■「ミッドシップスポーツの民主化」を担ったMRシリーズの末弟
様々なクルマが誕生しては消えていくのが、自動車の歴史の常。
たとえ発表時に華やかな注目を集めたクルマであったとしても、時代の流れによっては生産終了に追い込まれるケースも珍しくありません。
トヨタがかつて販売していた「MR-S」も、まさに名車になり得た要素を数多く備えていたものの、残念ながら消えてしまったクルマの一台でしょう。
【画像】「フェラーリ」そっくりに改造されたトヨタ「MR-S」が売っていた! 見分けがつくが画像で比較する
MR-Sは1999年10月にトヨタから発売された2人乗りのスポーツカーで、車重が軽く屋根も開くことから、詳しくは「ライトウエイト・オープンスポーツカー」というジャンルに属します。
最大の特徴は車名にも記された「MR(ミッドシップ)」という「エンジンを車体中央部分に配置する駆動形式」を採用している点で、この構造はスーパーカーや特殊なスポーツカーあるいは商用車など、一部を除き限られたクルマにのみ取り入れられている特殊な駆動方式です。
ボディサイズ(前期型)は全長3885mm×全幅1695mm×全高1235mmとコンパクトな車体で、車重も最軽量モデルでは970キロと、1トン切りを達成した軽い車体も魅力的。
パワーユニットには最高出力140馬力を発揮する1.8リッターガソリンエンジンを搭載し、トランスミッションには前期型は5速、後期型は6速のMTを組み合わせるほか、当時としては非常に先進的なセミオートのシーケンシャルマニュアルトランスミッションまで選択できるこだわりようでした。
それでいて車両価格は最も安いグレードで198万円から(当時の税抜き表示)となり、現在からはとても想像できないほどの低価格まで実現していたのです。
そんなMR-Sは、その車名と構造から詳しい人は分かるように、国産市販車としては初のミッドシップカーである名車「MR2」の後継車として誕生しました。
このMR2には初代と2代目が存在しますが、どちらも重量バランスに優れたミッドシップレイアウトによるクイックなハンドリングや先鋭的なデザインから高い人気を誇ったモデルで、その後を継ぐことを担わされたMR-Sも「新時代のライトウエイト・オープンスポーツカー」になるものと、大きな期待が集中したのです。
■重圧と言えるほどの高い期待を背負ったものの…
このように高い期待を一身に背負って登場したMR-Sでしたが、結論から言えば、残念ながら高い評価を得ることはできませんでした。
外装のみならずトランスミッションまで一身するような大規模なマイナーチェンジを行ってテコ入れをしたものの、発売開始から7年後の2007年7月に生産終了となり、後継モデルも現れませんでした。
MR-Sは誰でも扱える小柄なサイズに爽快な運転性能、そして購入しやすい低価格や低燃費、さらに個性的で特殊な構造を一台で実現した、名車になり得る要素をこれでもかと盛り込んだ、間違いなく「かつて無いこだわりを持つクルマ」でした。
幌の開閉構造ひとつ取っても「Z型」に折りたためる設計」としたことで、車内の天井内張りにあたる箇所がオープン中には汚れなくなるなど、当時のライバル車といえるマツダ「ロードスター(2代目)」がまだ採用していなかった先進的な仕組みを採用していました(ロードスターは後の3代目・4代目でMR-S同様の「Z型」を採用しています)。
そんなMR-Sがなぜ爆発的な人気が得られなかったのでしょうか。その理由としては、同車の根本である「手軽にスポーティな走りが楽しめる」というコンセプトが、当時の「スポーツカーを求めるコアなユーザー層」にマッチしなかったのが大きかったのだと思えます。
先述のように前身の「MR2」は、初代の後期モデルおよび2代目は、過給機をプラスし大幅に動力性能を高めたことで、本格スポーツとしてアグレッシブな走りを楽しむ人に高く評価され、愛好家を持つクルマです。
さらに改造し、よりピーキーな操作感を楽しんで乗り続けているオーナーも珍しくなく、そのためMR-SにはMR2後継車として同様の性能が求められ、期待がかかっていた面もありました。
しかし、MR-SはそのコンセプトをMR2とは一変。
扱いやすく誰でも楽しめるスポーティな走りを実現した同車は、エンジン出力が低く“非力”と捉えられたり、無駄のない構造で車重は軽いものの剛性が低く走りに安定性がないなど、「MR2好き」および「本格的なスポーツカー好き」から厳しい評価を受け、その流れもあって高い評価を得られなかったのは不幸なことでした。
またそこに、「2人乗りで広いトランクもなく荷物も積めない」という利便性の低さや、「穏やかで優しげな反面、どこか物足りない」なエクステリアデザインも重なり、本格的な走りを追究しないような一般層からも敬遠されてしまいました。
それでもMR-Sのコンセプトを理解し、素直にドライブを楽しむユーザーは少なからず確実に存在しましたが、顧客層の大半に受け入れられず、7年の後に販売を終了しました。
※ ※ ※
ちなみに、MR-SとMR2は両車とも当時のトヨタの子会社「セントラル自動車」(現:トヨタ自動車東日本)で製造されていました。
トヨタでラインナップされる、れっきとしたトヨタ車ではあるものの、初代MR2はトヨタのエンブレムが車体に装着されておらず、代わりにオリジナルのエンブレムが装着されていたのです。
MR-Sもそれに倣ってかボンネットにはオリジナルのエンブレムのみ装着されおり、外装にはトヨタのエンブレムが一切無い(ステアリングやホイールのみトヨタのエンブレムが刻印)という、シリーズ揃って異色のモデルと言えるでしょう。
そんな当時は高い評価を得られなかったMR-Sですが、今では軽量コンパクトなミッドシップのライトウエイト・オープンスポーツカーは貴重ということもあり、その価値を見直すクルマ好きも増えているように感じます。
中古車相場も値上がりし、程度が良いものなら当時の新車価格に届く200万円を超える個体も見られますが、手頃な価格のものも数多く出回っていますので、「当時は欲しくても事情から買えなかった」という人は、最後のチャンスとしてこの機会に手に入れてみてはいかがでしょうか。
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みんなのコメント
賛否両論あると思うけど、個人的には好き