ドライバー3月号(2020年1月20日発売号)からスタートした新連載「(じつは)動物カメラマン 三好秀昌の『ニッポン探訪』」。日本全国を最新SUVで駆けまわり、かわいい動物や最高の絶景を撮影してしまおう!という企画です。第6回は、四方が金網に囲まれた河川敷の土のう置き場、いわば自然の中の動物園に生息している『子キツネ』。撮影テクニックやクルマのインプレッション、その地域のグルメやお土産情報など、取材ウラ話をいろいろと紹介します。
本土キツネ
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先月、鳥や野生動物は頭がいい、と書いた。
今回撮影してきたキツネもなかなかの知恵ものだ。四方が金網に囲まれた大きな土のう置場を住みかにしている。
すぐ横の土手を早朝から人々がジョギングしたり、自転車で走っていくがまったく気にしない。ここには人が入れない、と知っているからまったく動じないのだ。
金網の向こうはこっちから見れば自然の中の特異な動物園、だが彼らから見れば平和な大豪邸なのだろう。ただ、動物園と違うのは誰も餌をくれない。(写真3枚目)
どうしてるのだろう? その答えは毎日、散歩をしているというお婆ちゃんから得られた。
「夕方、大きなキツネが土手を越えて河川敷のほうに出かけていくわよ」
人間の出入りはできないが彼らの出入りは自由なのだ。
そんな環境だからここ数年、子キツネが生まれている。生まれて数カ月のキツネは、それこそ堤防の上で出くわしたら、どこかの犬が逃げてきたのかな?という風貌にしか見えない。それほどキツネ目ではないのだ。(そういえば、グリコ森永事件のキツネ目の男ってどーなったんだろう?)
(写真4枚目)
同じ兄弟でもキツネ目の特徴が強いのも(上)いるから、顔もだいぶ個体差があるのだろう。
早朝、土のうの隙間から塒(ねぐら)に入ったキツネたちは、西日が傾くころになると表に出てくる。
今年の子供は3匹。うたた寝をしたり、兄弟で取っ組み合いのようなじゃれ合いをしてとにかく平和で楽しそうだ。
親は早朝に見かけただけで、その後、姿を現さない。子供だけで遊ばせながらどこかで様子を見ているに違いない。
(写真5枚目)
早朝、巣穴から出てきた親キツネ。前日からの雨で全身、ビチョ濡れである。この濡れ方を見ると、巣穴の中は居心地悪そうだと想像してしまう。しかし、これからの季節、地中の巣穴よりも空調的には優れていて居心地がよくなるのだろうか?
この親はひと目見てキツネとわかる。何といっても鼻筋が通り、フサフサの尾っぽが貫録だ。
夜、ラリーコースを走っていると、ときどきキツネを見かけることはあった。だからそれなりに山間部には生息しているはずなのだが、なかなかじっくり観察するチャンスはない。すぐに逃げてしまうのだ。
タヌキはあまり人を恐れないのか、見かけてもしばらくウロウロしていてくれる。このノンビリさとキツネの神経質さは、勝手なイメージだが顔の造形にも現れているようでおもしろい。
(写真6枚目)
同じキツネでも北海道に住むキタキツネはよく見かける気がする。展望台の駐車場などに行くと向こうから寄ってくる。いつの間にか餌付けが完了してしまった個体なのだ。だが、山の中で見かけるキタキツネはやはり神経質で、クルマから出てカメラを構えると一気に走り去ってしまう。逆にこのほうがホッとしたりする。
キタキツネのほうが本土キツネより色が濃く顔がより尖がったキツネ顔で、より野性的な感じがするのは気のせいだろうか。春先、厳しい冬を乗り越え痩せ細った時期のイメージが強いからなのだろうか?
そのうち、冬毛でモコモコのキタキツネの撮影にも挑戦してみよう。
「撮影裏話&テクニック」
無音シャッターで動物との距離を詰められる
(写真7枚目)
野生動物はこっちから近づいていくと逃げるが、動かずジーっと石のようになっていると向こうから近づいてくることがある。ボーっと動物を待っているときに限って、アレアレっという感じで現れ、トコトコとこっちに近づいてきたりする。好奇心満載の幼獣が多いが、やはり撮る気満々で殺気立っているとなんとなく気が伝わっちゃうんだろうね。
野性というものはつくづく神秘的だ。
今回の子キツネは遠くのほうにいるのを、こっちに来ないかな~とダメ元でカメラを構えて微動だにせずにいたら、どんどん近づいてきた。もうこうなると、横位置から縦位置にフレームを変えるどころかズーミングさえできない。
しかし、あまりにも近すぎるのでズーミングしようと手を動かしたら逃げられた(本誌のメイン写真が一番近くに来た瞬間)。
(写真8枚目)
α9と200-600mmの望遠ズームの組み合わせは軽量なので、しばらくカメラをホールドしながら待つことができた。目の前には金網があり、これをぼかすためにレンズ中心を金網の隙間の中心に合わせ、できるかぎり障害物をぼかさなければならない。こんなシチュエーションで三脚をドンピシャの位置に立てることは無理だ。微調整しているうちに子キツネが気付いて逃げてしまう。
やはりクルマもカメラも軽いに越したことはないな。
また、α9の電子シャッターはサイレントモードを選ぶと無音でシャッターが切れる。最初、レリーズされているのかどうかわからず不安で慣れなかった。それでわざわざ電子音をオンにしてシャッターを切っていた。
やっと無音に慣れたのだが、これは鳥や動物を撮るにはすばらしく有効だ。シャッター音は機械の音なので動物は反応することが多い。無音シャッターはそれを避けられるので、間違いなく距離を詰められるのだ。
[撮影データ]
機材:SONY α9
レンズ:FE200-600mm F5.6-6.3G
焦点距離:474mm
撮影モード:マニュアル
シャッタースピード:1/640
絞り:f6.3
ISO:3200
露出補正:-0.3
「今回のSUV……フォルクスワーゲン パサート オールトラック」
野生動物の撮影にピッタリの使い勝手
(写真9枚目)
夏至前後のここ最近、夜明けは早い。4時台である。野生動物の撮影は夜明け前に現着してスタンバイ。そして、できれば第一発見者になりたい。夜行性の動物は夜明けごろ、塒に帰っていくので出くわしやすい。
そう考えると、現地まで200~300kmの移動があるなら、前日に出発して早めに着き、現地で仮眠しながら日の出を待つのが一番効率がいい。
このパサート オールトラックのセカンドシートを畳むと荷室と一体化するスペースは、すばらしいベッドでご機嫌だった。ほぼフルフラットになるところなんて気が利きすぎて、荷室の床に頬ずりしたいぐらいだ(笑)。
高速道路の移動は楽ちんだ。レーンキープのステアリングアシストはふだんはうっとうしいので切ってしまうのだが、パサートのそれは制御の介入がすごく自然で違和感なく、制御を切るより任せたほうが楽に感じた。
ほかのクルマの多くがコーナーの入り口で急にグイーッとステアリングを切り込むのに対して、手前からわずかにステアリングが切れ込んでいくので違和感がないのだ。言い換えれば、運転の下手な人があわててステアリングを切り込むのに対して、うまい人が急な横Gを出さないように早めにステアリングを操作するような違い、というとちょっとほめすぎか。
ディーゼルエンジンはちょっとアイドリングではうるさいけれど、差し引いて余りあるほどの燃費と軽油のコンビネーションのよさは財布にやさしい。
(写真10枚目)
今回はあまり活躍しなかったが、「オフロード」モードはエンジン制御だけではなくABSの作動まで変化させるという画期的なもの。雪道に行くと、これがいかに優れているか体感できる。ABSの介入が減って、タイヤの性能を生かし、より減速させることができるのだ。
狭い林道でのUターンやすれ違いでやや大きい車格がデメリットだけど、フラリフラリと撮影旅行に行くには最適なクルマだった。
■主要諸元
フォルクスワーゲン パサート オールトラック TDI 4モーション アドバンス(6速DCT/4WD)
全長×全幅×全高:4780mm×1855mm×1535mm
ホイールベース:2790mm
最低地上高:160mm
車両重量:1680kg
エンジン:直4DOHCディーゼルターボ
総排気量:1968cc
最高出力:140kW(190ps)/3500~4000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1900~3300rpm
燃料/タンク容量:軽油/66L
JC08モード燃費:17.3km/L
タイヤサイズ:245/45R18
価格:594万9000円
〈文と写真〉
三好秀昌 Hideaki Miyoshi
●東京都生まれ、日本大学芸術学部写真学科卒業。八重洲出版のカメラマンだったが、ラリーで頭角を現し、そのうち試乗記なども執筆することに。1995年、96年にはサファリラリー グループNで2年連続優勝。そのほか、国内外で数多くのラリーに参戦。写真家としては、ケニアでの豹の撮影など、動物をおもな題材としている
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