この記事をまとめると
■自動車の用語として「5ドア」や「2ドア」という言葉が使用されている
ウソだろ! そんな開き方!? 個性にもほどがあるドアをもつクルマ5台
■ハッチバックはリヤゲートを1枚のドアとして計上している場合が多いが例外も存在する
■自動車メディアが勝手に言っているだけなので気にすることはない
ヤリスは4ドア? それとも5ドア?
クルマに対しての意識が高い人であれば、「トヨタ・ヤリスは5ドアのコンパクトカーです」という日本語を読んだ際に「あぁ、そうですね」以外の感想はとくに生まれないだろう。
だが、日頃から自動車関係の記事などを読む習慣がない人は、この文章を読んで「ちょっと待って! ヤリスのドアって確か4枚だったはずだけど、なんで“5ドア”なの?」と疑問に思うかもしれない。
確かにヤリスのリヤゲートは荷物などを出し入れする際に開閉させる「ゲート」であって、人間が出入りするためのものではない。それなのになぜ「5ドア」なんじゃ! 納得いかないぜ! といわれれば、「ですよねぇ……」と答えるほかない。
とはいえ結論として、クルマ界では一般的に「車内から外に出ることができる扉」のことを「ドア」として扱う。そして、そうではない扉、たとえば4ドアセダンや2ドアクーペにおける独立式トランクのフタ部分は、なんとなくビジュアル的にドアっぽくもあるのだが「ドア」としては扱わない──というのが原則である。
それゆえ冒頭で例として挙げたトヨタ・ヤリスは、あのリヤゲートから車外に出る人はまずいないはずだが、構造としては(その気になれば)車外に出ることも可能な扉であるため「ドア」として扱われ、それゆえ「5ドア車」と呼ばれるのだ。人が出入りしないのにドア扱いすることに対して納得いかない人もいるかもしれないが、これはもう原則であるため、どうかご容赦いただきたい。
以上はあくまで原則であり、実際の世の中は「例外」や「恣意的な運用」であふれかえっている。
たとえばトヨタの2代目ポルテは、運転席側は普通に前後2枚のスイングドアを備えるが、助手席側には大きめなスライドドアが1枚あるだけで、そのうえで(その気になれば車外へ出ることができる)リヤゲートを備えている。
ということは、先述した原則を適用すると、2代目ポルテは「4ドアハッチバック」ということになるはずだが、そう呼ばれるケースはかなり少ない。ではなんと呼ばれているかといえば、単に「2BOX車」と呼ばれたり、「変則的なドアレイアウトを採用したコンパクトハッチバック」などと呼ばれることが多かった。
これは、「4ドアハッチバック」というのは意味としては(原則論としては)正しいのだが、「4ドアハッチバック」といわれてもその造形をいまひとつイメージしにくいため、恣意的な運用の結果として原則論が排除された一例だ。
ブランドや車種によってドアの数え方がまったく異なる
変則的なドアレイアウトのクルマといえば、マツダのRX-8とMX-30も該当するだろうか。
ご承知のとおり、RX-8は通常のフロントドア左右2枚に加えて「フリースタイルドア」という小さなドアをリヤの左右に設置。そのフリースタイルドアが通常とは逆方向に開くことで、左右のドアがいわゆる観音開きになるという形状だった。クロスオーバーSUVであるMX-30も、それとほぼ同様のタイプである。
で、RX-8の場合はマツダも普通に「4ドア・4シーターのスポーツカー」とプレスリリースのなかで明言していた。これは原則論どおりの扱いだ。しかし、MX-30は、原則からすると「普通のドア2枚+フリースタイルドア2枚+リヤゲート1枚」ということで「5ドアSUV」となるはずだが、メーカー側からとくにドア数についての明言はなく、自動車メディアが「5ドアのクロスオーバーSUV」と書くこともほとんどない。
というか、4枚ドア+1枚のリヤゲートを持つSUVやステーションワゴンが「5ドアSUV」とか「5ドアステーションワゴン」といちいちいわれることはほとんどなく、ただ単に「SUV」「ステーションワゴン」と呼ばれる場合がほとんどだ。これは「そんなことはいわなくてもわかるでしょ?」という意味でまどろっこしい表記を排除する恣意的運用の一例である。
恣意的な運用といえば、ジープ・ラングラー・アンリミテッドというSUVは、もしもあえて表記するなら「5ドア」がふさわしいはずなのだが、ジープブランドは頑なに「4ドア」と表記し続けている。理由は不明だが(ラングラーの後部上屋部分はフレキシブルな構造だからだろうか?)、ブランドとしてのこだわりなのだろう。
そして一番よくわからないというか、どう呼ぶべきか迷ってしまうのが、「わくわくゲート」が付いている先代のホンダ ステップワゴンだ。
ご承知のとおり先代ステップワゴンのわくわくゲートは「その気になれば車外に出られるドア」ではなく、「そもそも積極的に人の出入りにも使われるべきドア」だった。であるならば、わくわくゲート付きの先代ステップワゴンは、「フロントの左右2枚+リヤのスライドドア2枚+リヤゲート1枚+わくわくゲート=6ドア車」なのか、それともわくわくゲートはリヤゲートに含まれるものと解釈して「5ドア車」と呼ぶべきなのか?
そのあたりを考えていると夜も眠れなくなるわけだが、結論としてはそのどちらでもない。計5枚のドアを備えているステーションワゴンがいちいち「5ドアステーションワゴン」と呼ばれることがほとんどないのと同じで、ミニバンは、わくわくゲートがあろうがなかろうが「ミニバン」としか呼ばれないのが一般的なのだ。
また、「わくわくゲートはドア数に含まれるのか否か?」などといちいち考えるのは貴重な人生時間の損失でもあるため、作り手も乗り手も、そしてメディアも、そこはスルーするという理由もある。
スルーといえば、ルノー・カングーのリヤゲートもそうだろう。多くのカングーのリヤゲートは観音開きのダブルバックドアであるため、原則論を適用するなら「6ドア車」ということになる。だがそんなことをいちいち気にしていては話が前に進まないため、多くの自動車メディアは「カングー=5ドア車」とざっくりまとめている。そしてメーカー(インポーター)は、カングーのドアの「枚数」についてはとくに言及していない。めんどくさいし、そんなことをしても無意味だからである。
以上のとおり、ドアの数え方にいちおうの原則はあるが、実際の世の中は恣意的に動いている。そもそも「3ドアなんとか」とか「5ドアかんとか」というのも多くの場合、メーカーのカタログに載っている言葉ではなくメディアが勝手にいっているだけの場合のほうが多い。いちおうの原則だけを頭に入れておけば、あとはあまり気にせずとも普通に生きていけるだろう。
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