「いま、買うと一番【頭よさそう】と思われるSUV」、テスラ・モデルX(編集部員がイメージで認定しました)。テスラ唯一のSUVであり、ガルウィング(テスラいわく「ファルコンウイング」)で、もちろんフルEV。
注文から納車までの期間が長いとかそもそも高いとか、いろいろ言われているけれど、性能について言及している人は意外と少ない。
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そこで当サイトでは、実際にテスラ・モデルXで東北まで走り、雪上性能を確かめてもらった。
ちなみにテスラ・モデルXにはバッテリー容量や装備が違う3つのグレードがあり、「75D(最大航続距離417km)」で1041万円、「100D(同565km)」で1241万円、「P100D(同542km)」で1780万円となっている。
文&写真:塩見智
■安心して走れてこそ普及する
多くの人にとって手が届く価格のリーフでEVを普及させようと取り組む日産に対し、高性能、高価格の大型EVによって人々を驚かせることで世間の耳目をEVに集めるテスラ。
日産がリーフの大容量(60kWh)バッテリー版の追加発売を予告するいっぽう、テスラが北米で低価格で普及型のモデル3を発売したことで、両者が性能的にも価格的にもクロスするゾーンが生まれつつある。(決してBMW i3の存在を忘れているわけではないが)これまで事実上リーフの孤軍奮闘だった普及価格のEVジャンルに、対決の図式が見られるようになるかもしれない。
ただし、ここ日本で普及を目指すなら、EVは道を選ぶべきではない。一年のうちの3分の1を寒くツルツルの雪上でカーライフを送る地域が日本には多数ある。こういう地域でも安心して使えてこそ日本にEVが根付くというもの。重い大容量バッテリーを積むことと、バッテリーが寒さに弱いのではというふたつの理由から、EVは寒い地方に適していないという説を聞くことがある。確かにスマホやPCは寒いとバッテリーが急激に減ったり、突然シャットダウンしたりすることがあるが、ということはEVも?
そのことを確かめるべく、テスラ・モデルX 75Dで雪国へ出向いた。
■トルクがありすぎて雪道では使いづらいのでは?
モデルXは、彼らが「ファルコンウイングドア」と呼ぶ、いわゆるガルウイングのリアドアが特徴的な5~7人乗りのSUVだ。
全長5030mm、全幅2070mm、全高1680mm(リアドアをめいっぱい開けたら2020mm)、ホイールベース2960mm。車両重量は2352kgと確かに重い。
モデル名の「75」はバッテリー容量75kWh(リーフは40kWh)を意味し、「D」はデュアルモーター、つまり前後軸にひとつずつ駆動用モーターがある4WDであることを指す。価格は1041万円~。テスト車にはノキアンタイヤのスタッドレスタイヤ「ハッカペリッタR2」が装着されていた。
フィンランドのタイヤメーカー「ノキアン」製のスタッドレスタイヤ「ハッカペリッタR2」
より怪力でバカッ速いバージョンもあるが、75Dはシステム出力333ps、最大トルク525Nmとテスラにあっては文化的。それでも2.3トンの巨体を0-100km/h加速5.2秒の実力をもつ。
テスラに限らず、EVは発進と同時に最大トルクを発するため、発進の瞬間のダッシュ力はたいていのエンジン駆動車よりも力強い。それはリーフでも、軽自動車の三菱i-MiEVでもそう。ビュッと出る。それが最大トルク525Nmもあると雪道で扱いにくいのでは? という心配も試乗前には少ししていた。
■アクセルオフでかなり減速。これが便利
樹氷で有名な山形蔵王へ赴き、雪上走行を試みた。
結論から記すと、モデルXは雪上で安心感のある挙動に終始した。雪国に向いているとはっきり言い切ってしまおう。
まず4WDで絶対的なトラクション能力が高い。スリップしやすい春先特有のシャーベット状の重い雪が積もった路上からの発進でもホイールスピンゼロ。あえてややラフにアクセルを踏んでみても、オンデマンド方式ではなく最初から4輪にトルクがかかっているので、アンチスピンデバイスに頼ることなくクルマがスッと前へ出る。
ただしトラクション能力の高さはEVかどうかとはさほど関係ない。低ミュー路でEVが強みを発揮するのは減速時だ。エンジン駆動車のエンジンブレーキよりも強い減速Gを発する回生ブレーキが作動するため、アクセルオフだけでかなりクルマの速度を殺すことができる。これが便利。ただでさえ緊張する雪上ドライブで、ドライバーが毎回ベストな(フット)ブレーキングをするのは難しい。長いドライブの間に思わず強く踏みすぎてスリップのきっかけをつくってしまうことはベテランドライバーにだってある。その機会が大きく減るのは大きなメリットといえる。
ところで、エンジンブレーキ同様、回生ブレーキは駆動輪にしかかからないため、2WDよりも4WDのほうが減速は得意だ。ということは、FWDしか設定のないリーフの雪上での実力は大したことないのかと思いきや、さにあらず。リーフに備わるe-Pedalが2WDの不利さをカバーして余りあるはたらきを見せる。どんなクルマでもアクセルペダルを踏めば加速、戻せば減速する。リーフの場合、アクセルオフでの減速Gが一般的なクルマのエンジンブレーキの強さや他のEVの回生ブレーキの強さを大きく超え、最大で0.2G程度に達する。減速は車両が停止するまで続き、停止後、ブレーキペダルを踏んでいなくても停止状態が保持される。
e-Pedalは、アクセルオフに際して、強い回生ブレーキに加えて(必要に応じて)通常のブレーキング(ブレーキディスクをつかむブレーキング)が加わるため、強い減速を得られる。つまりドライバーはアクセルペダルを戻すだけで、毎回クルマが勝手にベストなブレーキングをしてくれるというわけ。前述したように回生ブレーキが駆動輪のみにしか作動しないのに対し、e-Pedalは4輪でブレーキングする。
■雪上においてはEVの減速能力の高さが生きる!
もちろん、EVで4WDのモデルXや、2WDだがe-Pedalが備わるリーフじゃなくてもEVは総じて雪上で有利だ。
ひとつは(車種にもよるが)回生ブレーキがエンジンブレーキよりも強い傾向にあるため、ドライバーがブレーキペダルを踏んで行うブレーキングの機会が減るから。
もうひとつはアクセル操作に対する反応が極めてよいため、低ミュー路での微妙な加減速をコントロールしやすいから。ただし、バッテリー搭載のせいで車重そのものは重いため、限界を超えてグリップを失ってしまうと止まりにくいというデメリットは覚えておく必要がある。
EVと寒さの関係については後編にて。
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