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ラリーとレースの二刀流 フレイザー・ナッシュ・ミッレミリア モダンな運転体験 前編

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ラリーとレースの二刀流 フレイザー・ナッシュ・ミッレミリア モダンな運転体験 前編

細部へのコダワリが違うフレイザー・ナッシュ

昔はもっとシンプルだった。こんな意見に共感される読者は、少なくないだろう。今回ご紹介するフレイザー・ナッシュ・ミッレミリアは、それを実感させる好例だ。

【画像】ラリーとレースの二刀流 フレイザー・ナッシュ・ミッレミリア 同時期の英製スポーツ ほか 全129枚

トヨタGRヤリスとアストン マーティン・ヴァンテージ GTEを、足して2で割ったようなクルマは存在しない。しかし1954年には、それに近いモデルを選ぶことができた。

多能な1台で英国RAC(ロイヤル・オートモビル・クラブ)ラリーを勝利し、数週間後にオールトンパーク・サーキットのレースでも勝利を狙うことが可能だった。ジャガーXK120やトライアンフTR2、ヒーレー100などは、そんな活躍を披露してきた。

1950年代初頭、第二次大戦を経て、英国の経済もひっ迫した状況にあった。一般的なドライバーが特別なマシンを2台購入することは難しくても、XK120 ロードスターなら1500ポンドでガレージへ迎えることができた。TR2なら、900ポンドだった。

一方、フレイザー・ナッシュ・ミッレミリアは3307ポンドもした。ジャガーより2倍優れていたのかという疑問はあるが、吊るしのスーツと、サヴィル・ロウ通りに面したテイラーで仕立てたスーツを比べるようなもの。細部へのコダワリが違う。

ミッレミリアを観察すれば、フレイザー・ナッシュを創業者から受け継いだアルディントン兄弟によって、細部まで入念に考え抜かれていることが見えてくる。実際、他のモデルにも同じくらい情熱が注がれていた。

サーキットまで自走し、レースを完走する

パートナーを助手席に乗せたロングドライブも、白熱したラリーも、サーキットでのレースも、1台で楽しみたいというワガママな紳士へミッレミリアは作られている。職人による手仕事で。

結果的に魅力的なクルマが生まれたとしても、利益を得るのに充分な台数を生産するには適さない手法といえた。第二次大戦後、同社のワークショップからラインオフした完成車は85台のみ。そのうちミッレミリアは、11台しか作られていない。

フレイザー・ナッシュが重んじた哲学は、サーキットまで自走し、レースを完走し、自宅まで帰ることができるスポーツカーであること。納車後のクルマへ、アップグレードが施されることも珍しくなかった。むしろ、積極的に受け入れたという。

遡ること1930年代初頭、アルディントン兄弟の1人、若きハロルドはブルックランズ・サーキットでモータースポーツの魅力へハマり、アルプス山脈などで開かれた林間を走るトライアル・レースへも積極的に参戦。複数の勝利を重ねた。

その後、フレイザー・ナッシュはBMWの一部を構成したアイゼナハ社の英国ディーラーになり、フレイザー・ナッシュBMWというブランドを設立。第二次大戦が勃発するまで、315や319、328といったモデルが提供された。

再び平和が訪れると、BMW 328に載る直列6気筒エンジンの可能性へ注目。事業拡大のカギになると考えた。しかし、計画の実現には優れた技術者と生産者が必要だった。

BMW 328へ強い影響を受けた量産モデル

そんな折、同じく自動車製造の拡大を目指していたブリストル・エアプレーン社と意気投合。1945年7月に、フレイザー・ナッシュはブリストル側へ吸収され、新モデルの開発が始まる。

結果的に、求めるクルマの方向性が異なり、両社の協力関係は3年しか続かなかった。それでも1971cc 6気筒エンジンの開発は完了し、少なくとも有益な成果は導かれた。

1947年、BMWの自動車部門を率い、シャシーやサスペンション、空気力学などを専門としたフリッツ・フィードラー氏が渡英。アルディントン兄弟とともに、ブリストル・タイプ400の開発へも関わった。

戦後初となる、フレイザー・ナッシュの量産車がお披露目されたのは、1948年10月のロンドン・モーターショー。それがBMW 328へ強い影響を受けていたことは、誰の目にも明らかだった。

当時のロード&トラック誌は、「シリコン・マンガン・チューブラーフレームに、(328と)同じ、横向きのリーフスプリング・フロント・サスペンションを備えています。ブレーキとリアスプリングはアップデートされています」。と紹介している。

実際は、リーフスプリングではなくトーションバーが用いられていた。ステアリングラックは、328と同じくラック&ピニオン式。ブレーキは、冷却用のバックプレートを備えたドラムだった。

トランスミッションとリアアクスル、ダンパーはブリストル社製。直列6気筒エンジンもブリストルで鋳造され、最高出力121ps/5500rpmを発揮した。また、チューニングを施したコンペティション仕様が準備され、大きなレースで結果を残した。

優雅な曲線を描くアルミニウム製ボディ

レッドに塗られた4台目のシャシーは、レーシングドライバーのノーマン・カルパン氏と、アルディントン兄弟のハロルドのペアで1949年のル・マン24時間レースへ出場。総合3位でフィニッシュし、大きな話題を呼んだ。

これを受け、量産仕様はルマン・レプリカと命名。フレイザー・ナッシュのモデルに、レースへちなんだ名前が与えられるきっかけとなった。セブリングやタルガフローリオ、そしてこのミッレミリアなど。

ミッレミリアのシャシーを設計したのは、ドクター・フィードラー氏と呼ばれた技術者。1947年にプロトタイプが作られ、イタリア・ミラノのトゥーリング・スーパーレッジェーラ社へ運ばれ、滑らかなボディがデザインされた。

市民へお披露目されたのは、1948年のスイス・ジュネーブ・モーターショー。1949年のロンドン・モーターショーへ出展された時点で、既にミッレミリアというモデル名を得ていた。

イタリアの公道レース、ミッレ・ミリアで総合6位の入賞を果たしたのは1951年。未来を予見したネーミングといえたかもしれない。

ルマン・レプリカと違い、アルミニウム製ボディは優雅な曲線を描き、ブリストル・エンジンの背の高さを巧妙に誤魔化した。ただし初期に作られた4台は、それ以降とシャシー構造が異なっていた。

トリプル・キャブレターの上に、背の低いエア・インテークが載っている。歴代のフレイザー・ナッシュで最も美しいという評判を、今に残している。

この続きは後編にて。

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