四輪では軽自動車を中心に、らしさを感じさせる個性的なクルマを世に送り出しているスズキ。そんなスズキは四輪だけでなく、二輪や船外機など幅広い製品を手掛けていることをご存じの読者も多いだろう。
そんなスズキの二輪は、多くのファンから支持を受けており、熱烈なファンになると「鈴菌/スズ菌に感染した」なんて会話が交わされるくらいディープだ
個性派揃いは四輪だけじゃない!! マニアが大歓喜! スズキのバイクの奥深い世界
今回はそんなスズキのバイクに試乗し、自身もスズキの魅力に痺れたと語る筆者・西村直人氏が、スズキのバイクの魅力を語ってもらう。
これからバイクに乗ろうと思っている方、リターンライダーでもう一度乗ろうかと考えている方も、もうすでにどっぷりはまっている方も、ぜひその世界をのぞいてみていただきたい!
文/西村直人
写真/SUZUKI
■あなたもスズ菌にうなされてみる!? 他社と一線を画すスズキの二輪
スズキには今も昔も変らず熱心な2輪ファンが多いが、彼らは「鈴菌/スズ菌」の熱にうなされているという……。
もちろんこれは親愛の情を込めた例えだが、なぜのめり込むのか? スズキの最新大型スポーツツアラーバイク「GSX-S1000GT」(税込み159万5000円)に乗って考えてみた。
2022年2月から国内で発売が開始されたスズキ GSX-S1000GT。精悍なシルエットを持つ大型スポーツツアラーだ
まず見た目。GSX-S1000GTはいかにもスポーツモデルのそれだが、ヘッドライトからスクリーンにかけて鋭く、そしてユニークな造形にはスズキらしい独創性が光る。灯火類はすべてLEDだから夜間もシャープだ。
スズキの大型バイクといえば名実ともに「ハヤブサ」が有名。300km/hを超える走行性能に加えて、低く長く構えたスタイルに世界中のライダーが魅了されたわけだが、ハヤブサ以外にもスズキには特筆すべきデザインをもつバイクが多い。
1980年代の原付スクーター「ジェンマ」シリーズ、1990年代ではショーモデルそのままのフルカバードボディ250cc「SW-1」や、2000年代では250ccスクーターとなった新生「ジェンマ」など。ほかにもたくさんあるが、いずれも他社とは一線を画すエッセンスが満載だ。鈴菌は時代とともに進化する。
■GSX-S1000GT試乗から見えたスズキのバイク造りへのこだわりとその魅力
スズキの大型バイクといえば写真のハヤブサが思い浮かぶ。このハヤブサをはじめとして、スズキには特筆すべきデザインをもつバイクが多い。GSX-S1000GTもそのうちのひとつだ
試乗したGSX-S1000GTは、イメージカラーの鮮やかな「トリトンブルーメタリック」をまとう。この車体色はスズキのMotoGPマシン「GSX-RR」と同色で、ホイールカラーも同じ。マニアならずとも思わず振り返る存在感がある。
スペックにも心躍らされる。直列4気筒998ccは150ps/1万1000rpm、105Nm(10.7kgm)/9250rpmと4輪車の基準からすればとてつもなくハイパワー。ゼロから200mまでの加速は6.64秒、400mでも10.15秒と、吊るしの日産「GT-R」を軽く上回る速さだ。
それでいて「令和2年国内排出ガス規制」や最新の「二輪車加速走行騒音規制」(ともに厳しい値)にもしっかり適合する。
もっともスズキのピュアスポーツバイク「GSX-R1000R ABS」は197ps、同排気量で競合モデルのヤマハ「YZF-R1」シリーズは200ps、ホンダ「CBR1000RR-R FIREBLADE」に至っては218psでいずれも車両重量はほぼ200kgだから飛ぶように走る。
比べてGSX-S1000GT(226kg)は150psだからおとなしく見えるが、日々2輪車に乗るライダー歴34年の筆者(西村直人)であっても公道では扱い切れない大パワーだ。
しかし、後輪1輪で150psを駆るGSX-S1000GTは拍子抜けするほど乗りやすい。「電子制御スロットル」、いわゆるスロットルバイワイヤーをはじめ、各種電子デバイスを統合制御する「スズキインテリジェントライドシステム/S.I.R.S.」によって、扱いやすさと速さが両立するからだ。
具体的には、3つの出力特性が選べる「スズキドライブモードセレクター/SDMS」の有用性も手伝って、渋滞路から高速道路までシーンを問わず安心して楽しい走りが堪能できた。モード変更は左の手元スイッチ操作で走行中も可能だ。
筆者は普段、ホンダ「CBR1000RR ABS」、「VFR1200X DCT」、「XR250」、ヤマハ「シグナスX」に乗るが、CBR含めていわゆるリッタークラスのスポーツバイクはスロットル操作に対し敏感に反応する。
だから、タイヤが冷えている時や雨天など、滑りやすい状況ではとくに気を使う。その点GSX-S1000GTはグランドツアラー(≒GT)らしく柔軟性に富んでいた。
スズキの開発陣によると、「大型バイク初心者でも安心して扱えるよう開発を進めながらエッジも残すなど、発売日(2022年2月17日)の直前までSDMSの設定を煮詰めました」というが、まさしく電子デバイスの相乗効果は絶大で、ライダーの運転操作を細かくシステムが読み取りながら、リアルタイムで出力調整してくれる。
こうした人に寄り添うGSX-S1000GTの走りには「スイフトスポーツ」のような奥深さがある。しかし、ライダーはそれを取っつきやすさと感じるから、まさか自分がヤラれているとは思わない。じわる鈴菌、恐るべし!
ちなみにGSX-S1000GTのパワーユニットはGSX-R1000Rの2005/2007年モデルである通称K5/K7がベース。だから、ガツンとスロットルを捻ればお腹がキューと締め付けられるくらい速い。この豹変ぶりも個人的にはヤラれポイントだった。
ライディングポジションも優しい。アグレッシブなスタイルなのにハンドル位置は高くて幅が広く、安定感が強め。必然的に視界がひらけ周囲の交通環境に目を配りやすい。ミラーも見やすく、上半身を捻転させた目視による安全確認もやりやすい。
最新技術の数々を取り入れた乗りやすいバイクかと思えば、ガツンとスロットルを捻れば驚くほど速い。これもGSX-S1000GTの大きな魅力だ
自社の風洞設備でテストを繰り返した純正スクリーンの風防効果は高く、高速道路でも伏せる必要なし。さらに、ヘッドライト裏側には隙間からの走行風巻き込みを低減する整流板を備えるなど万全の構えだ。得られる空力性能も高く、高速道路では80km/hあたりから車体の沈み込みを実感する。
試乗で感心したのがシフトアップとシフトダウンの両方向に機能する「双方向クイックシフトシステム」だ。これは発進/停止時以外、左手によるクラッチ操作が不要になる便利機能で、いわゆるクイックシフターと称し国内外の各社のスポーツモデルがこぞって採用する。
GSX-S1000GTでは2000rpmを超えていれば双方向でクラッチ操作が要らない(他車はもっと高回転域で働く)。低回転域(1速2000rpmは22km/h)から働くので、発進してしまえば左足の操作のみで変速可能。
シフトダウン時にはブリッピングが自動介入し、さらに過剰なエンジンブレーキ力を逃がすスリッパークラッチ機能も働く。またSDMSのモード変更にも対応し、低回転域からパワフルなAモードでは、左足の動きに変速がピタリとリンクする。
さらに減速時、N位置まで順にギヤ段を戻しておけばクラッチ操作は発進時だけで事足りる。それでいて任意のギヤ段変速操作は残ることから、MTとDCTの中間的な乗り味が楽しめ、ベテランライダーにも好評だという。
「ギヤ段レバーを操作する左足の靴下に穴が開き、就寝時にも左足が無意識に動くほど、徹底したテストを行いました」とは開発ライダーの弁。寝る間を惜しんで開発に打ち込ませる、これも鈴菌の底力か。
さらに、ハンドルをラバーマウント化することで直4特有の振動を低減しつつ、リアスイングアームを高い剛性を誇るアルミ製とすることで接地性を確保。シートは座り心地と荷重移動のしやすさを両立しながら、足をおろした際にステップと干渉しないよう絞り込まれた。
■二輪、四輪以外もスズキイズムがあり! スズ菌にじわる……
ひとつの技術を徹底して研究し、そこから2つ、3つと別の機構を織り込んでいく。それでいてグラム単位の軽量化にもこだわり製品化。高価な素材ではなく、知恵をふんだんに上乗せしたから販売価格も安くできる。
これこそ、「セニアカー」(スズキの「電動車いす」)から船舶、そして2輪&4輪など、全スズキ製品に通ずる真骨頂だ。
その昔から、本社事務棟の蛍光灯を1本ずつ消灯し、名刺の紙も極限まで薄くするなど無駄を省いてきたスズキ。SDGsという言葉がない時代から循環型社会を見据えていた。
GSX-S1000GTを通じて鈴菌の真相を探ってみた。スズキの2輪は一見地味だが、手にして使い込んでいくと身体がそれに順応し、次第に他を受け付けなくなっていく……。
その所以は、人中心の開発思想をベースにした随所に見られるmm/g(グラム)単位の設計思想と、そこから生まれた走行環境を選ばないダイナミックな走りにあった。じわる鈴菌、やっぱり恐るべしだ!
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