■どこにでも行けるクルマ、「ラングラー」
普段はさほど意識することもないのだろうけれど、人間、誰もが「どこかへ行きたい」「未知なる場所へ足を踏み入れたい」というような願望を、どこかに秘めたりしているものだ。
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それは好奇心かも知れない。冒険心かも知れない。小さな子供が色々なことに気を惹かれたりあれこれと試してみたくなったりするのは、いわばDNAに擦り込まれた本能のようなもの。
分別というものが求められる大人になったからといって、僕達はそれを綺麗さっぱり忘れてるってわけじゃない。そういうことなのだろう。ましてや昨今の、移動の自由に制限がかかるような状況を体験した後だから、その気持ちは「どこにだって行きたい」「行けるところまで行ってみたい」というぐらいにまで膨れ上がってる。
●最新モデルになって、乗り心地も大幅に改善
そんなタイミングで乗ってしまったのだから、このクルマが自分の暮らしのなかにあったらなぁ……という切望感のようなものが、以来、ずっとある。誰もがどこにでも行きたい場所へとしっかり辿り着くことのできるクルマの最高峰、ジープ「ラングラー」である。
ジープ・ブランドの4WDシステムを備えたクルマ達が世界でもっとも高いレベルの悪路走破性を備えていることは、何となくではあっても、多くの人が認識していること。誰もがひと目で「これはジープだ」と判る伝統的なルックスをしたラングラーは、そのなかにあってもっともオフローダーとしてのパフォーマンスが高いモデルだ。
現行モデルは2018年の晩秋から日本に導入されている第4世代。ファン達の間では「JL」とタイプ名で呼ばれる最新のラングラーは、ルックスこそひとつ前の「JK」からそれほど変わった印象はないものの、中身は各部が大幅に進化を遂げている。
たとえば快適性。JK型まではユーザーが僅かながらのヤセ我慢込みで「そんなに悪くはないよ」とクチにしていた乗り心地だが、ヤセ我慢なしに同じセリフで評することができるようになったのは素晴らしい。
乗用車のような一般的なSUVよりは揺すられ感はあるけれど、ラダーフレーム+リジッドアクスルというヘビーデューティな構造を持つオフローダーとしては快適といえるレベルだ。インフォテイメントシステムもかなり充実した。無理なく普段使いすることができるだろう。
もちろん4WDシステムもキッチリと進化していて、切り替え式パートタイム4WDからオンデマンド式フルタイム4WDに変わり、5つのモードを持つ副変速機と組み合わせられることになった。
その威力のほどは、すでに山の最大斜度35度ほどの斜面など自然の地形を利用したオフロードコースや雪国の新雪や圧雪を使った特設コースといった、フツーに生活していたら絶対に遭遇しないようなところで何度かテストさせていただいていて、特に最強モデルといえる「ルビコン」の驚異的な走破性の高さには、賛辞の言葉も出てこないくらいの感銘を受けてきた。道なき道を行って大地を制するオフローダーというものがあるとしたら、まさにこれだ、と。
そしてまたしても、僕はその想いを新たにさせられた。今回の試乗は、まさに道なき道が舞台だったのだ。シーズンオフに入ってからシーズンイン直前までは、原野かと思えるほど草生え放題のスキー場。
そのなかを縫う連絡通路と、モーグルのコース込みの滑走斜面を走ってきたのだ。最大斜度は30度。それはまぁいいとして──なんていえてしまうのが実は凄いことなのだけど──タイヤが踏みしめるのは、ときどき薙ぎ倒された丈の長い草そのものだ。
しかも当日は、雨が降っていた。マッドテレーンのタイヤを履いているから砂地や泥濘ならかなりの強みを見せてくれるのだが、そもそも濡れて滑りやすい草の上を走るようには作られてない。
だが、結論から申し上げるなら、拍子抜けするぐらいまったく何事もなかった。予想したとおり新しく踏み分けた草の上でどこかのタイヤがグリップし損ねることはあっても、瞬時に別のグリップできるタイヤがしっかり大地を掴むというオンデマンド式ならではの強みを最大限活かして、20度から30度ぐらいの奈落かと思えるほどの斜度を、滑り墜ちることなくジワジワと降りていってくれたのだ。
■「ラングラー」に走破できない道はない!?
今回試乗したのは、4ドアのロングホイールベース版であるラングラー・アンリミテッド・サハラと、2ドア・ショートホイール版の限定車ラングラー・ルビコンの2台。通常のラングラーのセレクトラック・フルタイム4WDをさらに発展させた、ロックトラック・フルタイム4WDを備えているのが特徴だ。
●クルマ任せでドライバーはハンドル操作だけに集中!
軽く説明しておくと、オンデマンド式フルタイム4WDと5つのモードを持つ副変速機の組み合わせは一緒。異なってるのは、スイッチ操作で前後のディファレンシャルをロックする機構が備わっていること。
リアだけをロックした場合には後輪左右それぞれに25%ずつ駆動が分配され、前輪には電子制御ブレーキングデフが作用し、フロントとリア両方をロックした場合には4輪に25%ずつ駆動が分配される、という仕組みだ。
また同じくスイッチひとつでスウェイバー(スタビライザー)を解除し、フロントアクスルのストローク量をさらに豊かにすることのできるシステムも与えられている。副変速機で「4L」を選んだときのギア比はさらに低レンジ化され、最終減速比もより低速向けの数値となる。つまり極端な悪路を進むときのみ必要になる仕組みが盛り込まれている、というわけだ。
シチュエーションがシチュエーションだったから、今回はそれらすべてを活かしての走行。砂利の浮いた急勾配の登り坂、ドロドロだったり他のラングラーが薙ぎ倒して濡れた草がまっすぐ倒れてたり未開の草が生い茂ってたりして滑落しそうな急な下り坂。
いわゆる生活4駆のような4WDシステムを持つSUVだったら、最初から立ち入ろうなんて考えもしない道じゃない道の区間ですら、呆気なくクリアできてしまう。実際にやってるのは物凄いことなのに、そんなふうには感じられないぐらい余裕綽々で。
いうまでもなく、それは僕が運転が上手なのではなく、クルマが優秀だから。一度、斜度が30度に達するもっとも滑りやすい区間のドロドロの下り坂を自分のペダル操作だけトライしたのだけど、安定したまま走破するのはかなり困難。
ブレーキの踏み具合をかなり細かく調整したつもりでいても、1cm進むごとに変わる地面の状況にはとてもじゃないけど合わせられるものじゃなく、予想してたより大きく滑ってヒヤリとしたりもした。
なのに、状況に応じて4輪のブレーキの効き具合をそれぞれ個別に制御してくれるヒルディセントコントロールのスイッチをプッシュすると、ドライバーはステアリングを操作するだけでペダルに触れることもないまま、まったく危なげなくジワジワと下っていけるのだ。こればかりは人間ワザでは絶対に追いつけない部分だろう。
こうした並みじゃない悪路を走っているときにスウェイバーを解除すると、乗り心地は別のクルマに乗り換えたかのように好転する。サスペンションのストロークがさらに柔軟に、さらに長く伸びるようになるからだ。
通常のラングラーでも悪路での走破性は相当に高いけど、ラフロードを好んで走る人にはこのシステムがあるだけでも「ルビコン一択でしょ!」と勧められる。
また4ドアと2ドアでは、間違いなく2ドアの方がホイールベースが550mmも短い分だけ動きが機敏だし、凹凸の激しい場所で選べるラインの自由度も高い。
車重が130kg軽いこともあって、スポーティであることにおいては断トツといえる。が、4ドアの方が前後のタイヤの距離が長い分だけ乗り心地はいいし、後席周りや荷室の使い勝手もいい。
もはやSUVを当たり前のように街中で見る時代。特別な存在ではなくなった。生活の匂いが漂うSUVや夜の繁華街の匂いがするSUVではなく、野山や荒野の香りのする究極のオフローダーを選ぶのは、何だかとても素晴らしいことのように思える。だって、僕は自由にどこにだって行ってみたいのだ。
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