日本では少数派のタイヤ式油圧ショベル 利点は?
千葉県の幕張メッセで2024年5月22日から24日まで行われた建設・測量業界向けの展示会「CSPI-EXPO2024」に、ボルボ建設機械(以下ボルボ建機)製のホイール式油圧ショベル「EWR130E」が展示されました。
北欧ボルボというと、日本では乗用車のイメージが強いですが、実は乗用車メーカーとしての「ボルボ・カーズ」と建機メーカーである「ボルボ建機」は全く別。ボルボ・カーズは2024年現在、同グループとは資本関係のない、他企業の1ブランドとなっているのに対し、ボルボ建機は商用車メーカーである「ボルボ・トラックス」とともに、スウェーデンを本拠とする元来のボルボ・グループの傘下にあります。
なかでもボルボ建機はグループの中核企業であり、建機メーカーとしても世界で5指に数えられるほどの大企業です。今回のCSPI-EXPO2024では、同社の東日本地区正規輸入販売代理店である山崎マシーナリー株式会社と共同で出展。自社製のさまざまな建設機械を展示していました。
筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)が注目したホイール式油圧ショベル「EWR130E」は、2軸4輪の構造で、ショベルカーでありながらホイールベースは2.25m、全幅は2.54mとコンパクトな車体なのが特徴です。
アーム部分は、車体中心から最大で約8mの範囲を掘削できるほどの長さがありますが、走行時にはそれを車体全長約6mまで縮めることにより、狭い場所での移動も可能となっており、オプションによって前後輪が個別にステアリングする4WS(4輪操舵)仕様にすれば、さらに機動性と小回りを高めることも可能です。このコンパクトなホイール式油圧ショベルは、海外製ながらも日本の国土や都市事情にマッチした建機ともいえるかもしれません。
自走できるだけで断然コスパ良し!
また、タイヤ駆動であることから「EWR130E」は最大速度35km/hで公道を自走することも可能だといいます(日本国内ではまだナンバーを取得しておらず、現在対応中とのこと)。
油圧ショベルといえば、日本国内ではクローラー(無限軌道、いわゆるキャタピラ)式の車両の方が多く、一般的にもこちらの方がイメージ強いでしょう。しかし、ブースにいたスタッフいわく、海外ではホイール式の普及率は高く、特にボルボ建機の本社があるスウェーデンではそれが顕著なのだそうです。
スウェーデンでホイール式油圧ショベルがよく使われる理由として、担当スタッフは次のように説明してくれました。
「スウェーデンの国土面積は日本とだいたい同じくらいなのですが、人口は10分の1程度なのですべての業種で慢性的な人手不足に陥っています。そのため、建築現場でも徹底した省人化と効率化が求められています。このようなホイール式車両だと自走で移動できるため、クローラー式重機のように輸送用の運搬車両(キャリアカー)が必要ありません」
クローラー式の重機の場合、日本を含めたほとんどの国では公道を長い距離走ることができず、工事現場までは運搬車両とそのドライバーを別途手配する必要があります。対して「EWR130E」であれば、日本国内ではまだ公道走行はできないものの、海外では工事現場に作業員自ら運転して移動し、そのまま工事を行うことができます。
また、車両後方にオプションで「トレーラーヒッチ」というフック状の部品を増設すればトレーラーを牽引することも可能なため、海外ではこれを用いてトレーラーを接続し、そこに現場で使用するアームのアタッチメントなどの機材を積載して輸送することもあるのだとか。こうすることで、小規模な現場であれば1台と1人のオペレーターで移動・機材輸送・工事のすべてに対応することができると話してくれました。
ホイール式の問題点は? それでもメリット大な理由
もちろん、ホイール式にはクローラー式と比べてデメリットもあります。
一番の違いは安定性で、ホイール式が装着しているタイヤは重量や地盤の状況によって変形するため、固定部品で構成されたクローラーと比べて車体自体の安定性が低くなります。このため、地盤が緩く斜面などもある不整地の工事現場では、クローラー式油圧ショベルの方が作業に適しているといえるでしょう。
ただ、一方で地盤がしっかりした都市部などでの工事では、タイヤを装着したホイール式の方が地面を痛めることなく、かつ現場への移動も前述したようにクローラー式よりもスムーズに効率よく行うことができます。
ホイール式油圧ショベルにはメリットだけでなくデメリットもありますが、今後は日本国内の工事現場についても人手不足による効率化が求められるようになることは間違いないでしょう。そのため近い将来、このようなホイール式の建機は今まで以上に、見かけることが多くなるかもしれません。
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