■かつてF1でチームチャンピオンにもなったクーパー
ミニのグレード名にある「クーパー」と、ミニの高性能モデルである「JCW(ジョン・クーパー・ワークス)」というネーミングは、どちらも同じ人物が由来となっている。それが1923年生まれの英国人、ジョン・クーパー氏(2000年死去)だ。
なぜミニの人気は続く? 日本でミニが輸入車ナンバーワンの理由とは
ジョン・クーパー氏の父親であるチャールズ・クーパー氏(1893年生まれ)は、レーシングマシンを修繕する工場を経営していた。そのガレージを遊び場に育ったジョンは、当然のようにメカニズムに興味を持つ。
そして、1946年に親子で「クーパー・カー・カンパニー」を設立し、レーシングマシンの製造に乗り出す。当時は会社の規模が小さかったため、クーパーが作るのは車体だけ。エンジンは自動車メーカーのものを買ってきて乗せるという手法だ。
こうした英国の小さな会社によるクルマ作りは「バックヤードビルダー」と呼ばれるものであった。
クーパー親子が作り出したマシンは非常に高性能で、1950年代にはF1にも進出を果たした。
当時のF1は、エンジンを前に置いたFR駆動方式が主流であったが、クーパー親子はエンジンをドライバーの後ろに乗せるミッドシップ方式を採用し、驚くほどの速さを見せつけた。当時、クーパー製のF1をドライブしたのは、ジャック・ブラバムやスターリング・モスといった伝説のパイロットたちである。そして1959年には、フェラーリやマセラティ、アストンマーティン、ポルシェといったライバルを打ち破り、クーパーはF1コンストラクターズ・チャンピオンを獲得。翌1960年も連覇したのだ。
そうした絶頂期のクーパーの目に留まったのが、1959年に誕生したMini(ミニ)であった。
ミニが目指したのは、ベーシックなファミリーカーだ。ミニマムな空間に大人4人を乗せ、経済的に走れるという合理性が特徴だ。決して、速さを謳うクルマではない。
しかし、クーパー親子は、そのミニの潜在能力の高さを見抜き、ハイパフォーマンス・モデルの開発・販売を提案する。F1で大活躍するクーパーの進言を受けて、当時、ミニを製造していたBMC社は「ミニ・クーパー」と名付けた高性能モデルを開発し、1961年に発売したのだ。
■ミニの高性能サブブランドになった「ジョン・クーパー・ワークス」
この最初の「ミニ・クーパー」は、素のミニよりもエンジンの排気量を大きくし、パワーをアップ。それに合わせて前輪にディスクブレーキを採用するなど、パワーアップに見合う改良が随所におこなわれていた。
そして、その“速さ”は、すぐにコンペティションの世界で証明される。
発売翌年の1962年には、国際ラリーやサーキットで優勝。とくにラリーでの活躍は華々しく、モンテカルロラリーでは、大パワーを誇るポルシェなどを蹴散らし、1964年、1965年、1967年と総合優勝を成し遂げる。
1966年は最初にゴールするものの、ヘッドライトの車両規則の問題で失格に。つまり、それさえなければ1964年から1967年までを4連覇したことになるのだ。
こうしたコンペティションの場での活躍で、ミニ・クーパーの名は絶対のものになった。ミニの高性能版だけでなく、一時はミニそのものを指す言葉として「ミニ・クーパー」の名を覚える人もいたくらいであったのだ。
ちなみにクーパー親子は、1960年代までF1の世界で戦い続けたが、父の死去などにより、1965年にチームを売却。レースの世界から遠ざかるものの、ミニのチューニングは、その後も継続していた。
※ ※ ※
そして、時代を経て、2000年からは、BMWの傘下から新世代のMINI(ミニ)が生まれる。
そこで、クーパーの名称は、高性能グレードに使われることになった。一方で、BMWは、ジョン・クーパー・ワークス社を同年に設立し、新生ミニ専用チューニング・アクセサリーを提供することに。
そうしたチューニング・キットは高い人気を集める。そして、2007年にはJCWエンブレムを冠したチューンナップ・モデルが誕生。翌2008年には日本にも導入されることになる。これが今に続く、JCW(ジョン・クーパー・ワークス)モデルの起源だ。
新生ミニも、1960年代と同じようにコンペティションの世界へと投入される。2011年にMINI John Cooper Works WRCが世界ラリー選手権(WRC)に参戦。2012年から2015年にかけてはダカール・ラリーを4連覇。コンペティションの世界でのミニの強さを新世代モデルでも再現して見せたのであった。
現行ミニのラインナップにもクーパーの名を与え、そして、最高レベルのチューニングカーはJCW(ジョン・クーパー・ワークス)と呼ぶ。これもすべてミニとジョン・クーパー氏の栄光の歴史が由来となっているのだ。
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