クルマの燃費表示が大きな転換点を迎えている。
基準となる測定モードが従来の「JC08モード」から、世界的な新たな燃費基準である「WLTCモード」へと切り替わり、一部車種は先行して2017年中頃から表示を開始し、すべての乗用車の新型車(完全な新型車およびフルモデルチェンジ車)は2018年10月1日から表示義務化を実施。そこからすでに半年が経った。
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しかし、まだまだ新車が少ないこともあり、WLTCモードが浸透しているとは言い難い。
そこで、従来の燃費規準であるJC08モード燃費に対して、WLTC燃費の現状はどうなっているのか? 実燃費とも乖離(かいり)は、JC08モードからWLTCになって少なくなったのか、モータージャーナリストの岩尾信哉氏が解説する。
文/岩尾信哉
写真/ベストカーWEB編集部
■2020年9月からWLTCモード燃費に完全移行!
新型クラウンは、2.5Lハイブリッドの2.5RSアドバンスはJC08モードが23.4km/L、WLTCモードが20.0km/L。ガソリンの2.0RSはJC08モードが12.8km/L、WLTCモードが12.4km/Lとガソリンエンジンのほうが差が少ない
新たな燃費測定法である「WLTC」(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)は「乗用車等の国際統一試験法」とされ、2017年中頃から一部の車種にWLTCモードが表示された。
2018年10月以降の日本国内で新たに発売される車両は、輸入車を含めてWLTCモードでの燃費表示が義務化され、2020年9月以降はJC08モードの記載はなくなり、WLTCモードで計測された燃費のみがカタログに記載される予定だ。
現状ではWLTCモードの燃費を計測した車種から順次JC08モード燃費と併記してカタログに記載されているが、後に示すようにWLTCモード燃費のみを記載している場合もある。
まず、マツダがほかの日本メーカーに先駆けて、2017年6月にCX-3のガソリンエンジン搭載車を手はじめに現行車種のWLTCの計測値の公表を進めている。
新型RAV4、2.5LのハイブリッドGはWLTCモード燃費が20.6Km/L、JC08モード燃費が25.0Km/Lと4.4Km/Lも違う。ちなみに市街地モードは18.1Km/L、郊外モードが22.4Km/L、高速モードが20.7Km/L
■WLTCモード燃費はJC08モード燃費とどこが違うのか?
WLTCモードに変わり、カタログ燃費と実燃費が近くなったと実感するだろう
WLTCモードの測定試験の特徴は、車種ごとに3つのモード、「市街地モード」、「郊外モード」、「高速道路モード」が設定されていることだ。従来の計測モードよりも実際の走行条件に近い状態で測定されるため、従来の計測方法よりも実燃費を推定できるとされている。
具体的には以下のような走行モードを想定している。
●市街地モード:信号や渋滞等の影響を受ける比較的低速な走行
●郊外モード:信号や渋滞等の影響をあまり受けない走行
●高速道路モード:高速道路等での走行
ところで、WLTCと合わせて「WLTP」という用語を目にするが、「WLTP」は「Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure」の略で、「乗用車等の国際統一排ガス・燃費試験法」を意味する。
国際的に整合性の取れた標準的な試験方法を確立することで、国や地域ごとに個別に決められていた排ガスや燃費の試験方法を統一して、一度の試験で多くの国での認証に必要なデータが取得可能になるメリットがあり、「WLTC」は「WLTP」による具体的な燃費試験とその結果となる。
■シャシーダイナモでモード燃費を計測
シャシーダイナモによってモード燃費が計測される
ここでいわゆる「モード燃費」について触れておきたい。モード燃費、いわゆるカタログ燃費はメーカーが国交省から型式認証を受ける際に承認される燃費値であり、カタログに記載が義務化されているため“カタログ燃費”とも呼ばれる。
JC08や新たに導入されたWLTCのデータは、試験機であるシャシーダイナモメーターを使用して、シャシーダイナモのローラー上で一般的な実走行を模した運転パターンで走行試験を実施することで、燃費と排ガスの量や性質を測定する。
当然ながら試験モードは、より実走行に近づけるように日本の交通事情の変化に応じて見直しを受けてきた。とはいえ、実際に路上を走行して燃費や排ガス量を高い精度で計測するのは、試験結果が運転条件によって大きく変わるので難しい。
モード試験では、常に同一条件で試験されることが大前提となる。まず、事前に試験車両の走行抵抗を計測し、シャシーダイナモメーターに実走行相当の抵抗や負荷を設定する。
この場合、試験室の温度と湿度、試験車の暖機状態、空気抵抗を考慮して車速に応じた送風など、環境条件を常に共通として、実走行により近い条件を作り出すことになる。
■実燃費との乖離(かいり)はJC08モードに比べて少なくなったのか?
WLTCモード燃費はJC08モードに比べ燃費が悪くなる傾向にある
JC08とWLTCの試験方法は大きく異なる。最高速度はWLTCが97.4Km/h、JC08モードが81.6Km/h
WLTCモードは別表のように、JC08モードに比べて「最高車速が高い」「加減速が多い」「走行時間や距離が長い」といった特徴がある。
このほか、重要なポイントは4つある。まずアイドリング時間が減少すること。アイドリング時間比率はJC08モードの29.7%から15.4%と14.3%も減少する。
次にクルマのエンジンが温まった状態で試験を行うホットスタートがなくなること。
JC08モードではホットスタートが75%で、エンジンが冷えた状態からスタートするコールドスタートが25%の比率で燃費を算出していたが、WLTCではコールドスタート100%になるのだ。
試験車両の重量の違いについてもJC08モードとWLTCモードは大きく違う。JC08モード燃費では2名乗車による+110kgであったのに対して、WLTCモードでは1名乗車+荷物相当の100kgに、そのクルマの積載可能重量+15%にして審査を行う。そのため、WLTCモードのほうが重量の重い状態で試験をすることになる。
また、JC08モードの「等価慣性重量(燃費試験時のシャシーダイナモメーターに設定する負荷)」において、ステップ状に設定された区分(重量)に合わせて、特定のグレードのみ軽量化し、軽い区分にギリギリ滑り込ませるような手法は、今後できなくなる。
WLTCモード燃費の試験車両の重量が大幅に増えているのがわかる
国土交通省としても、ステップレス化によって、燃費スペシャルグレードが生み出されることへの歯止めになると考えているとのことだ。
JC08モードとWLTCモードの計測方法の違いをまとめると以下のようになる。
1/試験車両の重量の増加
2/平均速度が上昇
3/最高速度が上昇
4/走行時間、距離が増加
5/アイドリング時間が減少
6/コールドスタートのみ
7/加減速の増加
8/燃費スペシャルグレードがなくなる
過去に遡れば、従来のJC08モードによる測定が義務付けられたのは2011年4月(輸入車などの一部は2013年3月)と10年近く前になるのだから、ハイブリッド車の増加などを考えれば、新基準の導入は当然ともいえる。
結局、JC08モードからWLTCモードに変わると、燃費が悪化するのか?
国土交通省と資源エネルギー庁が共同で行っているワーキンググループが発表した資料によると、ハイブリッド車や軽自動車(アイドリングストップ機能付)などの、JC08モード燃費がいいクルマほど、WLTCモード燃費が悪化し、30km/L超のクルマでは、5km/L以上悪化という結果が出ている。
要因としては、WLTCモードが冷機状態から試験を開始するため、オイル粘度が増加し摩擦損失が増大するためと考えられる。
特にハイブリッド車は、低速時にEV走行するのでより暖気が遅れ、さらに触媒温度を上げるために、エンジン作動時間が増えることで悪化しやすくなる。
またアイドリングストップすることで燃費を稼いでいたクルマも、その時間が短縮されるため燃費が悪化するとのこと。アイドリングストップなどの機能を搭載しないクルマのほうが、相対的によくなることも考えられるそうだ。
■実燃費テストでわかったWLTCモード燃費との乖離!
今回WLTCモードに挑む3台。カテゴリーもエンジンも違う3台だが結果はいかに!?
JC08モード燃費と実燃費との乖離(かいり)は30~40%と言われているが、ではこの新しく導入されたWLTCモードは、より実燃費に近づくということなのだろうか、実際にベストカー本誌が行った実燃費テストの結果を紹介しよう。
WLTCモード燃費と、実燃費がどれほどの乖離があるのか、2018年9月26日、自動車評論家の鈴木直也氏とベストカー編集部員とで、国交省が採用している実路走行試験のコースで燃費テストを行ったのを改めて紹介しよう。
この試験コースはかつてのディーゼル車の燃料不正問題の際に、国交省が採用したコースを踏襲している。コースは以下のとおり。
【市街地】
交通安全環境研究所(東京都調布市)~関越道練馬IC(東京都練馬区)までの26.2km
【高速道路】
関越道練馬IC~鶴ヶ島IC(埼玉県鶴ヶ島市)までの30km
【郊外路】
鶴ヶ島IC~熊谷さくら運動公園(埼玉県熊谷市)までの27.1km
これらをすべてつなげた83.3kmが今回の測定コース。用意したクルマはWLTCモードが公表されているカローラスポーツ(1.2Lターボ)、フォレスター(2.5L NA)、クラウン(2.5ハイブリッド)の3台だ。
【テスト車両WLTCモード燃費】
■カローラスポーツ:12.9km/L(市街地)、18.2km/L(高速)、16.9km/L(郊外)、16.4km/L(複合)
■クラウン:17.2km/L(市街地)、20.9km/L(高速)、20.8km/L(郊外)、20.0km/L(複合)
■フォレスター:17.2km/L(市街地)、20.9km/L(高速)、20.8km/L(郊外)、20.0km/L(複合)
走行は通常の感覚で走行することを心がけ、走行モードは全車最もエコなモード、エアコンは25℃に設定した。
まずは市街地コースのテストだ。試験当日は雨がぱらついており、交通量も多かった。市街地ゆえ、赤信号による停止や交差点付近での渋滞でアイドリングの時間が増える。
また都心の山手通りではアップダウンが目立ち、エンジンが多く回転するシチュエーションも目立った。
走行中、クラウンを担当する編集部梅木からレシーバーで「クラウン、リッター18km出てますが、そちらはどうですか?」という連絡が入る。
カローラスポーツもフォレスターもリッター10km前後だったため、倍近い差に驚く鈴木氏と編集松永。
市街地でのWLTCモード燃費に対する達成率は、カローラスポーツは85%、フォレスターは90%、クラウンは102%と、WLTCの数値を上回った。
次のテストは高速道路コースだ。高低差はあるものの、そこまで急激ではなく、流れにのって一定速度で巡航できた。
フォレスターとカローラスポーツは市街コースと比べて燃費がかなり改善。クラウンはエンジンで走行するシチュエーションが増えたため、市街コースからの燃費改善は2km/Lにとどまった。
高速道路コースでのWLTCモード燃費達成率は、カローラスポーツは97%、フォレスターは100%、クラウンは94%となった。
ここまではWLTCモードの燃費と実燃費の差は小さい状況だが、郊外だとどうなるのか。郊外コースは信号と信号の間の区間が長く、制限速度いっぱいで巡航できた。
標高差はあるものの、なだらかなアップダウンのため、比較的エンジンへの負担が少ない。試験中、クラウン担当の鈴木氏から「クラウン、リッター28km出てます」との報告が。
一同、トヨタのハイブリッドシステムの燃費に改めて感心する。カローラスポーツ、フォレスターもこの条件は得意なようで、高速道路コースに近い燃費を叩き出した。
郊外でのWLTCモード燃費達成率は、カローラスポーツは99%、フォレスターは97%、クラウンは117%となった。
参考として、熊谷さくら運動公園から都内文京区の編集部までの帰宅ルートについても報告したい。
花園インターから関越自動車道に入り新座料金所まで進んだあと、一般道を進み文京区音羽にある講談社ビーシーまでの約83kmの道のりだ。
高速道路の区間は35kmとテストルートより長いほか、高速道路を降りたあとも郊外コースに近い道路状況だ。
このような条件の違いもあり、結果として、3台ともWLTCモードの数値より高い燃費でゴールした。
熊谷さくら運動公園~講談社ビーシーまでのWLTCモード燃費の達成率は、カローラスポーツは103%、フォレスターは116%、クラウンは107%となった。
今回のテストをまとめた表。トヨタのハイブリッドが優勢かと思いきや、フォレスターも達成率では非常に優秀な数値だ。各パワートレインの弱点もわかりそう
■WLTCに続くRDE燃費計測が2022年10月から始まる!
欧州で行われているリアル・ドライブ・エミッション(RDE)の走行テスト。日本では2022年10月から乗用ディーゼル車のRDE規制が始まる
別の燃費規準改定の動きとして、欧州では2017年9月からWLTCとともに、実際の路上走行の排ガス低減を目的としたRDE(Real Driving Emission)規制が導入されている。
きっかけとなったのは、VWディーゼル車の排ガス不正問題だ。2015年9月に米国の環境保護局(EPA)がVWグループに対し、大気汚染防止法の違反を通知した。
ディーゼル車で組み込まれていた不正プログラムは「Defeat Device(無効装置)」と呼ばれ、走行パターンを分析してモード試験を受けていることを検出すると、その場合のみ排ガス中の有害物質の排出量を低減するように仕立てられていた。
このような不正ソフトの使用は過去にも多くの事例があったが、今回のように大量の車種に利用した例はなかった。
VWディーゼル車の不正プログラムは、エンジン回転やステアリングの挙動から、モード運転中か、一般の路上走行中かを判断して、路上走行の場合はEGRを減らす(NOxを大量放出)等の操作によって、走行性能を確保するという内容だった。
そこで一気にEU、特にドイツでの試験方法としてRDE試験が採用されることになった。
この試験法では、排ガスなどの計測機器を試験車両に搭載することで、日常的に使用するすべての運転条件が排ガス試験の対象としている。
例えば、車速だけでなく減速や標高や外気温なども幅広く規定され、条件に合致した一般道を実際に走行し、排ガスを車載排ガス分析計であるPEMS(Portable Emissions Measurement System)と呼ばれる装置で計測する。
WLTCはこれまで現実の燃費に近づくことを目指したモード燃費改善の最新の努力の成果だが、ディーゼルの排ガス不正が発覚したことで、RDEの役割が大きくなった。
国土交通省は2018年3月に道路運送車両法の「保安基準の細目告示」の改正によって、乗用ディーゼル(乗車定員9人以下、車両総重量3.5トン以下)の新型車は2022年10月から、継続生産車は2024年10月からRDE試験法の適用を開始することを発表した。
このように、国交省が先日発表した、直噴ガソリンエンジンのPM排出量の規制強化をはじめ、どうやら排ガス規制強化の流れは新たなフェーズに入ることになったようだ。
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