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F1分析|2009年王者ブラウンGP BGP001、最速の理由は”2008年の開発リソース”にあった?

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F1分析|2009年王者ブラウンGP BGP001、最速の理由は”2008年の開発リソース”にあった?

 2022年のF1は、テクニカルレギュレーションが大きく変更され、その影響により勢力図も大きく変わるのではないかと言われている。

 これとよく比較されるのが、2009年シーズンのF1である。2009年もレギュレーションが大きく変更され、その結果勢力図が一変。2008年にコンストラクターズランキング9位だったホンダF1を引き継いだ新星ブラウンGPが、ダブルタイトルを獲得した。

■2022年のF1マシンは角田裕毅向き?「18インチタイヤで、マシンの動きがシャープになる」

 2008年の参戦チームは11チーム。そんな中9番目のチームが、翌年には一躍シーズンを牛耳ったのだから、史上稀に見る大逆転劇だったと言えよう。

 では当時一体どんなことが起きていたのか? それを改めて見てみると、2021年から2022年にかけての動きと相い通じるところが数多くある。

■”新生”ブラウンGP、驚きの速さ

 2009年のレギュレーション変更が行なわれたのは、マシンの後方乱気流を抑制し、オーバーテイクの機会を増やすことが目指されていたからだ。これは、2022年のレギュレーション変更と同じ理由である。

 具体的には、マシンの各所に取り付けられていた細かい空力付加物の装着を事実上禁止した。これにより2009年マシンは実にシンプルな形状となった。またフロントウイングは低くなり、幅も広げられた。一方でリヤウイングは、乱流の影響を受けにくいように位置が高くなり、幅が狭められた。この他、フロントウイングのフラップは可変できるようになり、今のDRSと同じように必要な時に寝かせて、最高速を伸ばせるようにした。またタイヤはスリックタイヤになり(前年までは溝付きタイヤが使われていた)、ブレーキング時のエネルギーを回生してパワーブーストに活かすことができるKERSも搭載できるようになった。

 そんな中でブラウンGPが速さを見せたのは、大きな驚きだった。

 ホンダがF1からの撤退を発表したのは2008年のシーズン終了後、12月5日のこと。その直前、11月24日にはツインリンクもてぎでホンダ・レーシング・サンクスデーが行なわれ、ジェンソン・バトンも来日。2008年用マシンRA108を走らせた。その場では、同年限りでホンダF1副マネージング・ディレクターを務めていた中本修平氏のHRCへの異動が発表され、翌シーズンのF1での活動を期待する旨の挨拶をしている。それほど突然の発表に、業界には衝撃が走った。

 そのホンダF1チームを取得したのは、チーム代表を務めていたロス・ブラウン。決定までには紆余曲折あり、最終的に買収が発表されたのは、2009年の3月。シーズン開幕まであと1ヵ月を切っていた。

 ただマシンの準備は進められており、3月6日にシェイクダウン。当時はテスト制限が今ほど厳しくなかったため、ライバルチームは12月、1月、2月と、積極的にテストを行なっていた。準備不足は明らかだった。

 しかしBGP001は、3月9日からスペインのカタルニア・サーキットで行なわれた合同テストで、トップタイムを記録するなどいきなり速さを見せる。当初はスポンサーを集めるために、車体をレギュレーションで規定されている以上に軽くしてパフォーマンスランを行なっているのではないか……そんなふうにも言われた。しかし、続くヘレスでのテストでも速さは変わらず……。関係者の全てが疑心暗鬼の中、開幕戦オーストラリアGPを迎えた。

 そのオーストラリアGPでは、フリー走行から速さを見せ、予選ではQ1からQ3までの全てのセッションで1-2を独占。ポールポジションのバトンのタイムは、3番手セバスチャン・ベッテル(レッドブル)に0.6秒もの差をつける圧倒的なものだった。決勝でもその速さを維持し、1-2フィニッシュ。バトンは序盤7戦中6戦で勝利し、悲願のチャンピオンを手にした。チームメイトのルーベンス・バリチェロも2勝を挙げ、チームとしてもコンストラクターズチャンピオンを手にした。

■早々に2009年向けの開発を始めた効果が大きかった?

 なぜブラウンGPが速かったのか? 当然、マルチディフューザーの存在は大きかっただろう。

 このマルチディフューザーは、フロア下の空気をマシン後方に吐き出すディフューザーの効果を増加させるためのモノであり、空力付加物の装着が限定された2009年には、大いに役立った。このマルチディフューザーは、ブラウンGPの他トヨタやウイリアムズも開幕戦から装着。もっとも速かったのはブラウンGPだったが、トヨタもウイリアムズも上位につけており、その効果を証明する格好となった。

 またKERSを積む、積まないという判断も大きかっただろう。ブラウンGPはホンダ時代に、KERSを開発していた。後に関係者が語ったところによれば、このKERSはなかなかの出来だったという。しかしホンダが撤退したことで、これが実戦投入されることはなかった。

 ただ当初はKERSの重量が重いこと、従来の機械式ブレーキとのバランスをコントロールするのが難しかったことなどもあり、アドバンテージに繋げるのは難しかった。つまりシーズン序盤に速さを見せたチームは、KERSを積まないことでアドバンテージを得たと言ってもいいだろう。

 このマルチディフューザーとKERSが、ブラウンGPの戦闘力を結果的に押し上げることになった。しかしながらそれ以上に大きかったのは、綿密な準備がかなり以前から行なわれていたということではなかろうか。

 BGP001は、ホンダのRA108の後継マシンとも言えるものだ。しかし実際にはその前年、2007年のRA107の影響が色濃いようにも見える。

 RA107はサイドポンツーンの前方が高く、後方に向けて急激に落とし込むことで、リヤウイングを最大限に活用しようとした。しかしこの処理は2007年にはまだ革新的すぎ、気流の剥離をうまくコントロールすることができなかったため、戦闘力に繋げることができなかった。RA108はこの状況から脱却するためにオーソドックスなマシンとなったが、BGP001ではRA107のソリューションを昇華させたと思えるように、サイドポッド上面が後方に向けて急激に落ち込むデザインが採用された。

 ロス・ブラウンが加入したことも大きい。ブラウンは2008年からホンダF1のチーム代表となったが、その新体制を最大限に活かすべく、2008年シーズンの早い段階でRA108の開発を終了させ、2009年用”RA109”の開発に注力させた。レギュレーション大変更を躍進の最大のチャンスと捉え、その準備に集中したのだ。

 前出の中本副マネージングディレクターも、2009年向けの開発を優先させたと、当時語っている。そして結果的にRA109というマシンは走らなかったが、BGP001と名を変え、高い戦闘力を発揮した。早々に開発に注力したことが、功を奏したわけだ。

■ブラウンGPと”同じ道”を通るチームはあるのか?

 2022年に向けても、多くのチームが早々に2021年の開発を終了させ、リソースを2022年用にシフトさせた。開幕当初から、翌年を見据えた開発に集中したチームも少なくない。その結果として2021年に低迷したチームが、2022年に躍進を遂げたとしても決して不思議ではない。そう、ブラウンGPのように。

 逆に2009年は、2008年のタイトルを争うために最後の最後まで鎬を削ったマクラーレンとフェラーリが、特にシーズン序盤は低迷することになった。リソースを2009年に振り分けるのが遅れたことが、この結果に繋がったと言えなくもない。2021年に最終戦まで熾烈な戦いを繰り広げたレッドブルとメルセデスが、そんな中で2022年用の開発にどこまで力を入れることができたのか……気になるところだ。

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は、次のように語っている。

「フェラーリが最速のマシンを用意し、最初のレースで我々を先頭争いの蚊帳の外に追いやるのなら、その時はおそらく、我々は(2022年の開発について)妥協していたのだと言わざるを得ないだろう」

 さて、その答えやいかに?

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