日産自動車(以下、日産)は「技術の日産」とみずから高らかに宣言している。今回、お披露目された新しい電動駆動4輪制御技術(名称は未定。以下、新電動駆動4輪制御技術)は、長年培ってきた電動化技術と4WD制御技術、そしてシャシー制御技術を融合して開発したという。
10月18日、筆者は、日産の追浜試験場「グランドライブ」でおこなわれた新電動駆動4輪制御技術体験会に参加した。
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新電動駆動4輪制御技術を搭載した現行「リーフ e +」。冒頭、開発担当者の中島敏行氏(企画・先行技術開発本部 先行車両開発部 担当部長)は、「力強く滑らかな走りとともに乗る人すべてに快適な乗り心地を提供します。渋滞や加減速の多い道でも体の揺れが少なくなるため、疲れにくくなり、そして酔いにくくなります」と、述べる。
新電動駆動4輪制御技術とは、前・後にモーターを搭載し、前・後輪を駆動する2モーター・4WDシステムである。2モーター・4WDシステムは、すでに「ノート e-POWER 4WD」に搭載されているが、中島氏とは別の開発担当者によれば「モーターの出力が大きく異なりますし、制御内容も大きく異なります」とのこと。ちょっとした雪道などに効果を発揮する、俗にいう“生活ヨンク”とはまったく異なるという。
シリーズ・ハイブリッド搭載の「ノート e-POWER」の4WDシステムは、前・後にモーターを搭載し、前・後輪を駆動するモーターアシスト方式。中島氏は続けて「(新電動駆動4輪制御技術によって)卓越したハンドリング性能を実現しました。ドライバーのイメージ通りに車が動きます。また、雪道や強い雨の日のドライブも楽しめる安心感を提供します」と、話す。
“技術の日産”の結晶目前のスライドには歴史的技術やモデルがずらりと並ぶ。電動化技術は、1947年登場の「たま電気自動車」から、4WD制御技術はR32型「スカイライン」に搭載された電子制御トルクスプリット4輪駆動システム「アテーサ E-TS」(1989年)から、そしてシャシー制御技術はR31型「スカイライン」に搭載された後輪操舵システム「ハイキャス」(1985年)から培ってきたという。どれも30年以上研究・開発を続けてきた技術だ。
プリンス自動車工業(1966年、日産と合併)の前身、東京電気自動車が開発した「たま電気自動車」。1充電の走行距離は65kmだった。NISMO Heritage program to offer parts for heritage cars in Japan1989年登場のR32型「スカイライン」に搭載された、電子制御トルクスプリット4輪駆動システム「アテーサ E-TS」。Nissan日産初の後輪操舵システム「ハイキャス」を搭載した、R31型「スカイライン」。中野氏は「常に電動化の先頭を走ってきたし、4WDも古くから研究・開発している。われわれが培ってきた技術を融合してすべてを統合的に制御し、クルマの走る、止まるを飛躍的に向上させて、ベネフィットをユーザーに提供します」と、語る。
新電動駆動4輪制御技術の凄みとは?
中野氏は「1/10000秒の緻密なモーター制御により、素早いレスポンスと滑らかな加速を両立しました」と、話す。「電気自動車同士でも比べても、アクセルを踏み込んでからの加速感は異なります」とのこと。どう異なるかは、「実車で体験してほしい」とのことだった。
標準モデルとの相違点は?今回、試乗するモデルはEV「リーフ」のハイパフォーマンス・バージョン「リーフ e +」をもとに新電動駆動4輪制御技術を搭載したプロトタイプ。
パッと見ではほぼ、フツーのリーフ e +である。ただし、タイヤ(フロント:215/55R17、リア:235/50R17、コンチネンタル社製)やアルミホイール(レイズ社製)は変更されている。
タイヤサイズはフロント:215/55R17、リア:235/50R17。通常モデルは215/50R17(前後共通)。「(タイヤを)前後異形サイズにしたのは、新電動駆動4輪制御技術が体感しやすくなるからです。レイズ社製のアルミホイールは、バネ下を軽くするためです」と、企画・先行技術開発本部 先行車両開発部 主担の中野勇蔵氏は述べる。
インテリアもほぼ変わらないが、インパネに、新電動駆動4輪制御技術のシステム作動状況を示すモニターが装着されている。
インパネに設置された、新電動駆動4輪制御技術のシステム作動状況を示すモニター。1番の違いはパワーユニットだ。リーフ e +がフロントに搭載するモーターと、おなじものをリアに搭載し、システム最高出力308ps/最大トルク680Nmに達する(もとになるリーフ e +は、システム最高出力218ps/最大トルク340Nm)。
しかも、リアにモーターを搭載した結果、フロント:リアの重量配分はほぼ50:50になったという。
リアからは、後輪用のモーターが見える。「ホンダの『SH-AWD』のように、4輪それぞれを個別に制御するシステム(日産は前輪/後輪)も検討しています」と、中野氏は話す。
ちなみに、リアにモーターを搭載するためにラゲッジルームは若干狭くなるという。
運転しなくてもわかる新技術の威力いよいよ、新電動駆動4輪制御技術を搭載するリーフ e +に試乗する。ただし、今回の試乗はリアシートでの同乗試乗だった。また、比較用にリーフ e +の標準モデルも乗った。
まずは加速の違いを体感する。標準のリーフ e +も十分速いが、新電動駆動4輪制御技術搭載車はそれにも増して速かった。シートバックにグッと押される感じは、スーパーカー並みである。それもそのはずで、静止状態から100km/hに到達するまでに要する時間は5~6秒のあいだという。
強烈な加速を見せる新電動駆動4輪制御技術搭載モデル。静止状態から100km/hに到達するまでに要する時間は5~6秒のあいだという。次に減速時の揺れの少なさを体感した。中野氏はプレゼン時、「ヘッドレストに頭をしっかりつけてもらうと違いがわかりやすいと思います」と述べるので、しっかり頭をつけた。たしかに、標準のリーフ e +より新電動駆動4輪制御技術搭載車のほうが、減速時の頭の揺れは少なかったように思う。加速時のインパクトに比べれば、差は小さいが。
「前・後のタイヤにかける駆動力を緻密にコントロールし、クルマの姿勢変化を抑えます」と、中野氏。たしかに、クルマがフラットにスゥーっと減速したように思う。視線の上下移動がほとんどなかった。
そして、60km/hで特設スラローム・コースに入る。
「少ないステアリング操作で、狙った通りのラインを走れます」と、中島氏が話していたように、運転する自動車ジャーナリストの工藤貴宏さんは「ステアリング操作は少なくなったし、(標準モデルと比べ)アクセルをグイグイ踏み込めるよ」と、述べる。
インパネに設置されたモニターは、絶えず4輪それぞれの駆動状況を示す。「4輪のブレーキを個別にコントロールし、旋回性能を高めています」と、中野氏。モニターに表示されるタイヤのアイコンが赤に変ったときは、ブレーキが自動でかかっているのを示すという。
ドライバーがブレーキ・ペダルを踏まずとも、コーナリング走行時など、クルマが自動でブレーキを“つまむ”システムである「インテリジェント・トレース・コントロール」を搭載しているとのこと。すでに、SUVの「エクストレイル」などに搭載されている技術だ。
「スピードが出過ぎちゃう」と、工藤さんが述べたのが印象的だった。中島氏が冒頭、「タイヤの力を最大限引き出しながら(新電動駆動4輪制御技術を)制御しています」と、話していた通りのようだ。
新電動駆動4輪制御技術は先代リーフのときから研究・開発されてきたという。「パフォーマンスと悪路走破性、ともに高められる技術です」と、中野さんは自信たっぷりに話す。
新電動駆動4輪制御技術は今後も市販化に向け、システムを煮詰めていくという。市販化の具体的な時期や搭載モデルは不明。中島氏は「リーフに限らず、ノート e-POWERにも搭載可能な技術です」と、話す。とはいえ、市販化については「具体的な投入時期は未定です」とのこと。ただし、「現在、市販化に向けて制御関係などを煮詰めています」とも言っていたので、いつの日か市販モデルに搭載されるのは間違いないと思われる。
新電動駆動4輪制御技術はこの先、どれほど進化するのか? “技術の日産”の手腕に、期待したい。
文・稲垣邦康(GQ) 写真・安井宏充(Weekend.)
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