■世界で累計7万台の電気バスを納入
2022年5月10日、中国の電気自動車メーカー「BYD」の日本法人、ビーワイディージャパン(以下BYDジャパン)は、日本市場向けの小型電気バス「J6」、大型電気バス「K8」の新型車両を開発した。5月10日から予約受注を開始し、2023年末から納車を開始する予定だ。
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BYDグループは、以下4つの事業を展開している。
1.ITエレクトロニクス……スマートフォンなどの設計・製造の委託
2.電気自動車……世界最大手の電気自動車メーカーに成長
3.新エネルギー……ソーラーパネルや蓄電池の製造・販売
4.モノレール……車両・軌道・システムのすべてに携わる
もともとはバッテリーメーカーとして1995年に中国・深圳で創業し、携帯電話やPC用バッテリーをグローバルで展開。そこで培った技術力を生かして2003年に自動車事業に参入した。世界6大陸、70を超える国と地域の400以上の都市で電気自動車(EV)を展開し、乗用EVをはじめ、電気トラックや電気バスなどの製造を行っている。
BYDジャパンは2015年に中国の自動車メーカーとして初めて日本国内に電気バスを納入して以降、日本向けに小型・中型・大型の電気バスを販売。日本国内では累計64台の電気バスを納入しており、国内電気バスのシェアは約7割を占めている。
<日本市場での販売車種>
●小型バス……「J6(ジェイシックス)」は2019年から販売を開始したBYD初の日本仕様車。Jはジャパンの頭文字。6は社内記号で全長7mクラスを指す。おもにコミュニティバスなどの用途に適している。
●中型バス……「K7(ケーセブン)」のKは路線バスを示し、語源は中国語で旅客バスを意味する「客车巴士(kèchē bāshì)」の頭文字に由来する。7は全長9mクラスを示す。
●大型バス……「K8(ケーエイト)」の8は全長10.5mクラスを示す。日本の路線バスでもっとも需要が多いサイズの車両。2020年12月に販売開始。
●大型バス……「K9(ケーナイン)」の9は全長12mクラスを指す。大型路線バス。
※中国では観光系バスのCシリーズ(車名の由来は英語で観光系バスを意味するCoachの頭文字に由来)も展開。日本への導入も前向きに検討しているという。
今回、新型として販売されるのが「J6」と「K8」である。両車ともにフロント部分のデザインを一新するなど大きく意匠を変更、床まわりの構造を見直すなどフルモデルチェンジに近い改良を加えている。
■刀のような形状の新型バッテリーを搭載
新型の最大のポイントは、「ブレードバッテリー」の搭載である。BYDが2021年に発表した最新型のリン酸鉄リチウムイオン電池で、釘刺し試験や高温試験などの各種試験をクリアし、高い安定性を確保。BYDの革新的な技術によって、リン酸鉄リチウムイオン電池の弱点であったエネルギー密度が低い点、EVでは航続距離が短くなってしまう点をカバーしたという。
ブレード(刀)の名前が示すように、形状は細長く平たい形で、1本のブレードがバッテリーセルそのものとなっているのが特徴。従来の車載用のリン酸鉄リチウムイオン電池はセルがまとまってモジュールを形成、そのモジュールがまとまってバッテリーパックを構成していた。今回は、刀のような薄型形状のバッテリーセルが集まってバッテリーパックを構成するモジュールレスの構造で、これによってバッテリーパックの空間利用率を従来比で約50%高め、エネルギー密度を向上させることに成功した。放熱性も良好だという。
ブレードバッテリーの搭載によってバッテリーパックがコンパクトになったことから、そのぶん電池容量を拡大。小型路線バスの「J6」は105.6kWh(航続距離200km)→125.7kWh(同220km)に、大型路線バスの「K8」は287kWh(同250km)→314kWh(同270km)となった。
さらに、バッテリーのコンパクト化は、室内スペースの拡大にも貢献。「J6」は座席が2つ増えて、立ち席スペースも拡大するなど、乗車定員が最大31人→36人に増加。従来はバッテリーが邪魔になって後方の景色がほとんど見えなかったが、コンパクト化によって後方の窓を大幅に拡大することができた。抜けのよい視界はバス利用者に快適な乗車環境をもたらす。
「K8」は従来型では車両後部の床面が緩やかな階段状に高くなっていたが、新型は最後部までフラットな床面になった。バス事業者からのフルフラット化の要望に応えたもので、日本国内の電気バスとして初めてのフルフラットを実現したことが最大のポイントである。乗車定員は現時点では従来型と同じ最大81人の見込みだが、車両の納入のタイミングでは定員を増やせるのではないかとのことである。
「J6」は現行モデルの発売から約2年、「K8」は約1年での新型の投入となる。
この点について、BYDジャパン取締役副社長の花田晋作氏は「2年、3年経ってから新車を出していくのではなく、必要だと思うなら、1年後であろうと半年後であろうと、いいものを出していくという考え方で開発をしてきました」と語っている。新型のブレードバッテリーの搭載が今回の2車種の改良に大きく影響を与え、特に「K7」~「K9」までの車種のうち、10.5mクラスの「K8」を先んじて新型に移行したのは、日本の路線バスにおける一般的なサイズだからだという。こうした商品のブラッシュアップに対するスピード感は、国産メーカーにはまねできない部分であろう。
ちなみに、新型「J6」と「K8」は日本人の設計者が参加する日本市場専用車であり、「J6」についてはデザイナーも日本人。日本製の部品を多用し、中国で生産を行うという。
■日本市場に参入する際に重視した点
BYDが日本市場への進出にあたって重視したのはサポート体制。BYDジャパンの花田晋作氏は「いかにして日本のサービスクオリティについていけるか、にかなり知恵を絞りました。ただ、日本全国に人員を配置して展開していくのは非常に効率がよくない。いかにクオリティを落とさずに効率よくスピーディに対応していくかを検討した結果、パートナー企業との連携も必要ですが、研修制度を導入して多くの人たちが電気バスを整備していただけるような施策を積極的にやってまいりました」と語る。
サービス事業者との連携によって、部品が48時間以内に到着し、不具合が軽度なものであればすぐに現場復帰することで、バス事業者に迷惑がかからない体制でサポートを実施。「各事業者さんのほうから非常に満足しているという話も多くいただいておりまして、現時点ではサポート体制でBYDの車両が不安だ、という話はお聞きしていません」(花田氏)
BYDジャパンでは、今後2030年までに電気バスを4000台販売する目標を掲げている。先述のとおり、2015年に日本市場に参入して以来、日本での納入台数は64台。バス事業者も電動化に対する意識が非常に高まっており、「(目標達成については)そんなに難しい数字ではない」(花田氏)とのこと。ライバルがあまり存在しない日本市場において、今後ハイペースで台数を伸ばしていけるだろうか。
〈文=ドライバーWeb編集部〉
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