米国生まれの、ワイルドな自転車
日々の生活で自転車を使うシーンを思い浮かべると、街中の舗装された道を走るイメージが強いと思いますが、砂浜や雪道など、いわゆる悪路と呼ばれる道を走るために存在している自転車もあります。なかでも道を選ばず、野山の激しい凹凸道や、勾配のきつい坂を上ったり下ったりすることに特化した種類が「マウンテンバイク(MTB)」です。
いまでこそロードバイクと並んでスポーツ自転車を代表するMTBですが、意外なことにその誕生は比較的新しく、仲間内のノリから生まれたという経緯を持つユニークな存在です。
現代ではクロスカントリーやダウンヒル、エンデュランス、オブザーブド・トライアルなど、MTBもさまざまな種目に応じて進化しているため「これがMTBだ!」と決めるのは難しいのですが、ざっくりとカテゴライズするなら、一般的な自転車に比べてかなりゴツい仕様になっているのが特徴です。
高速走行よりも悪路での走破性が求められるため、頑丈さや耐久性を重視し、フレーム自体が太く、地面のグリップ力を高めるために表面がごつごつしたブロックタイヤを装着しています。また、地面からの衝撃を吸収するためのサスペンションを装備するなど、その機能性からワイルドな見た目となっています。
自転車200年の歴史のなかで、MTBが誕生したのは約50年前。現代と同じような機構を持つ折りたたみ自転車が1890年代には実用化されていたことを考えると、意外と最近になって誕生しました。
ちなみに、現代の定説では自転車は約200年前のドイツで誕生してフランスで発展し、イギリスが世界に普及させたとされています。その流れの先でMTBが50年前のアメリカで生まれたという事実は、歴史ロマンを感じさせてくれます。
MTBの誕生は、場所もはっきりしています。アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のマリン郡が発祥の地です。1970年代、ヒッピーカルチャーの影響を受けた若者たちが自前の自転車を持って郊外の山に集まり、未舗装の山道を下ってタイムを競うという、スリリングで向こう見ずな遊びを仲間内で繰り広げるようになります。
当初は比較的頑丈な実用車や、ビーチクルーザーというシンプルな自転車に太めのタイヤを装着したり、すでにモーターサイクルで盛んになっていたモトクロス競技用の車体からパーツを流用した改造自転車を使っていたので、一回山を下れば故障しているような有様だったようです。映画『マッドマックス』シリーズを思い起こさせる雰囲気でしょうか。
そして次第に新スポーツとしてルールなどが整備され、仲間の輪も広がり、自転車も進化を続け、1970年代後半になるとゲイリー・フィッシャー、トム・リッチー、ジョー・ブリーズといった、MTB創始者と呼ばれるレジェンドたちが専用のフレームを開発し、それが今日のMTBのはじまりとなります。
その後、1980年代になると大手自転車メーカーもMTBを生産するようになり、なかでも1981年に米国のSPECIALIZED(スペシャライズド)社から発売された「スタンプジャンパー」は、新しいスポーツ、そしてカルチャーの波及とともに大ヒットし、MTBが世間に定着する大きな役割を果たしました。
MTBは日本でも1980年代後半から90年代にかけて大きなブームとなり、その後ロードバイクの人気に押されて一時下火になりましたが、現在では当時のクラシカルなMTBのパーツを集めて自分好みの一台を組み上げるという、なかなか通な趣味にハマっている人たちもいます。
仲間内のノリから生まれた自転車は、現代でも同じ好みを持つ仲間を繋ぐアイテムとして活躍しています。
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みんなのコメント
まあ色々無茶な使い方して自転車には過酷だったかもしれないが、おかげでその頃身につけた基礎技術は、今でも自転車やバイクに乗る上でとっても役立ってる。
上からかっ飛ばしてくるのだけはやめて欲しい。