■夢となったベルトーネ製フェラーリ・オープンモデル
イタリア・ミラノへの旅の始まりといえば、日本からの直通便をはじめとする国際線の表玄関となっているミラノ・マルペンサ空港だ。そして日本の成田国際空港に「航空科学博物館」が隣接するように、マルペンサ空港の敷地内にも「VOLANDIA – Parco e Museo del Volo(ヴォランディア航空公園博物館)」と名づけられた、広大な敷地を有する航空機ミュージアムが存在する。
フェラーリの本流ではなかった!? フェラーリ「365BB」誕生の秘密
もともとは、スタジオジブリの劇場アニメ映画『風立ちぬ』(2013年公開)劇中にも登場したイタリアの航空機メーカー「カプローニ」社が、1909年に建築したとされる工場と専用飛行場だった広大な敷地に、旧き良きレンガ造りの工房/格納庫をリニューアルした建物が点在しており、その内外に、20世紀初頭から1970年代に至る航空機の数々が展示されている。
この航空機展示が、素晴らしいものであることは間違いない。しかしこのミュージアムには、自動車エンスージアストにとっても魅力的なホールが存在する。
2018年にスタートした「期間限定企画展」という位置づけではあるものの、筆者がヴォランディアを訪れた2019年10月の段階でも依然として継続開催されていた「ベルトーネ」館である。
この企画展は、2015年に経営破綻してしまった「カロッツェリア・ベルトーネ」が長年所蔵してきた自社コレクションによるものだ。
ベルトーネの破産によって散逸してしまうことを防ぐために入手した、イタリアのクラシックカークラブの総本山「Automotoclub Storico Italiano(略称A.S.I.)」とのコラボレーション企画として、「ランボルギーニ・ミウラ」や「クンタッチ(カウンタック)」をはじめとする、ベルトーネ歴代の名作たちが一堂に会しているのだ。
今回は、ヴォランディアのベルトーネ企画展において遭遇したカロッツェリア・ベルトーネの歴史的マスターピースから、選りすぐりのドリームカー3台をリストアップして、紹介させていただくこととしよう。
●フェラーリ308GTレインボー
まず紹介したいのは、1970年代のベルトーネ製コンセプトカーのなかでも、もっとも有名なもののひとつと思われるフェラーリ「308GTレインボー」である。
ベルトーネが、初めてフェラーリからの正式なオファーを受けてデザイン・生産を受託したモデル「ディーノ308GT4」をベースに、当時2シーターのオープンモデルを模索していたフェラーリに対するプロポーザルとしてワンオフ製作されたコンセプトカーとして、1976年のトリノ・ショーに出品された。
デザイン作業を担当したスタイリストは、この時代には既にスーパーカーの巨匠としての地位を固めつつあった鬼才、マルチェッロ・ガンディーニだ。308GTレインボーでも、シャープ極まる全体像や、斜めにカットされたリア・タイアハウスなど「ガンディーニ・スタイル」が全身にみなぎるようである。
しかし、このコンセプトカーにおける最大の特徴は「変形タルガトップ」ともいうべき、デタッチャブル式のルーフにあると見るべきだろう。
トップ後端を支点に約90度クルリとリフトアップしたのち、運転席/助手席の背後に下降させる。ルーフ前部に設置された、ムーンルーフのような透明スリットは、オープン時の後方視界を妨げないための、実に秀逸なアイデアなのである。
しかし、あまりにもアグレッシブなスタイルが災いしたのか、フェラーリはピニンファリーナのデザインによる「308GTB」をオープン化した「308GTS」を生産化することを決定する。レインボーは、一台のみのコンセプトに終わってしまった。
しかしこの時代のアイコン的なドリームカーとして、カーマニアはもちろん、子供たちの人気も獲得したレインボーは、欧州やアメリカのショーなどにも展示されたほか、日本でも1977年7月15~29日に、東京の晴海旧見本市会場にて開催された「ラ・カロッツェリア・イタリアーナ77」という展示イベントにも出展されていたことを、覚えている人もいるだろう。
■後世のカーデザインに影響を与えた、ベルトーネのコンセプトカーたち
フェラーリ308GTレインボーの登場からちょうど一年後、1977年のトリノ・ショーにてワールドプレミアに供されたジャガー「XJアスコット」は、その2年前にデビューしていたイギリスの高級パーソナルクーペジャガー「XJ-S」をベースに製作されたコンセプトカーだ。
V型12気筒5.3リッターエンジンに代表される、量産向けながら高度なメカニズムを流用したことは、当時としては最良の選択と評されたという。
●ジャガーXJアスコット
ファストバックの2+2クーペとされたボディは、308GTレインボーに代表される同時代のマルチェッロ・ガンディーニ作品が追求してきた独特のデザインランゲージを、大柄なFRクーペに投影したものだ。
いわゆる「ウェッジシェイプ」をそのまま体現したようなプロポーションや、後輪をシャープなデザインのスパッツで覆うスタイルなどにも、1年違いの308GTレインボーと同じラインを感じとることができる。
加えて、それから遡ること10年前、1967年に同じジャガーの「Eタイプ」をベースとしてワンオフ製作し、ランボルギーニ「エスパーダ」のデザイン上のベースとなったことでも知られるジャガー「ピラーナ」を、その作者であるガンディーニが自らモダナイズしたものともいえるかもしれない。
蛇足ながら、大のジャガー・ファンで1992年型XJSを愛用していたこともある筆者にとって、この時のベルトーネ企画展のなかでもっとも惹かれたのが、実はジャガーXJアスコットだったのだ。
●アストンマーティン・ジェットII
2004年のジュネーヴ・ショーにて発表されたアストンマーティン「ジェットII」は、まだ正式発売から間もなかった初代「V12ヴァンキッシュ」をベースとして、より実用性も追求したモデルである。
初代「ジェット」は、アストンマーティン「DB4GT」がベース車両として用いられ、1961年にベルトーネが製作した。当時のベルトーネは、ジョルジェット・ジウジアーロがスタイリストの地位にあった。
ジェットIIは、V12ヴァンキッシュのアルミ合金製スペースフレームをもとに、カーボンファイバー製サブフレームなどを組み合わせることで、ホイールベースを210mm延長。ルーフを後方まで延ばしたことで、小さいながらも後席を設置した。
さらにラゲッジスペースも拡大し、リアゲートも設けたことで、現代の「シューティングブレーク」の先駆けにもなった。
このクルマは、アストンマーティンのカタログモデルとしての採用を目指したコンセプトカーではなく、ごく一部の富裕な顧客を対象に限定生産を促すためのショーケースとして開発されたといわれている。
しかし、残念ながらベルトーネへのオファーは数少なく、この1台のみ、ないしはもう1台のみの製作で終わったとされている。
* * *
今回紹介した3台のほかにも、ヴォランディアのベルトーネ展は、よそではけして見られない素晴らしいコレクションばかりが数十台も展示される。前述したとおり期間限定の企画展とされつつも、少なくとも2020年4月現在で公式HPを見る限りでは、終了に関するアナウンスはない様子である。
したがって、現在全世界を震撼させている新型コロナウィルス感染症の惨禍が終息し、もっとも甚大な被害を被っているイタリアになんとか平穏が戻ってくれたならば、きっと再開されたのちにもしばらくは楽しめると見て間違いないものと期待している。
近い将来、再びミラノを訪れる機会を待ち望んでいるエンスージアスト諸氏には、是非ヴォランディアにも訪問されることをお勧めしておきたい。
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