FIAのF1委員会は、来たる2025年シーズンに向けて、過酷な状況下でドライバーを冷却するシステムの導入を承認した。このシステムはどんなモノが検討され、どのように機能するのだろうか?
先日、F1委員会の最新会合の結果が発表され、2023年カタールGPでの酷暑でドライバーの体調不良が続出したことを受け、2025年から新たなドライバー冷却規定がF1ルールに追加されることが明らかになった。
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motorsport.comが7月に明らかにしたところによると、FIAはこのようなシステムの開発に取り組んできており、初期設計では簡易型のエアコンのようなシステムを導入することを目指しているという。
2024年の技術規則に追加された緊急措置で、ドライバーに向かうエアフローを改善するため、マシンのコックピット前部に2つ目の冷却インレットスクープを設置できるようになっている。
しかしこれは義務ではなく、実際に全チームが今年そのようなパーツを装着しているわけでもない。一方、2025年以降のF1イベントで気温がFIAが設定したしきい値(まだ定義はされていない)に達した場合、全車がこの新システムを装着しなければならない。
セッション中の気温が常に30℃を超えるような場合、コックピット内の温度はすぐに50℃を超えてしまう。オープンコックピットで涼しそうに見えても、空力の効果でドライバーに直接風があたることはほぼなく、マシンからの熱に晒されることになるのだ。
F1委員会の発表には新システムの設計に関する詳細は含まれていなかったが、motorsport.comの調べでプロトタイプがどのように機能するのか、いつテストされたのか、そして2025年の完全導入に向けて何が変更される可能性があるのかが明らかになった。
■プロトタイプの仕組み
FIAは当初、新しいドライバー冷却システムを2024年オランダGPのプラクティスセッションでテストする予定だったが、雨に見舞われてしまった。同時にFIAのエンジニアたちによるシステム設計の追加変更も進行していた。
そのため、最初のテスト走行は先月のメキシコシティGPのFP1に延期され、匿名のチームとドライバーひとりがテストに参加することになった。
当初は簡素化されたエアコン・ユニットを載する予定だったが、開発作業中にエンジニアが2025年までには解決できない実装上の問題に直面したため、このシステムの導入は見送られたという。その代わりメキシコでテストされたシステムでは、氷のブロックが熱交換を行ない、その液体が配管システムを経由してドライバーが着るベスト部分にポンプで送られるようだ。
そのため2025年に使われるプロトタイプに関してはエアコンというよりも、クールスーツに近いモノになりそうだ。
システム全体の重量は5kg以下とされているが、現在進行中の開発作業(2024年のF1最終戦ではさらにサーキットでのテストが予定されている)中に重量が増加する可能性は否定されていない。
重量増を補うため、マシンとドライバーの最低重量要件はそれに応じて増加する可能性が高く、現在の上限はマシンとドライバー含めて798kgだが、2025年には800kgに引き上げられる予定だ。
この装置は、コックピットサイドの構造とボディワーク、あるいはコックピットそのものに取り付けることができる。
このテストに参加したドライバーは、システムが冷却という点で意図した結果を確かにもたらしたと報告しているようだ。しかし、メキシコでの1時間という短いセッションで、テストがどのくらい続いたかは不明である。
■将来、システムがどのように改良されるか
motorsport.comがF1の現行および今後の技術規則を分析したところ、チームはFIAプロトタイプの独自バージョンを開発することが許されるようだ。
また関係者によると、外部サプライヤーが製造し、チームが必要に応じて購入する冷却システムの仕様が特許を通じて公開される可能性もあるという。
現在のF1レギュレーションでは、ドライバー冷却システムについて「物質の気化潜熱や昇華潜熱を利用する」と規定されている。
さらに蓄熱されたエネルギーの活用もまた、新しいシステムの設計で許可されることになっている。ただし、何らかの形でエンジン冷却の追加手段として使用することができない場合に限る。
したがって理論的には、すでにテストされているアイスブロック方式ではなく、すでに冷却された物質を含む冷凍タンクを取り付け、パイプを通してドライバーの冷却ベストに送ることもできる。
motorsport.comの調べでは、同じような冷却効果を得るためにファンシステムを介して冷却された空気をドライバーのレーシングスーツに送り込む、まったく別のシステムを導入することも可能だという。
チームはまた、液体冷却ポンプシステム用の冷凍タンクに必要なコンデンサーに空気を供給するためにファンを利用することもできる。
チームがどのようなシステムを選択するにしても、空気、水、または熱伝導率を向上させるために水で希釈した特定の化学物質のみを使用することが規則で義務付けられており、ドライアイスの使用は明確に禁止されている。
2025年以降、チームはコックピット周辺のフロアかノーズを経由して、ドライバーに直接空気を送るために追加の穴を開けることも認められるが、その面積は合計1000mm²を超えてはならない。
現行の技術規則第14.6.3条にはすでに、『クーリングスーツまたはバラクラバ』の使用に関する但し書きがあり、『関連するFIA防護服規格に適合したものでなければならない。また、皮膚に触れても安全であることが確認されたクーラントのみを使用することができる』と定められている。
■ドライバー冷却装置が必要な理由
ドライバー冷却システムのプロトタイプの開発は、2023年のカタールGPでドライバーたちが31~32℃の気温の中で走り、かなりの苦痛を味わったことを受け、FIAが安全規則を適応させることを宣言したことに続くものだ。
うだるような暑さの中、F1のコックピットに拘束されたドライバーはテクニカルで高速なレイアウトのコースを走り、高いGフォースを受け続けることになった。
ウイリアムズのローガン・サージェントは体調不良でリタイア、アルピーヌのエステバン・オコンはヘルメットの中で嘔吐。アストンマーティンのランス・ストロールは一時気を失った。
FIAは昨年10月に発表した声明で「このようなシナリオが繰り返されることを避けるため、今すぐ重要な措置を講じる」ことを即座に約束した。今季のカタールGPは12月初めに開催されるが、2023年のカタールGPは10月上旬ともっと開催時期が早く、気温もかなり高かった。
初開催だった2021年のカタールGPは11月下旬の開催で、気温は終始26℃ほどだった。
冷房システムにエアコンを義務付けるという当初のアイデアについて、2024年のハンガリーGP後に質問を受けたメルセデスのルイス・ハミルトンは、「必要ない」と断言した。
「これがF1なんだ。こういうものなんだ」
「このコンディションは厳しいけど、僕らは高給取りのアスリートだからね。この暑さに耐えられるようにトレーニングを積まなければならない」
「特にカタールやシンガポールのような場所に行くのは簡単ではない。でも、クルマにエアコンユニットは必要ないと思う」
今季のカタールGPはより涼しいコンディションになると予想されるため、レーサーへの苦労は減るだろうが、ドライバーたちの意見がF1の運営に反映されていないとの指摘が絶えない中、このようなシステムの開発はFIAにとって前向きな一歩となる。
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