レーシングカーを運転するような気分
メルセデスAMG SLS ブラックシリーズから、BMW M3 GTSへ乗り換える。シートへ腰を下ろし、それぞれの位置を確認していくと、今回の3台で最も走りへの期待が高まることに気が付いた。デザインは、少々時代遅れなところがあるけれど。
【画像】運転の喜び ポルシェ718ケイマン RS AMG SLSとBMW M3 GTS 最新GTとM4も 全108枚
シートの座面高は2台より高く、筆者にとって理想といえるドライビングポジションではないものの、特別感に溢れている。レカロのレーシングシートと鮮やかなロールケージが据えられ、レーシングカーを運転するような気分を生み出す。
そのまま発進すると、ハーネスをロールケージに固定する金具が、カチカチとうるさい。防音材も省かれているから、通常の3シリーズとは比較にならないほど車内へ届くノイズが大きい。聴覚的にもレーシングカー的だ。
スピードを追い求めて開発されたモデルは、走行速度がドライビング体験の重要な要素だとお考えかもしれない。だが実際には、ステアリングホイールやブレーキペダルへのフィードバック、クルマとの一体感や姿勢制御、エンジンの反応などがより重要となる。
実際、3台の動力性能は驚くほどではない。SLS ブラックシリーズは0-100km/h加速が3.6秒で、バッテリーEVの瞬発力に慣れてしまうと、際立つ数字とは思えない。
AMG製の自然吸気V型8気筒エンジンは、最大トルクが64.5kg-mと太いものの、5500rpmで生み出されるから少し気張って回す必要がある。とはいえ、鳥肌の立つようなサウンドと加速時の生々しい感覚という、ドラマチックさには言葉を失う。
V8の滑らかで咽び泣くような高音
タコメーターの針が傾くほど、興奮度も高まる。AMGのエンジニアは、あえて低速トルクを抑え、高回転型のピーキーなパワーデリバリーを与えたという。大きなボディに大きなパワーを組み合わせることで、濃密な速度変化を堪能できるように。
英国郊外を飛ばす場合は、アダプティブ・ダンパーを少し硬くした方がいい。通常のSLSより軽量化されているものの、路面の起伏に対して上下動が想像以上に大きい。サスペンションを引き締めれば、落ち着きがずっと高まる。
ステアリングは正確で精密。アクセルペダルの加減でリアアクスルを反応させ、旋回姿勢も調整できる。
それでも、滑らかで幅の広い道の方がAMG SLSを一層楽しめる。ブラックシリーズとはいえ、快適なグランドツアラーという本質は変わらない。
対象的に、変化に富んだタイトなルートを得意とするのが、M3 GTS。手動調整式のコイルオーバー・サスペンションは低く設定されているが、不整の多い路面を巧みに処理する。小さな凹凸を見事に吸収し、グリップへ影響が出る場面は限定的だ。
ステアリングホイールへ伝わる感覚は薄く、操舵感も軽い。7速デュアルクラッチATも、シフトダウン時に反応が若干遅れる。だが、V8エンジンが生む体感がそれらを上回る。ドロドロという重苦しさは一切なく、滑らかに咽び泣くように高音を響かせる。
M3 GTSの最大トルクは44.8kg-mと、2022年の水準でいえば控えめ。5000rpm以上を保ちたいと思わせる。もう少しの刺激が欲しいと感じたことも、確かではある。
本能へ訴える豊かさと痛快なアグレッシブさ
他方、最新の718ケイマン RSの最大トルクも45.8kg-mと大差ないものの、ボディはM3 GTSより100kg以上軽い。4.0L水平対向6気筒エンジンは、回転域を問わず惚れ惚れするサウンドを奏でる。
3000rpm以上回せば、加速力も見事。レブリミットは9000rpmと高く、4500rpmから上では壮大な体験が待っている。AMGユニット以上に本能へ訴える豊かさがあり、痛快にアグレッシブ。素晴らしくパワフルでもあり、1つの理想形といって良いだろう。
そこへ組み合わされるデュアルクラッチATの7速PDKはショートレシオ化され、幅広い回転域を楽しみやすい。クレッシェンドしていくシンフォニーも奏でやすい。変速は電光石火といえるほど素早く、鋭い勢いを保ち続けられる。
さらに718ケイマン RSは、出色のシャシーがその能力を完全に受け止める。確かに乗り心地は硬く、低速域では小さな凹凸の存在をドライバーへ伝えてくる。だが、落ち着きを失うことはない。
操舵感は感動的に直感的で、姿勢制御はミドシップという強みを活かし一切の無駄がない。ボディロールは抑え込まれ、例外的に高いグリップ力が担保される。ミシュラン・カップタイヤの実力も発揮できる。
これらが融合して叶えられる総合力は、舌を巻くほど高次元。他の718ケイマンとは異なり、サーキットが必要だ。
記念すべきドライバーズカー
とはいえ、公道での走りも素晴らしい。高精度な操縦性で、ピタリと狙ったラインを辿れる。ボディは充分にコンパクトで、限られた車線の幅でも左右にボディを寄せていける。車重は軽く安定性も高い。これぞ、運転する本当の喜びだ。
現代のモデルのなかでは、ボディサイズは小ぶり。ポルシェのRSとしては珍しく、718ケイマンの場合は日常的にも乗りやすい。それでいて、至高の体験をドライバーは享受できる。
どんな限定生産のスーパーカーやハードコアな特別仕様を持ってきても、718ケイマン GT4 RSに勝る充足感は得られないのではないだろうか。内燃エンジンの末期に、記念すべきドライバーズカーが生誕したようだ。
718ケイマン RS メルセデスAMG SLS BMW M3 GTS 3台のスペック
ポルシェ718ケイマン GT4 RS(英国仕様)のスペック
英国価格:10万8370ポンド(約1788万円)
全長:4456mm
全幅:1801mm
全高:1295mm(標準718ケイマン)
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:3.4秒
燃費:7.6km/L
CO2排出量:299g/km
車両重量:1415kg
パワートレイン:水平対向6気筒3996cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:500ps/8400rpm
最大トルク:45.8kg-m/6750rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック(PDK)
メルセデスAMG SLS ブラックシリーズ(2013年/英国仕様)のスペック
価格:22万5000ポンド(新車時)
全長:4638mm(標準SLS)
全幅:1939mm(標準SLS)
全高:1262mm(標準SLS)
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:3.6秒
燃費:7.3km/L
CO2排出量:321g/km
車両重量:1550kg
パワートレイン:V型8気筒6208cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:630ps/8000rpm
最大トルク:64.5kg-m/5500rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック
BMW M3 GTS(2010年/英国仕様)のスペック
価格:11万5215ポンド(新車時)
全長:4620mm(標準M3)
全幅:1805mm(標準M3)
全高:1425mm(標準M3)
最高速度:305km/h
0-100km/h加速:4.4秒
燃費:7.9km/L
CO2排出量:298g/km
車両重量:1530kg
パワートレイン:V型8気筒4361cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:450ps/8300rpm
最大トルク:44.8kg-m/3750rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック
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