ひたひたとバブル経済の崩壊へと、実態の伴わない日本経済が不協和音を奏で始めていた1991年から1992年にかけてホンダ、スズキ、マツダから相次いで2シーター、後輪駆動のスポーツモデル軽自動車が登場した。各モデルともモデルチェンジすることなく、一代限りでその名を消してしまったが、時代の徒花というにはあまりに鮮烈な印象を今に残す、この3モデルとは、いったいどんなクルマだったのか?
文:梅木智晴(ベストカー編集委員)/写真:ベストカー編集部
バブルの申し子? 軽スポーツABC狂騒曲 全車1代限りで消滅した超個性派3モデルってどんなクルマだった?
まさにバブル時代だから生まれたクルマ! ヘンタイ度も爆上がり
マツダ(当時の販売チャンネルによりオートザムブランド)AZ-1、ホンダBEAT、スズキCapcino、その名から「軽スポーツABCトリオ」などと呼ばれるが、登場順はビート(91年5月)、カプチーノ(91年 月)、AZ-1(92年9月)なので、BCAということになる。
1992年4月10日の早朝。ヤタベの高速周回路でビートやカプチーノの動力性能テストを実施した。この時点でAZ-1はまだデビューしていない
ビートは幌式のコンバーチブル、カプチーノは着脱式アルミ製ルーフのタルガトップ(リアクォーターを収納することでフルオープンにもなる凝った構造)、AZ-1はクローズドトップなのだが、全高が1150mmと低く、乗降ドアがポップアップ式のガルウィングドアを採用した。ビートとAZ-1はミドシップ、カプチーノはFR。各車、実に個性的で、「2シーター軽自動車スポーツ」とカテゴライズすればそうなのだが、コンセプトに相互互換性はまったくなく、それぞれの個性が際立つ存在だった。
1992年9月にデビューしたオートザムAZ-1。特徴的なガルウイングドアを採用する。全高はわずか1150mmだ
各車ともに80年代終盤に企画され、開発がスタートのだが、示し合わせたわけでもあるまいに、3つメーカーから「軽自動車のスポーツカー」という企画が同時期に湧き上がり、商品として開発にゴーサインが出されたことが興味深い。まさにバブル経済がそうさせたのだろう。ABC各車、いずれもプラットフォームを共用するベース車があったわけではない。
走りも存在感も三車三様個性が際立つ存在だった
ABCはどれも「ヘンタイグルマ」なんだけど、直3、657ccNAエンジンを8100rpmまで回させて64psを引き出すビートのヘンタイ度は、エンジン屋ホンダの真骨頂とも言えるものだった。フツー、軽自動車枠で64ps出すならターボ付けるでしょ?
ビートのインテリア。白地のタコメータ―を見ればわかるが、レッドゾーンは8500rpmからで、表示は1万回転まである
可変バルタイなんかも盛り込んだ凝ったメカなんだけど、低速トルクはスッカスカで、5速MTをガチャガチャやって6000rpm以上をキープしないと軽トラにも置いてけぼりだった。感覚的にはバイクのエンジンみたいだった。ま、ホンダらしいよね。
ミドシップオープンのビートがデビューしたのは1991年5月でABCトリオの中では最初に登場した1台。1996年2月に販売を終了した
AZ-1はとにかく低い。全高は1150mmしかない。フロアも低いからヒップポイントがとにかく低く、コックピットに収まると視点はまるでレーシングカート。やたらクイックで過敏なまでに反応する操縦性もカート的だった。
AZ-1の側窓は桟で仕切られた小さなスペースが申し訳程度に開くだけだった。外板パネルは樹脂製で31kg、スケルトンモノコックと呼ばれるフレームは約150kg
サイドシルが高いため、ガルウィングドアを引き上げての乗り降りはアクロバティックな体勢を強いられる。万が一の転倒時にガルウィングドアが開けられなくなるので、脱出用にリア窓が蹴破れるように設計されているんだけど、体格がいいと、あの窓からは脱出できるのだろうか?
ちなみにエンジンはスズキから供給を受けたF6A型でカプチーノと同じ。型式は同じで最高出力や最大トルクの数値も同じなんだけど、AZ-1はエンジン横置きのミドシップなので縦置きFRのカプチーノとは吸排気系の取り回しが異なっている。そのためトルク特性や回転フィールが異なっていて、同じ横置きのアルトワークスのエンジン特性に近かった。ちなみに93年には、エンジンを供給したスズキから『キャラ』という車名でOEM販売されていた。
この2モデルから見ればカプチーノのヘンタイ度は低く感じるかもしれないけど、縦置きフロントエンジンのロングノーズプロポーションを採用する時点で充分ヘンタイ。着脱式アルミ製ルーフのタルガトップで、リアクォーター部はガチャンと収納してフルオープンにもなるという構造もヘンタイ的だし、軽量化のためにアルミパーツを各部に使うという設計にもヘンタイ性をヒシヒシ感じる。前後ダブルウィッシュボーンサスというのもたまらない。もちろん全部褒め言葉。
ヤタベで動力性能テストをするカプチーノ。スタート係は32年前の私ウメキでございます。カプチーノのゼロヨンは16秒60でした
前後重量配分はほぼ50対50なんだけど、それが故に、特に加速しながら舵を入れる上り坂のコーナリングではアンダーステア傾向が強く、前輪荷重を意識したドライビングが求められるあたりも、かなりマニアックだったのだ。
直列3気筒SOHC、656ccNAエンジンのビートは64psを8100rpmで発揮する。ゼロヨン加速はターボでトルクに勝るカプチーノには及ばず18秒49だった
そんな超個性派のABC軽スポーツだったけど、個性派だったがゆえにバブル経済が弾けた後の日本では生き永らえることが難しかった。AZ-1はわずか3年の販売期間で1995年9月、ビートは1996年2月、最後まで残ったカプチーノも1998年10月に販売を終了した。各車、モデルチェンジや直接の後継車はなく、2シーター軽スポーツは2002年にダイハツコペンが登場するまで消滅したのだった。
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