フェラーリのリザーブドライバーとして今年FIA F2に参戦するオリバー・ベアマンは、2024年シーズンの残りの期間でハースF1に好印象を与え、来季のF1フルシートを勝ち取ることが自身の課題であると認識している。
虫垂炎にかかったカルロス・サインツJr.の代役として、フェラーリからサウジアラビアGPで鮮烈なF1デビューを飾ったベアマン。エミリア・ロマーニャGPからは今季のF1での“メインミッション”を開始した。
■「まだやり残したことが沢山ある」マグヌッセン、ハースF1残留の意向示す。次期チームメイトに求める条件は“分別”?
ベアマンは既に2023年シーズン、フェラーリ製パワーユニットを使用するハースからメキシコシティGPとアブダビGPでFP1に出走。今季はハースと契約を結び、計6回のフリー走行1回目に出走する。
そして今年のエミリア・ロマーニャGPのFP1でベアマンは、ケビン・マグヌッセンのマシンを駆って15番手タイムを記録した。
セッション後半には、マグヌッセン担当のレースエンジニアであるマーク・スレイドからの「アップデートが少なかった」ものの、ベアマンはハースが「いい仕事をしている」とみなしていたからだと聞かされたという。
エミリア・ロマーニャGPに向けて、ハースF1の小松礼雄代表はイモラでのベアマン起用を「彼と仕事をする絶好の機会です」と語った。
「そして、彼がどのような状態にあるのか、どの位置にいるのか、何が強みで何が弱みなのかを見極めます」
昨年のメキシコですぐに意気投合したというベアマンについて、小松代表は熱くそう語った。
「彼をどう伸ばすことができるか、また我々がもし望むのであれば、どう仕事をするかを見ることができます。だから、これはかなり良い就職面接の状況ですね」
しかし昨年のFP1出走、そして突然のF1デビューというタスクをやってのけたベアマンに関して小松代表が語った言葉の背景には興味深いモノがある。
「私はマシンなどに不運が起こることを望んでいる訳ではありませんが、どこかで彼は壁に直面すると思います」と小松代表は言う。
「彼の思い通りにならないことがあるはずです。マシンの問題なのか、イエローフラッグやレッドフラッグの状況なのか、何なのかは分かりませんが、その時に彼がどう対処するのか、危うい状況に立たされた時、彼がどう集中し限界を引き出せるよう行動するか、ということです」
平たく言えば、小松代表はF1ドライバーが直面しうるあらゆる困難……華やかなモノや良いモノ、悪いモノや醜いモノ、コース内外の問題にベアマンがどう立ち向かえるのかを見たいのだ。
それを裏付けるように、エミリア・ロマーニャGPの木曜日に行なわれるレギュラードライバーのメディアセッションの前に、ハースはベアマン専用の取材枠を設けた。来季ザウバーへの移籍が決まっているニコ・ヒュルケンベルグも到着時に、ハースのモーターホームに集まったジャーナリストの数に驚いていたという。
ベアマンはメディアの取材に対して、次のように語って注目を集めた。
「もちろん、チャンスだと思っている。でもシートが空いているからといって、僕にその権利がある訳じゃないんだ」
「まだ僕はF2に出て、良いパフォーマンスを発揮して勝ち取る必要がある。でもそれ以上に、6回のフリー走行で良いパフォーマンスを発揮して、来年F1に飛び込む準備をしなきゃいけない」
ベアマンは他の質問でも印象的な受け答えを残した。ベアマンはF1サウジアラビアGPへの参戦によってF2ジェッダ戦を欠場することとなったが、それによってF2シーズンが影響を受けているという指摘に反論したのだ。
「第一、今シーズンこれまでのところ、ペース面で苦労したとは思っていない。バーレーンはちょっと特例だ。昨年だって本当に苦戦したからね」とベアマンは言う。
「ジェッダではポールポジションだったし、オーストラリアではフロントロウを獲得したのに僕のエンジンがブローした。だから、いくつかのマイナス要因で優勝争いから脱落してしまったんだ」
そしてベアマンは、2024年のフェラーリSF-24とハースVF-24の比較に関する雑な質問もサラリと受け流した。
「違うクルマだと言うけど、予選ではコンマ3秒差だ」とベアマンは冷静に答えた。
「結局のところ、大したことじゃない」
「特性についてはよく分からないけど、昨年のハースをドライブした限りでは、特徴はかなり似ていた。シミュレータでも、大きな違いはあまり感じられない。もちろん、F1でこのコース(イモラ)を走るのは初めてだし、マシンではなく、それが最大の違いになると思う」
全体的に、ベアマンはやる気に溢れている。今でも“退屈な時”には、サウジアラビアGPの放送を見返し、代役参戦の興奮を味わい直しているという。
どのような仕事でも言えることだが、ベアマンもフルタイムでF1の反復作業をこなしていけば、若さから来る熱意は失われていく。しかしそうなることが今のベアマンの目標であり、夢なのだ。
ヒュルケンベルグの移籍が決まったハースからすれば、フェラーリ育成のベアマンを2025年シーズンに起用することが望ましいと言えるだろう。
小松代表も、ベアマンがF2で何を達成するかよりも「彼と一緒に何をするかに重きを置く」と語っており、ベアマンにとってもハースでの活躍を優先させるのが賢明だろう。しかし、それも簡単ではない。
話は2017年に遡るが、当時フェラーリ・アカデミー・ドライバーだったシャルル・ルクレールは、ハースのF1マシンとGP3(現在FIA F3)マシンの乗り換えに苦労したことで、GP3タイトルが危ぶまれるということがあった。
今年F2で2年目を迎えたベアマンは、F2との併催がないグランプリ、もしくはテストでF1プログラムを実施できるよう意図して要求した。
実際、NetflixのF1ドキュメンタリー『Drive to Survive』の密着取材を受けるエミリア・ロマーニャGPでベアマンは、F2のフリー走行でクラッシュを喫するという、厄介で恥ずかしいスタートを切った。
ベアマンはF2のフリー走行終盤、タンブレロシケインの第2セクションでリヤのコントロールを失い、そのままアウト側のバリアに正面衝突。フロントウイングとフロントサスペンションを破壊してしまったのだ。
そしてベアマンはハースに好印象を与えつつ、F2ランキングを挽回するという挑戦に挑んでいるが、必ずしもヒュルケンベルグの後任になることが決定している訳ではない。ハースは依然、2名の来季ラインアップを確定していないのだ。
ハースを去るヒュルケンベルグはベアマンに対して「間違いなくポテンシャルがある」と語ったが、ベアマンが後任になることが決まっているのかという質問に対して「必ずしも僕のである必要はないよね?」とも指摘した。
「(シートは)ふたつあるんだ」とヒュルケンベルグは語った。
2024年末でケビン・マグヌッセンもハースとの契約が一旦満了を迎える。加えて彼はペナルティポイントの累積によって出場停止処分の一歩手前という危機に瀕している。
マグヌッセンは「出場停止処分を受けないよう気をつける」として、これまでとは異なるドライビングをすると語っていたが、ベアマンはまた“サプライズ招集”があった場合に備えて「準備はできている」と語った。
「サウジで僕は、準備万端だということを証明した。もし招集がかかったら、喜んで飛び込むよ。もちろん、何かが起こってレースをするというのは望んだ形じゃない」
「でも、もしそうなるなら、僕は喜んでそれに応じるよ」
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