車を開発するうえで「疲れにくいこと」は鍵となる。疲れにくさを左右する要素は、多岐にわたる。では自動車メーカーは、新車を開発する際、どのような部分を重視しているのか?
今回は、本田技術研究所の研究員さんへの取材により、疲れにくい車の条件をあげてもらった。特に疲れにくさを左右するのは、視界・シート・メーター類だという。
【メーカーは隠したい??】最小回転半径が意外に大きい車の事情、小さい車の理由
自動車開発の最前線にいる、研究員の方の“考え”とは?
文:ベストカー編集部、国沢光宏
写真:Adobe Stock、HONDA
ベストカー 2019年6月10日号
視界「よく見えることで疲れを軽減」
疲れないクルマとは視界が開け、前がよく見える車の条件だという。写真はフリードの前方視界
運転席の空間は、人が落ち着くバランスに形成され、保たれています。
座った位置からステアリング、ペダル、ボタン類などを操作しやすくしていますけど(体格差や国による地域差も考慮)、「疲れない」ことを大前提に開発しています。
それとともに重要なのが視界。前が見づらいことはストレスにつながりますから。
私たちが研究しているのは、フリードのような「明るく、爽快な視界」。運転席からの見上げ角度が広がり、はっきり見える前方視界に。形状を最適化したAピラーや三角窓が要因で、これにより快適な運転ができ、疲れることはありません。
また、ボンネットが見える、ということも疲れない要素になります。取り回しのよさにつながり、駐車場で停める際も見えたほうが不安材料が取り除かれ、疲れませんよね。
「見える」と先ほどから言ってますけれど、いい視界により「認知する」が生まれます。見えると認知するは違いますから。
クルマは「認知→判断→操作」で動くので、最初の認知がスムーズだと快適になり、疲れないクルマになります(もちろん後方視界についても同じ)。
その認知の前に「予測」があり、自分の予測どおりにクルマが動けば快適ですよね。それも「爽快な視界」があればこそ、です。
(村上誠人 研究員)
シート「自然と顔が前を向く形状に」
【図1】ホンダが提唱する「疲れにくいシート」の考え方の一例。シートの快適さは座り心地だけでなく、操作しやすさからもきている
疲れにくさ=快適さに大きく関わるのがシートです。
【図1】の左上部分にもありますが、「疲れにくいシート」とは自然に運転姿勢をとることができ、ドライバーの体に優しい支え方をするシートです。
極端なピンポイント(体の一部)ではなく、体全体を優しく支えるのが疲れにくいシートであり、理想のシートといえるでしょう。
体幹を安定させるのもドライバーを疲れさせない、いいシートの条件。腰から太ももにかけての体幹を安定させるわけですが、その太ももの裏側は神経が多いので、50~60代からは特に長時間運転には注意が必要です。
というのも、右足はペダル操作を頻繁にするのであまり問題はないけど、ずっとシートに置いている左足がポイント。シートからの圧迫により足のしびれの症状が出ることも。そのために座面の前部の形状を工夫するなどしています。これにより疲れも軽減されますね。
また、運転中はつい前かがみになり、顔が下を向きがち。危険ですし疲れます。その対策として、顔が自然と前を向くような背面のつくりへとしています。
シートの素材としては、すべらず、摩擦がある程度発生する素材がいい。乗っている人を安定させるから。つまり疲れないということ。本革より布のほうがいいと思います。
(櫻井篤実 研究員)
メーター類「優しい見え方にこだわり」
【図2】ホンダが考える見やすいメーターの一例。メーターは遠くに、見る角度は小さいのが理想
私どもでは「瞬間認知」「直感操作」を大切にしており、メーター類でもこの考えは注入されています。それには【図2】のように「メーター位置を遠くへ、見下ろし角度を小さく」し、視線移動を少なくすることが大切です。
また業界的に、“優しい見え方”となるカラー液晶のメーター類が増え続けており(大型化も増加中)、このことも疲れないクルマに大きく寄与していると思います。
そして、とにかくストレスなくメーター類を読めること。疲れないクルマの重要なカギです。
その要素としては、【1】「見やすい文字書体の検証」。書体により見え方がさまざまなので……。【2】「表示の整理」。安全技術も加わり、最近のクルマは表示が多い。見やすくするために間(隙間)のとり方やサイズ感を変えて、どこを優先して読ませたいのかという工夫も。
そして、【3】「黒地に白色表示が見やすい」。弊社の以前のクルマで黒地にオレンジ色のメーターのモデルがあり、お客様に不評の声も。「疲れる」という声もありました。それを改善し、現状は黒地に白色表示が基本です。
最後にヘッドアップディスプレイ。「読ませるのでなく感じさせる」、目を使わせないための工夫です。例えば追突しそうな時の警告としてオレンジの光がパッパッと点滅。危険を感じさせる演出ですね。
(保田宗洋 研究員)
運転して疲れない現行国産車は?
では、実際に運転して疲れにくいのは、どの車なのか? 自動車評論家の国沢光宏氏が解説。
◆ ◆ ◆
中高年になると、厳しくなる3大要因といえば、【1】乗降性、【2】視認性、【3】事故を起こしたくないという気持ち……、だと思う。それぞれ紹介してみよう。
まず乗降性だけれど、シート高と密接に関係してくる。1番厳しいの、低くてシートが奥にあるスポーツカーです。こらもう乗り降りする度に「よいしょ!」という声を出したくなるほど。
かといってよじ登るようなシート高もアカン。適当な高さのSUVとかがベストだと考えます。
視認性だけれど、加齢とともに首の“捻り角”も少なくなり同時に億劫になっていく。ピラー太かったりすると、死角大きくなるため、何度も首を捻らなくちゃならん。
視認性いいクルマだと1度の確認ですむ。特にイヤなのが、リアの死角大きいクルマだ。駐車場から出て行く時など、直角じゃなく斜めというケース多い。Cピラー太いクルマだと「カンベンしてくれ!」と思いますね。
そして3つめの事故を起こしたくないという気持ちは、加齢とともに強まっていく(70歳すぎると逆に強気になる先輩方が多いです)。
考えてほしい。クルマ関連のトラブルで最も滅入るのは事故。こらもう大小に関わらずイヤだ。
ということで、運転支援システムの性能悪いクルマになど、少なくとも私は絶対に乗りたくないです。新車で買うのなら、安全装備テンコ盛りのモデルを選ぶ。
以上の視点から、選んでみたのが以下であります。
疲れに影響する予防安全性能、ドライビングポジション、視認性で高い実力をもつ新型RAV4
【1】最もストレスなく乗れるのが新型RAV4である。自動ブレーキシステムは日本車No.1。オプション設定になっている斜め後方の安全確認システムを付けておけば、全周の安全性を確保できます。
ドラポジよし。視認性もよし! 中高年が買うならパワフルなハイブリッドがいい。
【2】続いてCX-5。これまた自動ブレーキに代表される運転支援装置の性能が高く、着座高もちょうどいい感じ。70歳以上じゃなければ、ボディサイズだって気にならないレベルかと。
【3】けっこう楽チンなのがリーフ。安全装備万全。しかも電気自動車って街中を走っていてストレス少ない。やっぱりエンジンかからないってステキだと思う。
【4】安全装備で少し物足りない部分もあるけれど、アウトランダーPHEVは中高年に素晴らしく優しい。なんせ乗っていて楽しいし、奥ゆきがあるのだった。
これまた自動ブレーキ性能でやや遅れを取ってしまったものの、視界のよさやドライビングポジション、さらにコストパフォーマンスまで考えると魅力的であります。
【5】ボディの小ささは、使い勝手のよさに結びつく。軽乗用車を考えているなら自動ブレーキ性能の高いN-BOXでしょう(新型デイズとeKは未試乗なのでコレ)。
【6】最後に軽トラックで自動ブレーキ付く、ハイゼットトラックを挙げておく。安心走行をともなう働くクルマである。
(文/国沢光宏)
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