ハイブリッド車やSUVがターゲットに
text:John Evans(ジョン・エバンス)
【画像】ランドクルーザー、アルファード、プリウス、ヴェゼル【車両盗難被害が多いモデル】 全171枚
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)
英国在住のクリス・キングは、自身のトヨタ・オーリスが2度も窃盗犯に狙われたことにストレスを感じ、クルマを売却して今はバスで移動している。
「最初にクルマの触媒コンバーター(排気ガス浄化装置)を盗まれたのは4月の早朝のことでした。わたしは大きな騒音で起こされました。コンバーターを新しいものと交換してもらいましたが、近所の人はまた狙われるだけだと言っていました。結局、その言葉が現実になりました。3ヶ月後、今度は昼間に戻ってきたのです」
犯人は新しいコンバーターを盗み取り、逃走した。近所の人が携帯電話で犯人グループの写真を撮ったが、全員マスクをして、クルマのナンバープレートを外していた。
英BBCラジオがイングランドとウェールズの警察から入手した情報によると、2019年は1万3000件の触媒コンバーターが盗まれたという(前年は2000件)。しかし、実際の被害はこの数字よりもはるかに多い。
窃盗犯がコンバーターに関心を寄せているのは、貴金属であるロジウム、パラジウム、プラチナが含まれており、その価格が近年急上昇しているからだ。
中でも、最も高騰しているのはロジウムである。2014年には、1オンス当たり約750ポンド(10万円)だったが、現在では9000ポンド(121万円)、つまり金の7倍の価格になっている。
ハイブリッド車のコンバーターは排気ガスによる汚染が少ないため、比較的狙われやすい傾向にある。同時に、最低地上高の高いSUVもボディ下部へのアクセスが容易であることから狙われている。
英国での交換用コンバーターの価格は約1000ポンド(13万円)である。
トヨタのウェブサイトでは、コンバーターの盗難被害に遭ったオーリスとプリウスのオーナーからの報告が掲載されている。
そこでオーナーが問題点として指摘しているのは、保険料の増額(600%になったケースも)と、補償が拒否される場合もあるということだ。中には、メーカー側が消費者に対して注意喚起を十分に行っていないと非難する人もいる。
トヨタによると、盗難を防ぐために、新型車に装着するコンバーターの貴金属含有量を減らしたという。また、コンバーターロック装置やチルトアラームといった対策部品を提供(有料)している。同社は政府や警察と協力して問題意識を高め、法整備を強化しているという。
背景には環境規制の厳罰化も
YouTubeにアップロードされた、コンバーターを盗む様子を捉えた動画は、犯人がいかに図太いかを示している。
まず、窃盗団を乗せたクルマがターゲットのクルマの横に停車する。クルマをジャッキアップしている間、仲間の1人が見張りをしている。もう1人がクルマの下に潜り込んでコンバーターを取り外すると、ジャッキを下ろし、足早に去っていく。この間、約60秒。
盗まれたコンバーターは、無免許の金属スクラップ販売業者や、あるいは中古コンバーターを取り扱っている会社に売られている可能性がある。また、オンラインで販売されることもある。価格はおよそ50ポンド(6000円)から500ポンド(6万円)。
オンラインショッピング大手の1つであるFacebook Marketplace(日本未展開)は、不正な売り手を特定し、ショッピングサイトから盗品を削除するためのチェックを行っているとAUTOCARに語った。
中古のコンバータはまた、リサイクル処理企業に販売されることがある。英国では、毎月約15万台の中古コンバーターがスクラップされている。英国に拠点を置く大手処理業者のFJチャーチは、そのうち最大6万台を処理している。
同社は、サルベージヤードなどからコンバーターを入手し、貴金属を取り出すためにコンバーターを分解する。貴金属は細かく砕いて粉塵にしてから、化学会社やコンバーターメーカーに出荷し、分離とリサイクルを行っている。
FJチャーチの触媒コンバーターの営業担当者であるダフィド・ディランは、ビジネスは活況を呈していると語る。
「中国と米国がこの材料の需要をリードしています。世界中の自動車メーカーは現在、排出ガスの厳しい規制に適合するために、貴金属の含有量を引き上げるよう求めています。ここに投資家が飛び込んできて、価格の上昇を後押ししています」
ディランによると、昨年、FJチャーチは部品の出所を教えてくれないサプライヤーから廃棄されたコンバーターを売り込まれるようになったという。これに対して同社は、各ユニットに関連する車両登録書類のコピーを要求した。
しかし、管理上の都合により、現在では認可を受けた業者とのみ取引を行い、現金での支払いを拒否しているとのこと。
「わたし達は、盗まれたコンバーターの買い手がたくさんいることを知っています。現金取引であれば安価で購入できるとアピールされるからです。それには辟易させられます。地方自治体と環境庁は、悪徳業者の立ち入り検査や取り締まりを強化する必要があります」
その点について、BBCラジオは、2018年に接触した243の協議会のうち、スクラップ業者を検査したのはほんの一部であると報じた。一方、今年2月には、120の協議会が過去28か月間にスクラップ業者を訪問または検査していないことが判明。協議会は財源が限られていると述べ、政府に執行権限の強化を求めている。
自分にできる防犯対策は
ウェスト・ミッドランズ警察の犯罪防止マネージャーであるマーク・シルベスターは、スクラップ業者に対する法制に基づいたチェックが必要だと述べている。
「コンバーターの窃盗は簡単には解決できませんが、スクラップ業者の取り締まりを強化することから始めるのがいいでしょう。排気ガス規制区域やハイブリッド車のシェア拡大などの理由により、コンバータの盗難が増加しています」
「盗まれたコンバーターの多くはインターネット上の販売サイトに出回っているので、わたし達はポップアップ広告を出して不正な部品について警告しています。また、盗まれたクルマが部品を取り出すために分解されている100以上のチョップショップを特定し、家宅捜索しました。怪しいグループがいるという通報があれば警官を派遣します」
残念ながら、冒頭に紹介したクリス・キングの被害(ロンドン南西部)については、証拠不十分を理由に、捜査は行われなかった。
ロンドン警視庁の広報担当者はAUTOCARにに対し、キングの住む地域で触媒コンバータの盗難を認識しており、地元住民による防犯パトロールや盗難防止策のアドバイスなどを行っていると語った。
ただ、すでに愛車を手放し、バスで移動することを選んだキングにとっては遅すぎる取り組みだ。
触媒コンバーター盗難対策
窃盗犯を力づくで倒すのは危険だが、次のようなことをすれば、被害を抑えられるかもしれない。
駐車時は、他のクルマとの間にしっかり停めるなど、窃盗犯が作業しづらい場所を選ぶ。
クルマの動きを感知する警報装置を取り付ける。
コンバーターに固有の番号を刻印し、窓ガラスにステッカーなどでそのことを記しておく。
窃盗犯は昼夜問わず活動するが、できるだけ明るく人目に付きやすい場所に駐車する。
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