今でも斬新な装備に迫る!
そこがクルマの楽しさである
俳優・押田岳の「あの“絶版旧車”に乗りたい!」──Vol.7 ホンダ ドリームCB750 FOUR
クルマの基本は、1960年代に完成した、と、言われている。シャシー構造、サスペンションシステム、エンジン、変速機、パッケージ……。これらは。2020年代になっても、大きく変わっていない。
でも、ときどきとってもユニークなアイディアが飛び出してくる。そこがクルマの楽しさだ。
1980年代には、“珍品”と切って捨ててしまうには惜しい技術も多く登場した。1990年代には“1台商業的に失敗すると会社が傾くほどのダメージになる”などと言われたが、1980年代は各社余裕があったのだろう。
理想主義的な技術がけっこう惜しげもなく、という感じで投入された。
(1)トヨタ「ソアラ」(2代目):イージーアクセスドアトヨタ自動車が1986年に発売した2代目ソアラは、新しい技術を“どっさり”というかんじで搭載したモデルだった。電子制御エアサスペンションをはじめ、すべてのガラスが三次元ガラス。当時、多くのクルマはサイドウインドウが平面ガラスだった。
さらに、目の焦点を合わせやすいとされた「スペースビジョンメーター」、ナビゲーションシステムのはしりともいえる「エレクトロマルチビジョン」、液晶パネルをタッチ操作する「マルチコントロールパネル」といった具合。
そのなかでも、いまもあれば便利なのに……と、惜しむ声が少なくないのが「イージーアクセスドア」だ。「狭いスペースでもスムーズな乗降を可能にした」と、トヨタが謳う凝った設計のドアだ。ヒンジに4つのリンクを使うことで、一般的なヒンジと同じようにドアを開けても、開口部を大きくとることが可能になっている。
2代目ソアラのイージーアクセスドア、よく思いついたものだと思う。ただし、ソアラがモデルチェンジしたときに、継続採用されなかったのは、おそらく衝突安全の基準が厳しくなったためではないかと思われる。ヒンジにおいてはより強い強度が求められたのだろう。
シートは8ウェイの調節式であり、見た目もヘッドレストレイント(ヘッドレスト)と一体型になったようなハイバックタイプで、見た目も新しく、かつ贅沢な印象だった。限定発売された「エアロキャビン」はルーフに大きなガラスがはめこんであり、車内の居心地のよさが強く感じられた。
イージーアクセスドアを含めて、クルマに乗ることが楽しくなるような気配りを随所に感じさせたソアラ。いまでも「3000GTリミテッドターボ」が見つかったら欲しい。ずっと欲望を刺激するクルマである。
(2)いすゞ「アスカ」(初代):NAVi-5いすゞは今でこそ乗用車生産を止めてしまっているけれど、1960年代から1980年代にかけてはよいクルマを多く手がけている。いや、多くといっては語弊があるかも。トヨタや日産が数えきれないほどのラインナップを構成しているのに対して、いすゞのランナップは3~4台だった。
でも後輪駆動の初代「ジェミニ」は、当時、クルマ好きが競って買ったような「ZZ-R(」でなくても、ふつうによかった。後輪駆動のすなおな運動性能をもち、パワーステアリングがなかったような気がするけれど、いまでも乗りたい1台。
1980年代なかばに、いすゞはラインナップの刷新をはかった。「117クーペ」(1968年発売)は1981年に、上記の初代「ジェミニ」(1974年)は1985年に、そしていすゞの役員車でもあった「フローリアン」(1967年)は1982年に、それぞれ生産中止となった。どれもものすごくモデルライフが長かった。これも当時のいすゞの特徴だ。
ここで採り上げるNAVi-5(ナビファイブ)は、1983年に当初はフローリアンの後継的なイメージで発売されたフローリアン・アスカに、やや遅れて1984年に搭載された変速機。ひとことで特徴をいうと、クラッチ操作は機械が行う5段マニュアル変速機だ。
一見するとマニュアル変速機と同様のシフトレバーがセンターコンソールにある。これを握るとシフト(ギアチェンジ)の意向ありとコンピューターが判断。マニュアル変速機と同じゲート感のあるレバーを、たとえば2速から3速のポジションへ動かすと、NAVi-5がクラッチを切って、ギヤを入れ替えて、クラッチをつなぐ、という作業をやってくれるのだ。
「従来のマニュアルトランスミッション、乾燥単板クラッチを用い、ベテランドライバーの運転操作や感覚を人間工学的に解析し、人間が手足で行う運転動作の大部分を電気-機械系に置き換え、場合によっては人間以上の操作を行うシステム」
自動車会社の技術者らで加盟するひとが多い公益社団法人「自動車技術会」のホームページでは、NAVi-5のメリットが解説されている。「自動変速、手動変速が選択可能」「燃費がよく、バラつきが少ない」「初心者でもM/Tの運転が容易」「クリープな安全性が高い」「自動変速車で押しがけが可能」とも書いてある。やや意味不明の文言もあるが、推して知るべし、かな。
いすゞはNAVi-5の展開を他モデルにも拡大。1985年に発売した2代目ジェミニをはじめ、商業車の「エルフ」や大型路線バス「キュービック」にも展開した。
さきの自動車技術会のホームページにあるように、NAVi-5はギヤ操作をクルマにまかせてオートマチックとしても使えた。コンピューターが速度やアクセル開度をパラメターとして、ギヤのアップあるいはダウンをおこなうのだ。クラッチのつなぎかたも、丁寧。いすゞの開発陣の気合いの入れ方がよくわかった。
しかしデメリットもあった。エンジントルクがやや細いので、シフトアップが早いと、たとえば箱根のような山岳路ではパワー不足を感じてしまう点。もうひとつは、オートマチック運転をしていると、意図しないタイミングでのクラッチ操作によるショックがわずらわしい点だ。
スポーティな走りがよければふつうのマニュアル変速機、ラクして走りたければトルコン式オートマチック変速機。それがやっぱり一番良い、というのが結論。しかも後輪駆動や全輪駆動には対応できないこともあり、いすゞが乗用車生産に消極的になるにつれ、NAVi-5の将来も閉ざされてしまった。
先述したトラックやバスの業界では、しかし、それなりに評価されたようだ。技術は磨かれ、いまは「スムーサー(最新はスムーサーGx)」の名称で、同社の大型トラック「GIGA」に搭載されている。
(3)スズキ「アルト」(2代目):回転ドライバーズシート1980年代のおもしろさは、ダイハツとスズキを中心とした軽自動車の競争だ。ひとつは、スポーティドライブへの嗜好を持つひとに向けたターボ車の設定。もうひとつは、女性購買層の興味をいかに惹きつけるか。
男性とか女性とか、いまは“不適切”だからぜったいに言わないけれど、当時はさらに“20代」とか“中年”とかまでセグメントが分類されていた。その“20代”に向けてスズキが企画したのが、1984年発売の2代目アルトだ。
2代目アルトの特徴は、リアクオーターウインドウの設定によるガラス面積の拡大、欧州車のようなクリーンなスタイリング、明るい色調の内外装の設定などがあげられる。もうひとつ印象に残っているのが、回転ドライバーズシートだ。
乗降時に脚を拡げなくてもいい、というのがセリングポイント。運転席のドアを開け、レバー操作でシート座面をドライバーのほうにまわせるので、脚を揃えたまま座れる、という仕組み。そののち、シートをまわして前に向ける。
実はこの回転式シート(英語だとswivel seat)を採用したのはアルトが初ではない。1956年にフィアットが「1100TV」なる、いまの目では“ブサかわいい”2ドアオープンモデルに採用している(フロント左右席)。私も実車を体験したことがあります。アルトとおなじような仕組みだった。
ドア開けて、まわして、座って、またまわして、という手順がめんどくさかった。でも、確かにこれだと、乗り降りが楽になって助かる……という人は確実にいたはずだ。
フィアットはさらなる開発は断念したようだけれど、スズキはこのアイディアを進めた。1988年の3代目アルトではスライドドアと回転シートを組み合わせた「アルト・スライドスリム」なるモデルまで発売。衝突安全基準で、シートの固定強度が問題になるまで、技術は発展していったのだ。ここは、スズキのエンジニアリングで尊敬に値する部分である。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
マニュアルでシフトダウンすると、ちゃんとダブルクラッチまで切って
シフトダウンしたのだそうで。
…オガワさん、これ確か「NAVI」誌でテストされてませんでしたっけ…?