ビギナーにはなかなかイメージが難しかったクルマ用ウィンドウフィルムの施工方法も、いまやYouTubeなどの動画サイトでプロ・アマチュアを問わず、手間を惜しまずていねいに解説してくれている。
さらに、車種ごとにカットされたウィンドウフィルムをネット通販で購入することも当たり前となった。施工時に使用する道具の多くも100円ショップで入手可能だ。
まさかそんなもので逮捕も!? 意外に知らないクルマに積んではいけない車載工具
ひと昔前と比較して「ウィンドウフィルムを施工するまでの環境」は飛躍的によくなっているといえる。
しかし、どれほど周辺環境が整っても、施工するのは素人。それもぶっつけ本番だ。いうまでもなく、かなりの確率で失敗する。そこでプロの施工業者に依頼・・・となるわけだが、数万円単位の出費を余儀なくされることが多い。
クルマ用ウィンドウフィルム施工のプロと素人の違いとは?道具やフィルムに違いはあるのか?ウィンドウフィルムを施工する専門店で働いていたこともある筆者自身の経験を踏まえつつ、検証してみたい。
文/松村透
写真/松村透、日産、Adobe Stock(トビラ写真=Nomad_Soul/Pixel-Shot,bhakpong,zphoto83,Parilov,rodimovpavel,Kaikoro)
【画像ギャラリー】簡単? 激ムズ? クルマ用ウィンドウフィルムは素人でもできる!?
■プライバシーガラスがなかった時代を振り返ってみる
プライバシーガラスなるものが存在する以前「いちどウィンドウフィルムを施工したら、次のクルマでも必ず貼りたくなる」と先輩から教えられたものだ
筆者がウィンドウフィルムを施工する専門店で仕事をしていたのは1990年代半ば。スカイラインGT-RがR32からR33型にフルモデルチェンジした頃だ。
筆者が在籍していたウィンドウフィルムの施工店は、当時日本では珍しい業務用のアメリカ製ウィンドウフィルムを使っていたので、さまざまな顧客を抱えていた。
近隣の自動車ディーラーはもとより、輸入車専門店、エンドユーザー、誰もが知る芸能人のクルマが持ち込まれることもしばしばだった。
また、都市部という立地もあり、仕事とはいえ最新モデルや高級車に触れることも少なくなかった。
オーナーや中古車販売店からクルマを引き取り、工場まで運転する役目は下っ端である筆者の役割だったように思う。
輸入車はまだまだ左ハンドル仕様が主流の時代。この仕事を通じて左ハンドル車の運転を習得できたといってもいいかもしれない。
傍目には「役得」といわれそうだが、当時二十歳そこそこの筆者にとってとんでもなく緊張したことを覚えている。
プライバシーガラス(当時は着色ガラスなんて呼んでいた記憶がある)が普及しはじめたのは1990年代後半あたりだろうか。ミニバンが急速な勢いで普及しはじめたタイミングとリンクしていたように思う。
■ウィンドウフィルムを貼る場合の法的な注意事項
現在の法規において、フロント3面(前・左右)のガラスに透過率70%以下のフィルムを貼ると車検NGとなる。いわゆる「フルスモーク車」は車検に通らないのだ
ご存知の方も多いと思うが、フロントガラス(前面・運転席・助手席の3面)にウィンドウフィルムを施工する際は透過率70%を下回ると車検に通らない。
透過率70%というと、パッと見ではほぼ透明だ。よって「スモークフィルム」はすべてアウトだ。
最近はフロントガラスにUVカットフィルムを施工するユーザーが増えているようだが、「可視光線透過率測定器」を用いて測定し、透過率が70%を下回った場合はフィルムをはがさない限り車検には通らないので注意が必要だ。
なお、サイドガラス(セダンであればリア3面。ワゴンやミニバンであれば、リア5面)の透過率に関する規制はない。
■いまも昔もフルスモークは御法度
いちど施工したフィルムをはがすと糊が残る。これを完全に除去するのはかなりの手間だ
いまでもごくまれに見かけるフルスモーク車。当然ながら違法であり、そのままの状態では車検には通らない。このフィルムを剥がさない限り、ディーラーで点検を受けることすらできない。
オーナーはもちろんのこと、施工業者も罰せられるので、フルスモークを依頼しても断られるのが実情だ。
筆者がウィンドウフィルムの施工のアルバイトをしていた20数年前は、このあたりの線引きが緩かった。その分、フルスモーク車を見かける機会もいまとは比べものにならないくらい多かったように思う。
単にフルスモークといってもオーナーの依頼内容はさまざまで、リアの透過率を21%、フロントを36%・・・といった具合に「フルスモークだけど視認性も確保したい」というオーダーも少なくなかった。
またフルスモークというと「真っ黒」のイメージが強いかもしれないが、筆者が在籍していた専門店はグリーン系のフィルムが人気だった。一見すると「ちょっと濃いグリーンガラス」に見えるので、見た目も自然で威圧感が少ない。
ちなみに、芸能人のクルマを持ち込むある業者の依頼はいつも「透過率36%のグリーン系フィルムのフルスモーク」だった。
そして、いまでも強烈に覚えているのが、施工店で取り扱っていたフィルムのなかでもっとも透過率が低い「8%のスモークフィルムの2重貼り」だ。車種はアウディ80だったと思う。
ただでさえ、透過率が低いフィルムの2重貼り。しかもオーダーはフルスモークだ。
さすがにこれは危ないだろうと、2枚目のフィルムはドアミラーの部分が見えるようにカットして収めた。納車は筆者が担当した。
もはやフィルムではなく、カーテンを閉め、暗室のなかで運転しているようだったことを強烈に覚えている。はたして、あのクルマはどのような扱われ方をされたのだろうか・・・。
■ウィンドウフィルム施工に必要な道具とは?
今回、筆者自らクルマのフロントガラスにUVカットフィルムを施工するべく購入した道具。いずれも100円ショップで入手したものだ
ウィンドウフィルムを施工する際、どのような道具をそろえればよいのだろうか。施工者によって多少の差異があるだろうが、おおむね以下の道具を用意すればOKだ。
*プラスチック製のヘラ(数種類あると理想的)
*ゴムべら
・施工前に仮押さえするボード
*バケツ
*スプレー(2つ以上あるとベスト)
*カッターナイフ(フィルムをカットする際に使用)
*定規(できれば透明か半透明のもの)
*スポンジ(窓ガラスを洗う際に必要)
・ヒートガン(なければドライヤー)
リアガラスなど、面積が大きい部分にフィルムを施工する際に使用するヒートガン。熱風でフィルムを柔らかくし、3次曲線のガラスになじませるのだ
・・・こんなところだろうか。上記の「*印」は100円ショップでも入手可能なアイテムだ。
カー用品店などで「フィルム施工専用セット」が売られているが、この道具を選んだからといって施工の仕上がりがよくなるわけではないので、それほどこだわる必要はないと思う。
■プロが使う道具やウィンドウフィルムとの違いは?
かつて筆者がお世話になったウィンドウフィルム施工の師匠が使用している道具
施工者の好みにもよるが、道具に関してはプロ専用のものはほぼないと思っていい。しいていえばヒートガンくらいだろうか。ホームセンターなどで売られている道具を購入したあと、自分好みにアレンジしているようだ。
ただ、フィルムに関しては業務用のものが存在することは確かだ。市販品よりも耐久性があり、フィルムに厚みがあり、施工に技術が伴うものもある。つまり「プロ(業務)用」というわけだ。
リアガラスの1枚貼りにはヒートガンは必須アイテム。熱風でフィルムを柔らかくするさじ加減もプロの経験とノウハウが活かされている
市販品も、かつては安物のウィンドウフィルムだと経年劣化とともに色が抜けてしまうことが多かった。しかし現在は品質が向上し、数年程度では色抜けしないものが多い。
しかも「車種ごとにカット済み」という、かつては施工のたびに型紙を当ててフィルムをカットしていた筆者からすると夢のような話が現実となった。
機械によるレーザーカットなので、人間がカットしたフィルムとは比較にならないほど見た目も美しい(大半の部分が隠れてしまうので、実際にはあまり気にする必要はない)。
■素人とプロが施工する際の決定的な違いは?素人にもできるのか
ガラスの形状に合わせて型取りをしているところ。この行程をミスするとうまく貼れてもすき間ができてしまうのだ
前述のフィルムの品質はもちろんのこと、最大の違いは「施工技術の差」だろう。
「素人にもできるのか?」と問われたら「やってやれないことはありませんが、多くの場合、きっと徒労に終わります」と答えるだろう。
練習を繰り返せば多少不器用な人でもコツをつかむことができる。しかし、当然ながらフィルム代はすべて自腹だ。さらに、練習でうまくいっても、本番でミスをしたら1からやり直しだ。
ミニバンであれば、左右のセカンドシートのドア、左右のサードシート部のリアクォーター、そしてリアガラス。全部で5枚、これらすべてをノーミスでクリアしなければならない。
DIY経験者であれば想像できると思うが、素人が同じ技術レベル・環境を用意するのはかなりハードルが高い。
ホンの些細なミスでフィルムにゴミや埃が大量に付着するか、車内が汚れたり、最悪の場合は故障要因の引き金になりかねない。
窓ガラスには目に見えないゴミや不純物が付着している。これを完全に除去する必要がある。大量の水を使うので、ドアの内張りの養生も必須作業だ
ウィンドウフィルムの施工は一発勝負。失敗してもやり直しは御法度。すでにゴミや埃が付着していたり、折れている可能性もある。泣く泣くはがして新たなフィルムを用意するしかない。
それはつまり、ごまかしが効かない職人技が要求されることを意味する。気合いや根性といった力業ではまず成功しない作業だということだ。
どうしてもDIYで貼ってみたい・・・というのであれば、YouTubeなどの動画サイトに施工方法を解説する動画がたくさん公開されているので、予習用の教材として活用したい。
この一連の動作は文字と静止画ではなかなかイメージがつかめない。動画がベストだ。動画をチェックした時点で大変そうだと思ったら早々に離脱した方がよいだろう。
むしろ挑戦意欲が湧いた! という場合は、100円ショップで必要最低限の道具をそろえ、もっとも施工が簡単なリアクォーターなどはめ殺しの窓で試してみることをおすすめする。
これでゴミや埃があまり入らなかったら他のドアやリアガラスにチャレンジしてみてもいいかもしれない(ただし、ドアになると一気にハードルが高くなるのでそれなりの覚悟が必要だ)。
今回、ウン十年ぶりに筆者が施工したUVカットフィルム。日産セレナのクォーターガラスに施工したのだが、矢印のところにゴミが付着している。これを除去するにはフィルムを剥がすしかない
今回、筆者自身も久しぶりにウィンドウフィルム施工に挑戦してみた。クルマは日産セレナ、運転席・助手席(それぞれのクォーター含む)にUVカットフィルムを貼ってみることにした。
その結果、クォーターはどうにか貼れたが、ドア部分のガラスはあえなく施工中にフィルムが折れて失敗。せっかく購入したフィルムを無駄にしてしまった。
自分の実力を思い知らされたので、かつてお世話になったフィルム施工の師匠に連絡(泣きついたというのが正直なところだ)、施工してもらった。
この道20数年の師匠、あっという間にセレナのドアガラスの型を取り、フィルムをカットし、施工してしまった。まさに流れるような作業だった。
施工したフィルム面に顔を近づけて凝視してみたが、ゴミや埃がまったくといっていいほど入っていない。まさしく熟練の技だ。
■結論:なぜ、クルマ用のウィンドウフィルムをプロに依頼すると5万円オーバーなのか?
中性洗剤を水で薄めた潤滑剤とヘラを巧みに使いこなし、ゴミの侵入や折れなどもなくフィルムをガラスになじませていく。まさにプロの技だ
「施工技術」「養生の手間」「フィルムの質」「作業環境」の総合点がそれなりの請求額となって表れる。
端的にまとめると以下のようになる。
・施工技術:折れることなく、ゴミや埃が極力入らないように施工してくれる。万一の際もリカバリーする(見えにくくする)技を持っている
・養生の手間:内装が濡れたり汚れたりしないよう、養生して作業をする(内装を取り外して施工する業者もある)
・フィルムの質:業務用のフィルムを用いて施工する
・作業環境:多くの場合、埃やゴミが入りにくい室内で施工する
つまり、請求額の大半は技術料だ。それなら少しくらいは値引きを・・・と思うかもしれない。
愛車をより美しく撮影するためにミラーレス一眼レフカメラを購入して楽しんでいる人もいるだろう。プロ顔負けの技術やセンスを持つ人も少なくないと思う。
クルマのリアガラスは一見すると平面に見えるが、実は微妙な曲線を描いている。かつては分割して貼ったものだが、車種によっては1枚貼りで仕上げてしまうケースも少なくない
しかし「その道で食っているプロ」にはまず適わない。なぜなら、自由気ままに撮影できるプライベーターと、限られた条件(予算や時間、天候など)のなかでクライアントや読者が感嘆するカットを撮ることができるプロとは根本的に引き出しの数が違うのだ。
フィルム施工にも同じことがいえる。安くて早くて上手いなんてムシのよい話はないのだ。値切るなんてもってのほかだ。「商人は値切っても職人からは値切るな」である。
余談だが、2002年より厚生労働大臣指定試験機関の認定を受けた日本ウインドウ・フィルム工業会が国家技能検定として「ガラス用フィルム施工職種(建築及び自動車フィルム作業1級、2級)試験」を実施している。こうなると名実ともにプロだ。
今回、己の実力を過信して自ら施工し、あえなく失敗して気づいたことがある。屋内の施工場所を確保でき、よほど器用な方か、多少無駄になっても構わないという場合でない限り、ここは素直にプロに依頼することをお薦めしたい。
【画像ギャラリー】簡単? 激ムズ? クルマ用ウィンドウフィルムは素人でもできる!?
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みんなのコメント
丸一日潰してもその割に仕上がりがイマイチだったり、最近の車はネジ類も上手い事隠してあって内張りを剥がすのも一苦労
あの時間と手間を思ったらプロに頼んだ方が良い
警察がパトロールしていない証