コンパクトSUV大豊作の年となった2020年。昨年末に発売されたダイハツロッキー/トヨタライズの大ヒットに始まり、6月には日産キックス、8月にはトヨタヤリスクロスが登場し、どれも登場するやいなや、国内市場に旋風を巻き起こしている。
そんな熾烈極める国内コンパクトSUVジャンルに、海外から殴り込みをかけたのが、フォルクスワーゲン(以下VW)のT-Crossだ。T-Crossは、欧州地域で爆発的なヒットとなっているVWのSUV 3兄弟(ティグアン、T-Roc、T-Cross)の末っ子であり、日本市場へは、2020年1月に導入され、話題となっている。
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これまで、VWといえば、「ゴルフ」が欧州地域で圧倒的な強さを誇っていたが、世界的なSUV隆盛の流れを受け、VWとしても、このSUV3兄弟には、かなり力を入れているようだ。
T-Crossの欧州地域でのライバルは、ルノーキャプチャー、ダチアダスター、プジョー2008、トヨタヤリスクロス、といったところだが、果たして、T-Crossの実力はどれほどのものなのか。今回、日本導入モデルである「T-Cross TSI 1st plus」に公道試乗することができたので、その詳細をお伝えしていく。
文/吉川賢一、写真/池之平昌信
【画像ギャラリー】本文未掲載写真も! 激戦の国内SUV市場に海外から参戦! VW T-Crossに試乗する
■輸入車の概念を超えた価格設定
VWのSUV3兄弟の末っ子、VW T-Cross
国内導入されたT-Crossは、「TSI 1st(車両本体価格、税込303.9万円)」と、「TSI 1st Plus(同339.9万円)」の2グレードだ。
価格だけをみると、「やはり輸入車」という印象を受けてしまうが、実はベースグレードでもACC(アダプティブクルーズコントロール)や、ブラインドスポットディテクション、LEDヘッドライト、インフォテイメントシステムのDiscover Pro(SSDナビ、オーディオ、TV等)が、なんと標準装備なのだ。
それを考えると、この304万円という価格は、輸入車とは考えられないほど、リーズナブルだといえよう。
ベースグレードから36万円アップとなる「Plus」の内容は、主にレーンキープアシスト、ハイビームアシスト、パドルシフト、インテリアのアンビエントライト、シルバールーフレール、スポーツコンフォートシート、そして215/45R18サイズの18インチホイールだ(標準は205/60R16)。
加えて、3色のデザインパッケージ(ブラック/オレンジ/グリーン)が標準設定となり、ドアミラーやアルミホイールに加えてインテリアが3色の中から選択できる。
パワートレインは、1.0リットル3気筒直噴ターボエンジン(116ps/20.4kgfm)と7速DSGの組み合わせ一本となる。本国ドイツでは、ハイパワーな1.5リットルTSIもラインアップにあるが、常用速度域の低い日本市場には不要ということだろう。
WLTC燃費は16.9km/L(市街地13.2、郊外17.1、高速19.1)と、国産のコンパクトSUVと比べて良いとは言えないが、ドイツのメーカーらしく、高速巡行での燃費を優先したセッティングとなっているようだ。
■クルマの作りこみは、さすが「VW」
サイドサポートは小さめに見えるが、沈みこむためしっかりと身体を支える形状だ 手引きのサイドブレーキも実用上は全く支障がない
全長4115×全幅1760×全高1580mm、ホイールベース2550mmのコンパクトなボディサイズは、ヤリスクロス(4180×1765×1560、WB2560mm)とほぼ同じ。
だがT-Crossの方がボクシーなスタイリングのため、ヤリスクロスよりも車室内の広さは勝っているように感じる。スクエアなウィンドウも、前後席からの見晴らしがよく感じる理由だ。最小回転半径も、5.1mとコンパクトSUVの中でも小さく、これも嬉しいポイントのひとつだ(※ヤリスクロスは5.3m)。
試乗したのはTSI 1st Plus。18インチを履いた上級モデルのほうだ。ドアを開けた瞬間から「つくりの良さ」を感じる。近年は、国産車も、このドアを開閉した際の音に重厚感が増してきてはいるが、T-Crossのそれは、やはりドイツ車らしい「クルマのつくりの良さ」を感じさせるものだった。
ファブリックシートは、サイドサポートが小さめに見えるものの、身体を沈み込ませて支える形状となっているため、ちょっと頑張った走りをしても体がずれる心配はない。ステアリングもチルト&テレスコピック調節ももちろんでき、ドラポジ調節も問題ない。
久しぶりに見た手引きのサイドブレーキも、ドリンクホルダーとレイアウトでケンカにならなければ、このタイプであっても問題はないと筆者は考える。
ただし、ACCの停車時のホールド時間が短くなるのはいただけない(詳しくは後述する)。ドイツでは、T-Crossに5速MTもしくは6速MTもあるので、部品共用化が、手引きサイドブレーキとなっている要因だろう。
液晶モニターは中央のスペースのみ。この中に、ACC動作中の表示や設定速度などが詰め込まれているため、慣れないと少し見づらかった
メーターは、VWが推しているフル液晶デジタル式ではないものの、シンプルで見やすい表示だ。
しかし、ACC作動時の表示が小さく、視認しにくいのは小さな課題だろう。しかし、ステアリングホイールやシフトノブ、ハード樹脂を多用したインパネやダッシュボード、センターコンソールなどの「質実剛健なつくり」は、ちょっと前のVW車に近い、頼もしさを感じさせるものだった。
■中低速以上にマッチした足回り
軽自動車より少し大きい程度の排気量とは思えない加速感だ。さすがVWといったところか
軽自動車の排気量に毛の生えた程度である、1.0リットル(正確には999cc)という排気量で、どうしてこれほど力強い加速や巡行走行ができるのだろうかと、本当に驚かされる。
DSGの低速発進時の動作を気にする方も多いが、少なくともこのT-Crossに関しては、違和感などは全くなく、ごく自然な動作だ。回転数をさほど上げずに、「クン!! クン!! 」とシフトアップをしていくので、イメージ通りの加速に乗せやすい。
一般道やワインディングでの身のこなしは、ボディサイズに対してオーバースペックにも思える18インチタイヤ(ピレリCinturate P7)と、1270kgという、やや軽めの車重の恩恵もあり、グイグイと旋回をするイメージだ。
路面に張り付いたような動き、とまではいかないが、試乗当日は激しめの降雨になる時間もあったものの、一般道を流す程度では、タイヤのグリップ不足を感じたり、滑るそぶりを感じることは全くなかった。
乗り心地は、ボディの上下動をしっかりと抑制し、フラットに保つようなセッティングだ。そのため、中低速で走るワインディングや高速巡行は得意だ。欧州の郊外路を快走するイメージが似合う。
半面、段差乗り越し時の突き上げは大きめだ。「ドタン!」といったインパクトノイズと鋭いショックは、後席の方がよりきつい。原因は45扁平のタイヤにあるのは間違いない。
ファッション性の高い18インチホイールを採用。その分段差乗り越しのショックは大きめだ
デザインを楽しむコンセプトのために18インチを採用したのだろうが、T-Crossには17インチが限界だと思われる。17インチで、カッコよいホイールデザインを望みたいところだ。
T-Crossは、高速走行が「大の得意」だ。車自体が持つ直進性が非常に高く、ステアリングも支える力もわずかで済むので、「この上ないほどに極上」の高速クルージングができる。ロードノイズも比較的小さく、安っぽい音や嫌味な音は一切ない。
1.0リッターの排気量と、全長4.1メートル程度のコンパクトSUVだということを忘れるほどに、安心感の高い巡行走行ができる。
■日本車メーカーも油断してはいけない一台
値段的に少し頑張れば、素性が良く他人と違うSUVが手に入る。日本メーカーも油断してはいられない
T-Crossの魅力は、かっちりとしたつくりの良さと、つくりの良さがもたらした「走り」の素性の良さだ。
これまでクルマのオシャレ度では、ルノーやミニ、プジョーに対して及んでいなかったように思えるVWだが、エクステリアとインテリアカラーの遊び心も加わり、300万円ちょっとで手に入るのならば、このT-Crossを考えてみよう、という、日本のユーザーも多いに違いない。
キックスやヤリスクロスといった国産コンパクトSUVは、ハイブリッドシステムによる燃費向上面で、欧州勢に対して有利ではあるが、これだけリーズナブルな価格で、おしゃれで質実剛健なドイツ車が手に入る、となれば、決して油断はしていられない。
「コンパクトSUVがいいけど、他人とはちょっと違うクルマがいい」という需要にもちょうどいい。
このT-Crossが、今後国内でどれくらい暴れてくれるか、非常に楽しみだ。
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