともに開くと開口幅は1580mmになる。ピラーを備えたハイゼットカーゴの770mmを大幅に上回る。助手席を畳んで左側を全開にすれば、荷物の積み降ろし性は抜群だ。助手席の折り畳みと左側のワイドな開口幅で、従来の軽商用車とは違う使い方を可能にした。
前輪駆動だから床は低く、荷室床面までの地上高も52cm。後輪駆動のハイゼットカーゴに比べて11cm低く、重い荷物も積みやすい。しかもハイルーフは全高が1945mmと高く、荷室高も136cmに達したから、ハイゼットカーゴを14cm上回る。
N-BOXは軽乗用車では車内が広く、後席を畳むと自転車も積めるが、軽商用車に比べると容量は小さい。広げた荷室の床に傾斜ができる。
■TEST5 車中泊性能:足を伸ばして快適に眠れるのは?
(TEXT/渡辺陽一郎)
車中泊に最も適するのはハイゼットカーゴだ。後席を畳んだ時の荷室奥行は実測値で177cmだから、前席を前側に寄せて、荷室との隙間にクッションなどを挟むと、そのまま就寝できる。床面もフラットで快適性は高い。
2位はN-VAN。後席を畳んだだけでは荷室奥行が138cmだが、助手席も畳むと幅は狭いが大人1名が足を伸ばして寝られる。オプションのマルチボードを使うと、車内がフラットな空間になって2名の就寝も可能だ。
N-BOXは後席を畳んだ時の荷室奥行きが146cmで、床に傾斜ができる。前席をリクライニングして後席と連結させても面積が足りず、あまり車中泊には適さない。
■テストを終えて:荷物を積めるか、快適性重視かで結論が変わる!
(TEXT/渡辺陽一郎)
ハイゼットカーゴは、プラットフォームから専用に開発された軽商用車だから、積載性が抜群に高い。
後席を畳むと大容量の荷室になり、重い荷物の積載にも適する。後輪駆動だから、積雪路の登り坂で、荷物を積んで発進する時なども都合がよい。
一方、N-BOXは軽乗用車だから、使用目的が根本的に違う。後席を畳むと広い荷室になって自転車も積めるが、軽商用車に比べると広さや使い勝手は大幅に下がる。その代わりシートの座り心地は上質で、大人4名が快適に移動できる。後席にもスライド機能が備わり、足元空間を広く確保できて、折り畳みの操作は簡単だ。
走行性能も異なり、N-BOXは安定性と乗り心地が優れる。サイド&カーテンエアバッグは、軽商用車には用意されないが、N-BOXは幅広いグレードで装着できる。荷室の機能を高めたものの、N-BOXは軽乗用車だから、居住性や走行性能を優先させて安全性も高い。
N-VANはハイゼットカーゴとN-BOXの中間的な存在だ。ハイゼットカーゴに比べると荷室は狭く、大きな荷物を積みにくいが、運転感覚はN-BOXに似て馴染みやすい。安定性も優れる。
そして助手席を折り畳む機能と、左側のワイドな開口幅により、ハイゼットカーゴやN-BOXとは違う楽しさがある。遊びのツールに活用する時の利便性も優れ、従来のクルマになかった機能だから、新しい使い方を見つける醍醐味も味わえる。
雰囲気が明るく、ワクワクした気分になれることもN-VANの魅力だ。
【番外コラム】N-VANの下取り予想は?
(TEXT/ベストカー編集部)
N‒VANは軽商用車だから、仕事でハードに使われることが想定され、数年後の売却価格が軽乗用車に比べると、どうしても下がりやすい。
参考になるのは、残価設定ローンの残価率だ。軽乗用車のN‒BOXカスタムG・LターボHonda SENSINGは、3年後で新車時の50%になる。ところがN‒VAN+STYLE FUN Honda SENSINGは45%にとどまる。実際に売却する時はさらに下がり、3年後となると、新車時の38~40%くらいになるだろう。
売却時の価値は使われ方によっても変わるが、購入したら、下取りのことはさほど気にせず、なるべく長く所有することを考えたい。
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