「ジーンズのファッション化にも寄与」1953年公開『乱暴者』は最強のトレンドメーカー
1953年、アメリカで『乱暴者(あばれもの)』(原題The Wild One)という映画が公開されました。主演は『ゴッドファーザー』で有名なマーロン・ブランドで、敵役には戦争映画の立役者、リー・マービンというキャスティング。暴走族同士の対立を描いた、いわゆる青春群像+バイクみたいな内容で、後のファッションやバイカーカルチャーに影響を与えたという意味では史上最強のトレンドメーカーだったかもしれません。
【画像11点】「エンジニア鉄板ブランド!」レッドウイング、チペワ、ウエスコの定番ブーツを写真で見る
まず、今でこそ普通にはいているジーンズ。ご承知の通り、そもそもは炭鉱労働者の作業着だったのですが、『乱暴者』の中ではブランド、マービンともにバイカーウェアとして、(ロールアップするなど)じつにカッコよく履きこなしています。当時の若者にはかなりのインパクトがあったようで、以後ジーンズはどんどん一般ファッション化が進みました。
次に、バイカーとは切っても切り離せないライダースジャケットもまた『乱暴者』で暴走族のトレードマーク的に登場。背中にドクロのマークが入ったそれは、イギリスのルイスレザー製なのか、はたまたアメリカのショット製ワンスターなのか、論争がおきるほど話題となりました(結局はアメリカのデュラブル製ということで決着しているようです)。
そして、極めつけにカッコよかったのが足元! 映画が公開されるまで、当時のバイカーでブーツを履いていたのは警官くらいなもので、それとても乗馬用ブーツを着用。その他はレースアップの革靴こそ履いていたものの、とてもスタイリッシュと呼べるものではありませんでした。そこに、ブランドがエンジニアブーツを履いて登場したのですから、バイカーたちはこぞって「その手があったか!」と膝を打ったに違いありません。
バイカー御用達のエンジニアブーツだが、シフト操作に難アリの場合も
これがきっかけで、エンジニアブーツはバイカー御用達になっていくのですが、その形状や性質からすべてのバイク向けというわけにはいかなかったようです。
たとえば、靴底。たいていのエンジニアブーツは滑りづらいラバーソール、イタリアのビブラム製(#700など)がポピュラーですね。そして、ソールとかかとの間にレザーをはさむなど、タフネスを追求した結果、靴底はわりと厚めに仕上がるのです。となると、繊細なペダル操作は難しく、ステップとペダルの位置関係によっては前後シーソー的な動きも窮屈になるかと。つま先を保護する鉄のキャップがついている場合も同様で、繊細なレバー操作には慣れが必要となるはずです。
もっとも、劇中でブランドが駆っていたのはトライアンフ 6T サンダーバードという当時のイケイケモデル(撮影に使用したのはブランドの私物!)でしたが、ステップとペダルの位置関係には相当な余裕が見受けられます。これくらいなら、ゴツいエンジニアブーツでも操作にさほど苦労はなかったことでしょう。一方、マービンが率いる敵役チームはフットボードが備えられたハーレーダビッドソン。まさにエンジニアブーツがピッタリで(劇中では編み上げブーツですが)ハンドシフト+フットクラッチだったりしたら、さらに踏みやすいこと間違いありません。
エンジニアブーツ特有のスタイルや楽しみ方も魅力
さて、乗る車種を選ぶとはいえ、エンジニアブーツはバイカーにとって足元の保護や、耐久性といった面で優れているのは言うまでもありません。ちょっとだけおさらいをすると、甲に備えられたベルトは靴紐と同じくブーツと足の一体感を高め、また筒部にあるベルトはジーンズの裾をブーツインしたときに整えてくれるもの。安価なものは飾りに終わっていますが、きちんとしたメーカー、あるいはオーダーメイドなどした場合はしっかり調節できるようになっています。ちなみに、バックル部分をシルバーなどリッチな素材&デザインにするのもオーダーメイドらしい醍醐味。意外と目立つパーツなので、凝りたい方にはオススメです。
また、前述のつま先保護のカップですが、カップが入ったぶんだけつま先が「ポッテリ」するため好みが分かれそう。ちなみに、パンクロッカーなどはあえてカップが見えるようにして「アナーキー」や「ワイルド」を演出している方もいるようです。
素材は基本的にカウハイド(牛革)が主流。ブラックが定番ですが、今ではキャメルやバーガンディなど個性を追求したカラーも選びやすくなっているかと。当然、レザーゆえの経年変化も「楽しみ」のひとつであり、ツルツルテカテカだけでなく、キズやヒビもまた味わいといえるでしょう。さらに、ファッション性を求めスエードやバックスキン、はたまた珍しいところではワニなどの爬虫類系であつらえる猛者も少なくありません。
■ライディングギアブランドのブーツにも、エンジニアブーツのデザインを取り入れたものがあります。写真はその一例、デイトナの「エンジニアブーツ」。プロテクション機能を高めるなど、よりバイク乗車に特化した仕様となっています。
お薦めエンジニアブーツブランド4選
そんなエンジニアブーツが欲しくなった方のために、おすすめブランドをセレクトしてみました。いずれも、バイカーはもちろん普段ガシガシ履くのにもバッチリ。耐久性や経年変化、はたまたお手入れの楽しみもあるエンジニアブーツ、バイカーならお気に入りの一足は持っていたいもの。ぜひ、気になるメイクスを見つけてください。
1.ZERROWS(ゼローズ)
屈指の国産ブーツメーカーで、バイク乗りでその名を知らぬものはもぐりと言われるほどのブランドです。セミオーダーのカスタムブーツをメインに、さまざまなスタイルをラインアップ。すべて自社工場で徹底的な作りこむ製品は世界中から高く評価されています。すべてのモデルにスチール製トゥボックスを装備しながら、指先に硬さを感じさせない屈曲性など、日本製ならではのきめ細かな工夫や品質は一生モノにふさわしい出来栄えでしょう。
とりわけ、ブランドのスタート時からアイコンとしていまだに人気を博しているのがこちらのエンジニアブーツ「Type 1」絶妙なブーツシルエット、上質なカーフだけが醸す品格など、アメリカ製品とはひと味違った魅力が満載です。
フィッティングや機能性、耐久性も創業時から連綿と研究され、マイナーチェンジ後はグッドイヤーウェルトから独自のダイレクトウェルトに変更。これは軽量化を実現し、また何度でもソールの張替えが可能となる画期的な製法で、ソールの反り返りも良くなるというのが大きなアドバンテージ。これなら、バイクに乗らない方にもヘビーユーザーが多いというのも頷けますね。
当然、お値段も張り、手に入る待ち時間もありますが、それだけの価値があることは請け合い。ぜひ、ショールームで実物に触れ、その存在感、品質をお確かめください!
2.CHIPPEWA(チペワ)
マーロン・ブランドが『乱暴者』の中で履いていたのがチペワのエンジニアブーツ。1901年創業という老舗中の老舗アメリカブランドで、原型となった「イングリッシュ・ライディング・ブーツ」のリリースはなんと1937年にリリースされたもの
他のアメリカ製品を尻目に、品質や仕上げに対するこだわる姿勢もまたファンが多い理由でしょう。たとえば、大量生産のグッドイヤーウェルトながら、チペワはソールとアッパーを縫い付ける出し縫いも、しっかり縫い目を揃えるなど見た目もじつに美しいのです。
また、多くのブーツメーカーが使用しているビブラム社のラバーソールですが、チペワはそこに別注をいれ、デザインや用途にあわせてカスタム。なので、ソールにはビブラムとチペワのダブルネーム仕様となっており、このあたりも所有欲を満たしてくれそうです。
現在ではABCマートが輸入代理店となっているため、入手しやすくなり、偽物をつかまされる心配もありません。おまけに、価格もお手頃となり、エンジニアブーツ・ビギナーにもおすすめしやすいものといえるでしょう。
3.WESCO(ウエスコ)
1939年に機械作業用安全靴としてエンジニアブーツをリリースしたアメリカのウエスコ。チペワと並んで、世界のツートップと呼んで差し支えありません。90年代には「ボス」のペットネームが与えられ、バイカーはもちろんファッションリーダーたちをも魅了し続けています。
革の裁断から縫製、ソールの取り付けまで一貫して自社工場にこだわるクオリティは、まさにアメリカの伝統ともいえる仕上がりを見せ、耐久性や屈曲性を高次元で実現。なかでもステッチダウンと呼ばれるアッパー、ミッド、そしてラバーソールを直接縫い合わせる製法は気密性やソールの剥がれを防ぐウェスコだけの技。ビブラムソール(#100)とのコラボによって、足に馴染みやすく歩きやすいというメリットを生み出しています。
そして、ウェスコのブーツを手に入れるならぜひチャレンジしてほしいのがカスタムオーダー。サイズ調整、つま先の形状はもちろん、レザーやステッチのカラーなど無数に用意されたメニューから、自分だけの一足をゲット。それこそ、孫の代まで語り継ぐことができる逸品で、ぜひアナタのバイクライフに加えていただきたいものです。
4.RED WING(レッドウィング)
エンジニアブーツを紹介する中で、忘れてならないブランドが同じくアメリカのレッドウィングでしょう。キムタクやドラマの影響もあって、ひところブーツといえばレッド・ウィング一択という時代もありました。
もちろんアメリカでも大人気で、1950年代レッドウィングのカタログには10種以上のエンジニアブーツが用意されていたほど。また、靴底から履き口までの高さを11インチと高めのデザインにしたのもレッド・ウィングが先駆け。足首部分を細く絞ったデザイン(レッドウィング社内ではストーブパイプと呼ばれています)など、普遍性はそのままに、上手にトレンドを取り入れるのは老舗ならでは、といったところ。
ご紹介する#9268は90年代に大人気を博した#2268のリバイバルといえるモデルで、使い込んでいくうちに黒いレザーの下に茶色の芯地が見えてくる(茶芯)レザーを再び使っているのが大きなポイント。さらに、伝統のストーブパイプデザインも踏襲し、レッドウィングのファンならずとも欲しくなる一足といえるでしょう。
エンジニアブーツは、バイカーの足元をきめてくれるだけでなく、ファッションアイコンとしてこれからも普遍的な魅力を保ち続けることでしょう。持っていない方は、ぜひ一足手に入れてください! すでに持っている方は、今度はオーダーメイドに挑戦してみてはいかがでしょう。ここでご紹介したものなら、いずれもバツグンの満足度ですからね!
レポート●石橋 寛 写真●SPE(ソニー・ピクチャーズ)、デイトナ、トライアンフ、チペワ、ぜロース、ウエスコ、レッド・ウイング
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