自動車販売において、販売チャネルという言葉は死語となった。チャネル分けという仕組みを知らないユーザーも多く、その存在は既に過去のものだ。
現在、チャネル制は無くなり(名称は残っていても意味を成さない状態)、事実上の統合となっている。しかし、ディーラーと古くから付き合いがあるユーザーを見ると、保有車種(ディーラーの管理車種)には、チャネル制時代の名残が色濃くあるのもまた事実。
全メーカーが全店全車種販売へ移行!! それでもディーラーチャンネルにうまみはあるのか?
今、販売チャネルによる違いは無くなり、全てのお店で平等な販売が行われているのか。過去のチャネル制度とディーラーの今を紐解いていく。
文/佐々木 亘、写真/ベストカー編集部、TOYOTA
■チャネルって一体何だったのか
トヨタが全車種併売を開始したのが2020年5月。2020年6月に発売を開始したのがトヨタ ハリアーだ。もちろん全販売会社から発売されている
最近までチャネル販売制を残していたのはトヨタだ。その名残は今もあり、販売チャネルの名称が販社名になっている。○○(地域名)トヨタ、○○トヨペット、トヨタカローラ○○、ネッツトヨタ○○という名称は、すべてチャネル別販売時代ものだ。
他メーカーでもチャネル別販売は行われていた。日産ではサティオ・プリンス・チェリー(その後にレッド・ブルーステージ)、ホンダはプリモ・クリオ・ベルノ、三菱はギャラン・カープラザ、マツダはユーノス・マツダオート(アンフィニに統合)・オートザムといった具合になる。
チャネル販売の醍醐味は、なんといっても専売車種の存在だ。特定の車種を独占的に販売でき、さらに価格競争に巻き込まれないという利点が大きい。ただし、こうした保護施策により、競争力が高くなくても生き残れる(存在できる)ディーラーが増えていったのも事実である。
チャネル制が廃止された背景には、増えすぎたディーラーが競争の波にもまれ、自然淘汰されていってほしいという側面もあるだろう。
チャネル販売によるメリットは、ユーザー側ではなく販売側に大きくなっていたのだ。
■旧チャネルを利用した販売割り当てはあるのか
新車納期の長期化が問題となっている昨今。ユーザーは、いち早く納車が行われるディーラーでクルマを購入し、早く新しいクルマに乗りたい気持ちが強いだろう。
その気持ちに応えられるかどうか、筆者は様々なメーカーの販売店で新車納期について差が生まれるのか調査をしてみた。しかし、現在の販売体制では、元チャネルが違うディーラーでも、メーカーからの販売割り当てに大きな違いはなく、お店ごとに納期は大きく変わらないようだ。
新車が提供される数は、地域によって異なる。各地域の人口や販売シェアなどによって、クルマが月に何台届くのか(年間で何台配車される予定なのか)が計画されるのだ。
例えば、東京・神奈川・千葉・埼玉といった関東一円の地域でも、販売シェアに応じて配車枠が違う。地方に目を向ければ、もっと差が大きく。人口の多い政令指定都市(地方中枢都市)のディーラーには多くクルマが配車され、人口の少ない地域ではそれなりに、ということになる。
こうしたところには、チャネル制の名残はほとんどなく、特別なアドバンテージも見つからない。
■過去には旧チャネルごとの納期差が生まれたことも
元はトヨペット店の専売車種であったトヨタ ハリアー。既存のハリアーユーザーが多く、販売台数が期待できるトヨペット店への割り当てが最も多かったようだ
2020年5月に、全車種併売をスタートさせたトヨタ。併売とほぼ時を同じくして発売されたのがハリアーだった。
元はトヨペット店の専売車種であったハリアー。併売を機に、トヨタ店・カローラ店・ネッツ店でも販売できるようになったわけだが、販売開始当初の割り当てには、チャネルごとの違いがあったという。(一部販売店スタッフ談)
既存のハリアーユーザーが多く、販売台数が期待できるトヨペット店への割り当てが最も多かったらしい。次いで高級価格帯のクルマを多く扱っていたトヨタ店、全車種トータルでの販売台数が多く売る力の強かったネッツ店、最後にカローラ店という順だ。
こうした予想を覆し、ハリアーは各チャネルで均等に売れていた。一方で、初期段階での配車枠が少なかったトヨタ・カローラ・ネッツ店では納期が長期化し、配車台数が多いトヨペット店では納期が比較的短いという現象が起きたのだ。
「同じクルマをどこでも同じように購入できる」を売りにした全車種併売だったにもかかわらず、ユーザーメリットの一つとなる納期が、チャネルごとに変わってしまったのは、少々いただけない。
以降、トヨタでは既存ユーザー数の多い少ないでは配車枠を検討せず、地域シェアや純粋な台数(販売力)で、ディーラーとの販売計画を結ぶようになっていったようだ。先日発売されたクラウンはトヨタ店の専売だったが、新型の配車枠でトヨタ店が優遇されている様子は見受けられない。
■旧チャネル体制を知ることでユーザーが受けられるメリット
クロスオーバータイプから発売を開始した新型トヨタ クラウン。かつて専売だったトヨタ店が配車枠で優遇されている様子は見受けられない
ここまでくると、かつてのチャネル販売体制が残すメリットはほとんど無いように見える。ただ、チャネル体制があったことを逆手に取り、販売店の逆アドバンテージを利用した、新車納期短縮方法はありそうだ。
まだまだ、チャネルごとに得意や苦手の車種はある。新規ユーザー獲得競争が厳しくなり、管理顧客に対して、いかに良い提案をするかが重要となっている昨今の自動車販売では、管理顧客の層によって、販売車種の内訳が偏重する傾向は強い。
例えば、かつて大型車種や高級車を扱っていたチャネルには、そのクルマに乗っていた人が集まっている。小型車や中型車を得意にしていたチャネルには、小さいクルマを買い求めるユーザーが多いだろう。
まずは、地域内で調子が良く、販売好調なディーラーを見つけること。そして、そのディーラーが不得意な(管理顧客に提案しにくい)車種が新型として登場した際に、そのディーラーで商談すれば、納期を短くするメリットを生む可能性が高い。
地域シェアが高い分、配車枠は多いが、自社ユーザーがあまり興味を示さない車種であれば、枠が余っているということも考えられるのだ。
* * *
かつてのチャネル制を知っておくことは、新車が供給不足の現代において、重要なスキルになり得る。
居住地域内で好調なディーラーが、元々どのチャネルに属しており、得意なクルマはどういうものなのかを知ることで、比較的納期の早い新車をオーダーできるかもしれない。ディーラー、そしてチャネルの歴史を知っておいて、損は無いはずだ。
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