クルマは、常に時代のニーズに合わせて開発をされています。なかには、画期的過ぎたためにユーザーから受け入れられず、販売面で苦戦したモデルも存在。そのような場合、数年後に同じような特徴や機能を持ったモデルがヒットして「あと数年発売されるのが遅かったら売れたのに」というケースもあります。
今回は、出るのが早すぎたと感じられるクルマを3台紹介します。
不人気にもほどがある!? ビックリするほど売れていない軽自動車5選
●ホンダ「ライフ ステップバン」
ホンダは横置きエンジンのFFレイアウトを採用し、360ccの軽自動車でありながら広い室内空間と高い性能でヒット作となった「N360」の後継車として、1971年に初代「ライフ」を発売しました。
空冷エンジンだったN360に比べ水冷化されたことでエンジンの騒音も抑えられ、ヒーターの性能もよくなるなど人気を博します。
さらに多くのニーズに対応するために、1972年にライフと同じプラットフォームを使う派生車種である、セミキャブオーバー型軽規格ライトバン「ライフステップバン」とトラックの「ライフピックアップ」が発売されました。
その外観は軽自動車規格いっぱいまで使った直線基調のボクシーなもので、いまの軽トールワゴンと同様なディテールを確立しており、発売時には他車にない斬新なものでした。
また、当時の軽ワンボックスバンは、フロントシート下にエンジンを置き後輪を駆動するFRレイアウトが主流でした。それに対し、ライフのFFコンポーネントを流用したことでプロペラシャフトが不要となり、フロア高を下げてより多くの荷物を積み込むことが可能としていました。
当時の発表資料を見ると「実用性のなかにも乗用車的感覚が取り入れられており、乗降頻度の多い集配業務からレジャーまで、大きな機動力を発揮して幅広い用途に応えます」と多目的車としてアピール。
1974年にホンダが軽自動車市場を一時撤退したため、ライフ ステップバンは生産を終了します。ところが、使い勝手のよさや、秀逸なデザインが好評で、生産終了後もマニアの間では人気が続きました。
その後、いまのホンダを支える軽自動車「N-BOX」を始めとしたNシリーズは多くのユーザーから評価され、いまでは売れ筋モデルとなっています。
●マツダ「ボンゴフレンディ」
1966年に発売された初代マツダ「ボンゴ」は、キャブオーバースタイルの外観に4輪独立懸架を採用し、RR(リアエンジン後輪駆動)レイアウトで、トラック、商用登録のバン、乗用登録ワゴンの「コーチ」をラインナップしていました。
当時の商用バンではベストセラーとなり、ワンボックスカーの代名詞になります。その後、FR駆動となった2代目では9/10人乗りの「ボンゴマルチワゴン」や、同クラスワンボックスカー初のディーゼル車追加など、幅広いニーズに対応しました。
1995年には「ボンゴワゴン」の後継車として、セミキャブオーバースタイルの「ボンゴフレンディ」が発売。
最大の特徴は、キャンピングカーのポップアップ式テントと同様に、ルーフ部分を電動で持ち上げることで展開される「オートフリートップ」でした。
1列目と2列目シート間の天井にあるアクセスホールから、展開された2階席との昇降が可能で、その広さは大人2人が就寝するのにも十分なスペースとなっており、アウトドア派ユーザーからは高い人気を得ます。
しかし、見た目はセミキャブオーバースタイルながら、エンジン搭載位置は運転席下にある旧来のキャブオーバーFR駆動だったため、床面は高く、高さ方向の制約から室内は広くできませんでした。
FF駆動に変わっていったライバル車たちに比べて室内は狭く感じられてしまい、現在の「車中泊」ブームを先取りしたクルマでしたが販売は低迷し、2005年に生産を終了しました。
■ミニバンの先祖? 日産「プレーリー」とは
●日産「プレーリー」
1982年に日産は画期的なパッケージの5ドアワゴン「プレーリー」を発売しました。
ルーフを高くしたルックスや、コラムシフトにベンチシートの3列シート、開口部が大きなセンターピラーレス構造の後席両側スライドドアによる優れた乗降性や居住性など、現在の国内市場で人気カテゴリーであるミニバンの元祖といえるものでした。
FFセダンベースだったので、低いインパネや大きなガラスエリアの採用で優れた視界を確保でき、運転しやすい構造に仕立てられているのも、きちんと考えられた結果です。
また、当時の「パルサーバン」から転用されたサスペンションのトーションバー・スプリング(ねじりバネ)によって、驚くほどの超低床レイアウトを実現したことで、回転対座シートが備わる3列シート8人乗り、折り畳み式後席の2列シート5人乗り、固定式後席の採用で快適性を重視した2列シート5人乗り、4ナンバー登録の商用バンの3人乗りと6人乗りなど、同じ車種とは思えないほどのバリエーションを展開しました。
しかし、最大のセールスポイントであった「センターピラーレス構造」によるボディ剛性の低さや、最高出力100馬力の1.8リッターと、85馬力の1.5リッター直列4気筒SOHCエンジンの非力さもあり、コンセプトは高く評価されながらも販売数は伸びませんでした。
その後1985年のマイナーチェンジではリアハッチゲートの構造変更によるボディ補強を施し、110馬力を発揮する2リッターエンジン搭載車や4WD車も追加ラインナップしましたが高い評価を得られず、1988年に2代目へバトンタッチ。
2代目プレーリーはオーソドックスな設計のミニバンとなり、パワフルな2リッター直列4気筒DOHCの「SR20DE型」エンジン搭載などにより一時的に販売数は増えたものの、同時期のホンダ「オデッセイ」に勝つことはありませんでした。
3代目では車名が「リバティ」に変更されたことでプレーリーの名前は消えることとなり、さらに後継の「ラフェスタ」になりますが、トールワゴンタイプの方が使い勝手がよいため、最終的には「セレナ」に統合されます。
※ ※ ※
今回、紹介したクルマはどれもコンセプトが明確で、アイデアあふれるものでした。もし、時代の求めるニーズがマッチしていれば売れ筋モデルになっていたかも知れません。
いまのクルマは「失敗できない」という重圧なのか、保守的なイメージすら感じられます。しかし、結果的に失敗してしまったこれらのクルマからは、志の高さがうかがえるのではないでしょうか。
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