2024年春、クンタッチ「ペリスコピオ」の価値は?
スーパーカー界のスーパースター、ランボルギーニ「クンタッチ(カウンタック)」は、その前任モデルである「ミウラ」ともども、現代のクラシックカー市場においてもスーパースターの地位に君臨。オークションでの販売価格は、そのオークションの成否や、さらにはその時々の国際マーケットの趨勢を可視化するバロメーターのようにも見なされています。今回は、RMサザビーズ北米本社が2024年3月1~2日にフロリダ州マイアミ近郊の町、コーラルゲーブルズにある歴史的なビルトモア・ホテルを会場として開催した「MIAMI 2024」オークションに出品された、ランボルギーニ「クンタッチLP400ペリスコピオ」に注目。そのモデル概要とオークション結果についてお伝えします。
北米仕様「カウンタック」が1億円オーバー!「LP5000QV」でも高額な予想落札価格だった理由は、ワンオーナー走行1273キロだったからでした
ガンディーニのデザイン哲学をもっともピュアに体現したクンタッチ
今なお近未来的なウェッジシェイプを持つランボルギーニ クンタッチは、1970年代の常識においては、コンセプトカー以上に先鋭的な市販スーパースポーツだった。
サンターガタ・ボロニェーゼを拠点とするフェルッチオ・ランボルギーニは、ほぼ隣町であるモデナのフェラーリに追いつくために全力を尽くし、「ミウラ」の成功によって「スーパーカー」という新たなジャンルを構築するに至った。
しかしそののちも、ランボルギーニのエンジニア陣に、ミウラの成功に大きく貢献したミッドシップV型12気筒レイアウトを維持しつつ、より先鋭的かつ実質的パフォーマンスの高いスーパーカーを開発するという新たな課題を用意していた。
「LP112」というコードネームでスタートしたこのプロジェクトは、パオロ・スタンツァーニ技師が配下のマッシモ・パレンティ、およびテストドライバーのボブ・ウォーレスとともに陣頭指揮を執り、スタイリングはミウラと同じく、ベルトーネのマルチェロ・ガンディーニが担当した。
1971年のジュネーヴ・ショーでプロトタイプ「LP500」が公開されたあと、エンジニアたちは再び図面に戻り、剛性を高めるためにチューブラーフレームを再設計。冷却システムには、垂直に取り付けられたラジエターを組み込んだ。最初のカスタマーカーが生産されるまでにはさらに3年を要し、1974年にようやくデリバリーが開始された。
クンタッチの最初期生産モデルは「LP400」と命名され、3929ccのV型12気筒エンジンで375ps。もともとジョット・ビッザリーニが「350GT」のために設計したエンジンの進化版たるこのV12は、2010年に至るランボルギーニの12気筒モデルすべてに、それぞれのレイアウトで搭載されたものである。
このV12エンジンを縦置きし、その前にトランスミッションを配置するという、スタンツァーニ技師の革新的なパッケージングにより、ホイールベースを大幅に伸ばすことなくマスの集中化に成功。当時の技術レベルとしては最上のハンドリングと、高速走行時のスタビリティを誇るスーパースポーツとなった。
さらに複雑なスペースフレームを中核に、アルミニウムとスチールの混合パネルで覆われたベルトーネ製ボディは、奇想天外なシザースドアで知られるようになる。
いっぽう実用化には至らなかったが、これらの初期車両は当初、潜望鏡スタイルのバックミラーを装備することを想定していた。ルーフパネルに設けられたスタイリッシュな溝とそれに対応する小窓は、これらの初期モデルの特質として残ることになる。
カウンタックは正式リリース後16年間も生産された。その後のバージョンは、ますますデコラティヴになっていく。やはりガンディーニのウェッジデザインの純粋さは、そのユニークなルーフデザインから「ペリスコピオ(Periscopio:潜望鏡)」の愛称で呼ばれる最初期型LP400に、もっとも明快なかたちで表れているといえよう。
来歴、現状のコンディションともに申し分のない個体なのに……
今回RMサザビーズ「MIAMI 2024」オークションに出品されたランボルギーニ クンタッチは、シャシーナンバー1120172。86台目に生産されたといわれる、初代LP400ペリスコピオである。
「ブル・タヒチ(Blu Tahiti)」のボディに「タバコ(明るいブラウン)」の本革レザーインテリアという印象的な色合いで仕上げられ、エアコンと2つの外部バックミラーを備えたこの個体は、本社工場を1975年12月22日にラインオフ。約1カ月後の1976年1月29日、カナダにおけるランボルギーニのインポーター兼正規ディーラーであるキャリー・ユージーンに引き渡されたのち、オンタリオ州トロントのポール・マーシャルのもとに新車として納車された。
マーシャルは下半身不随であったが、その障害をものともせず、新しい愛車クンタッチを10数年にわたって楽しんだという。彼はハンドコントロールを取り付け、生まれ故郷のトロントを頻繁にドライブ。トロントの古い街並みを宇宙船のようなカウンタックが走る様は、まるで別世界の光景だったことだろう。 このLP400にとっては2代目となるオーナーもトロント在住で、1990年代初頭に友人の紹介によってポール・マーシャルから購入した。彼はそののち数年間はクンタッチを定期的に使用し続けたそうだが、このクンタッチはフルレストア後にすべての油脂・液体を抜いた状態で、空調管理された施設に適切に保管。その後20年間、静態保存されていた。
しかし20年近い沈黙を破るように、このLP400はトロント市内のランボルギーニ・スペシャリストによって眠りから覚めることになる。そして、2013年には有名な「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」に招待され、その会場で審査員の称賛を獲得。熱い戦いが繰り広げられた「ランボルギーニ」クラスで、値千金の2位に入賞した。
その2年後、クンタッチはジェリー・サインフェルドのテレビ番組「Comedians in Cars Getting Coffee」のエピソードに、コメディアンのジム・キャリーとともに登場。また「ジェイ・レノズ・ガレージ」でもフィーチャーされ、ジェイ・レノと「シャーク・タンク」のロバート・ヘルヤベックがこのLP400に乗り、のどかな「アンジェルス・クレスト・ハイウェイ」をエキサイティングにドライブするさまを披露した。
そして2017年に、今回のオークション出品者でもある現オーナーによって入手されたこの素晴らしいクンタッチLP400は、新車として工場から出荷された時と同じ純正の「ブル・タヒチ」のエクステリアに、正しく施工された「ビスケット」レザーの補修用インテリアを組み合わせ、美しいコンディションに維持されている。また、ナンバーズマッチのエンジンを維持していることも、正統性が問われるこの種のクルマとしては非常に重要なセールスポイントといえよう。
このクンタッチLP400ペリスコピオには、現オーナーとRMサザビーズ側が協議した結果として、110万ドル~140万ドルというエスティメート(推定落札価格)が設定されていた。ところが、実際の競売ではビッド(入札)が最低落札価格まで届くことなく「Not Sold(流札)」。現在ではRMサザビーズ北米本社営業部門にて115万ドル、つまり約1億7400万円の正札価格とともに、個別商談に応じる「Asking」となっているようだ。
現状のはりだし価格であっても、われわれ日本人にはけっこうな高値にも映るかもしれないが、それは円安の続く現在の為替レートで換算するから。
つい1~2年前までの相場ならば、エスティメート上限を超えるプライスでも順当だったはずながら、やはり2024年春における国際マーケットは、おおむね高値安定のまま落ち着いているとも考えられるのである。
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みんなのコメント
カウンタッチみたいな存在になる日も近いな
それだけ希少ってことでしょうけど、、、レプリカもある意味希少だったりする。