いつもクールで物静かな男が吠えた——。左リヤタイヤが外れ、3輪の状態でピットレーンに止まりレースを終えた佐藤蓮。その悲痛な叫びは、オンボードカメラ越しにもハッキリと聞こえた。
鈴鹿サーキットで行なわれたスーパーフォーミュラ第8戦。PONOS NAKAJIMA RACINGの佐藤は、予選で今季最高となる3番グリッドを獲得。予選・決勝共にトップ3入りはルーキーイヤーである2022年以来であった。
■予選Q1の動きで野尻をいつになく憤慨させた太田格之進。本人は“駆け引き”の範疇との認識「予選なら常に起こり得ること」
決勝ではスタートでストールした岩佐歩夢(TEAM MUGEN)を横目に2番手に上がった佐藤。トップを走る太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)のペースは異次元ですぐ離されてしまったが、後ろを走る牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)を抑えることには成功しており、表彰台が十分に狙えるレースを展開していたのだが、ピットに入った11周目に事件は起こった。
タイヤ交換を終え、ピットアウトした佐藤のマシンから左リヤタイヤが脱落したのだ。佐藤はすぐさま、車両が走行するファストレーンを離れ、他チームのピット作業エリア付近に退避。大きな声とジェスチャーで怒りをあらわにしたが、自らのマシンをNAKAJIMA RACINGのピット付近まで押し戻してくれた他チームのメカニック達には「すみません」と謝る姿もあった。
現在ランキング12番手に沈む佐藤だが、レースウィークに見せるパフォーマンスとリザルトの乖離には本人も担当エンジニアもやるせない思いを感じている。開幕戦は一時2番手を走行するもピット戦略が失敗し5位。第2戦オートポリスはポイント圏内まで追い上げたところでギヤトラブルに見舞われた。第7戦富士は4番手でフィニッシュするも車検で重要違反が発覚し失格……そして迎えたのが今回の鈴鹿戦であった。
珍しく感情を爆発させたことについて、佐藤は次のように語った。
「いつも結構冷静な方ではありますが、今日はこのレースに懸けている思いもあって、チャンスをものにしたいと思っていました」
「でも、自分だけに起きているようなことではありません。仁嶺くん(Kids com Team KCMGの福住仁嶺)だってそうですし。自分だけじゃないので。こういうことも含めてのモータースポーツですから。ただ、悔しいのは悔しいですけどね」
ドライバーとして、こういった悔しいレースの翌日にまたレースが控えているというのは、気持ちの切り替えも容易ではないだろう。しかし佐藤は、ピット作業を行なったクルーを責めることもせず、翌日の第9戦に向けて良い空気を作りたいと語っていた。またインタビューの前後には、ドライバー仲間といつものように笑顔で会話する場面も見られた。
「あの直後はやっぱり頭に血が上っていましたが、誰が悪いということではないですし、責めてもいいことはありません。明日に向けてチームとして良い空気を作れるように、話し合いましたし、今夜もまた少し話ができればと思います」
「(タイヤ交換作業を)100回中100回成功させるのは難しいかもしれませんが、こういったプレッシャーがかかった時に、どうやってミスをなくせるかが重要だと思います。ここで腐らずに、明日に切り替えて頑張りたいです」
気になるレースペースについては、ポールトゥウインを飾った太田についていけるほどではなかったとしつつも、「ガソリンが軽くなっていったところでバランスが良くなっていき、5号車(牧野)と36号車(VANTELIN TEAM TOM'Sの坪井翔)を抑えられるくらいのペースはありました。チームとして2位は持って帰りたかったですね」と振り返る佐藤。今季最終戦で、そのポテンシャルを結果に繋げることはできるだろうか。
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