1974年にデビュー以来、コンパクトFF車のベンチマークであり続けるフォルクスワーゲン ゴルフ。日本でも間もなく8代目となる新型が発表されるが、その前に初代から現行型までのゴルフを振り返ってみたい。今回は、3代目ゴルフのバリエーションについて語ろう。
ゴルフシリーズ初のワゴン「ヴァリアント」も登場
ゴルフ3は、バリエーションを増やしたのがひとつの注目点だった。それでもプラットフォームを共有する兄弟車をたくさん持つようになった近年と比べれば、はるかに少なかったが、ユニークな6気筒エンジンを加えるなどゴルフ ファミリーは着実に勢力を拡大していた。
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ゴルフ3の導入から2年たった1993年には、ゴルフ ヴァリアントが登場。意外にも思えるが、ゴルフとして初めてのワゴンボディだった。4ドアハッチバックのリアサイドドアまで共用して後部を延長したボディで、全長は320mmほど長い。背景としては、この頃ヨーロッパでワゴンの需要が高まっているということもあった。
同じ1993年には、オープンボディのカブリオが発表されている。ゴルフ カブリオはゴルフ1ベースのものが長く生産されており、ゴルフ2を飛ばしてゴルフ3カブリオへとモデルチェンジした。ひき続きカルマン社で仕立てられたが、幌が電動開閉式になったのが新しかった。
GTIは、エンジンが2Lに拡大された。この頃は、排ガス対策のために導入された触媒の影響で高出力車の出力が下がり気味だった時代で、2バルブのふつうのGTIの場合、最高出力は115psにすぎなかった。モデルチェンジ直前の先代GTI(1.8L/107ps)よりは増強されていたとはいえ、近年のGTIが同じ排気量2Lながら200psを大きく超えていることからすると、ずいぶん控えめだった。とはいえ、その後追加された16バルブ仕様では150psまで強化された。
また、この世代のGTIにはディーゼルエンジンも搭載されていた。1.9Lのターボディーゼル(TDI)であり、出力は110psとそれなりだったものの、過給のディーゼルによって分厚いトルクを持ち合わせていた。GTIにディーゼルが搭載されたのはこのゴルフ3と次のゴルフ4だけで、それ以外ではGTDを名乗っている。
GTIに関しては、ゴルフ3と続く4の時代は比較的おとなしい印象だったが、新たに目玉となる高出力モデルが誕生した。それがV6エンジンを積むVR6である。このエンジンは15度というバンク角の狭いV6エンジンで、バンク角といってもふつうのV型エンジンのように、左右にシリンダーヘッドが分岐しておらず、3気筒ずつがオフセットしながらも、ひとつのシリンダーブロックで収まっている特異なエンジンだった。ドイツ語の「v-motor(V型エンジン)」と「reihenmotor(直列エンジン)」の頭文字をとって、VR6と命名されており、文字どおりV型と直列の性質を合わせ持つのが特徴である。
これが開発されたのは、直列4気筒横置きのFFを用いるゴルフで、大排気量化やマルチシリンダー化を実現するためであり、全長が短く狭いエンジンルームに狭角V型エンジンが難なく収まっていた。
排気量は2.8Lあったが、最高出力は174psと比較的抑えめで、その理由のひとつとして2バルブということがあった。シリンダーヘッドが1つしかなく、その狭いスペースに6気筒を詰め込んでいるので、4バルブにするのが難しかったのだ。カムシャフトはこの1つのヘッドに対して2本あるので、フォルクスワーゲンはこれを「DOHC(ダブル オーバーヘッド カムシャフト)」とアピールしていたが、実際はV型エンジンの両バンク用にカムシャフトが2本あるということなので、事実上はSOHC(シングル・・・)であった。そんなことから、このVR6エンジンは回して痛快なエンジンではなく、トルクこそ太いもののジェントルなエンジンとなっていた。
メーカーもそこは理解しており、GTIの上に来るスポーティなハイパフォーマンスモデルとしては位置づけなかった。ただ、のちの時代にこの狭角V6エンジンは、3.2Lまで拡大され、4バルブ化も実現されることになる。さらに、これを2つ組み合わせて、W型の8/12/16気筒が開発され、グループ内のアウディ、ベントレー、ブガッティなどの高性能化に多大に貢献することになるのだった。
このほか、生産化には至らなかったが、WRC参戦用4WDモデルが1993年頃に試作されており、現在でもフォルクスワーゲンで動態保存されている。A59と呼ばれる試作車は、芳しい活躍ができなかった先代のゴルフ2ベースのラリー ゴルフに替わるべきもので、2Lターボを搭載して275psを発生していた。冷却用の風穴だらけのフロントまわりや、オーバーフェンダー、エアロパーツ類などで武装されたボディワークは競技用マシンして迫力十分で、実戦投入されなかったのは残念であった。(文:武田 隆)
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