「チョークレバー」は消えたがインジェクション車でもアイドル調整は行われている
日々、バイクのテクノロジーは格段の進化を遂げている。ひと昔前では当たり前のように備わっていたメカニズムが過去のものになってしまうことも珍しくない。この記事ではそんな懐かしの「失われたメカニズム」をいくつか紹介しよう。
【画像11点】リターンライダー感激!? 懐かしのメカ「アンチノーズダイブ」「キック式ペダル」「キャブレター」を解説
ここ20年での進化において代表的なのは、燃料供給装置がキャブレターからインジェクションに変わったことだろう。当初は大型バイクから始まったインジェクションへの流れは、いつしか原付スクーターまで拡大した。いまや新車でキャブレターを使っているバイクを見つけることは難しい。少なくとも日本メーカーの国内モデルでは皆無に近いといえる。
そしてキャブレターがなくなったことで消えたのが「チョーク」機能だ。かつてはハンドルなどに備わるレバーを引くことでチョークを効かせ、それからエンジンを始動していた。チョークレバーを引くと、キャブレターが吸い出す燃料が増える(燃調が濃くなる)ように設計されている。それにより寒い時期などの始動性を上げるという機能だ。そうして始動させたエンジンが暖まってきたらチョークレバーを戻し、それから走り出すという儀式が必要だった。
そんなチョークレバーは必ずしも「インジェクションが主流になったから消えた」というわけではない。キャブレター時代の晩期には、温度によって作動するオートチョーク機構を採用したモデルもあり、またインジェクション車でもアイドリング回転数をレバー操作で上げるファーストアイドル機構を採用したモデルもあった。
ちなみに現在のインジェクション車でも始動性を高めるための工夫はしているし、エンジンが暖まるまでのアイドルアップを行うための通路を用意していたりする。完全に電子制御でスロットルバルブを動かすバイワイヤのスロットル系となっていない限り、チョークに似たシステムは残っていたりするのだった。
始動方式も進化している!! キック→セル……将来的にはどうなる?
さて、エンジン始動といえば、最近ではセルモーターを回してエンジンをかけることが当たり前となっているが、かつてはキックによってエンジンを始動することが基本という時代もあった。いまでもホンダ スーパーカブなどはセルとキックを併用したメカニズムとなっているが、これはバッテリーが弱ってしまったときでもエンジンをかけられるようにするためだ。
おそらく国産のバイクで、最後までキック式スターターだけの設定だったのは2021年に惜しくも生産終了となったヤマハ SR400だ。あえて最後までキック式だけとしたのは、そのエンジン始動シークエンスがひとつの文化と捉えられていたからだろう。
さて、セルモーターについても将来的には消える可能性がある。それはエンジンが消えてしまうから……ということもあるが、ISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)を利用したマイルドハイブリッドが増えていくと考えられるからだ。
クランク軸につながったISGは、それ自体が回ることでスムースにエンジンを始動させることができる。すでに一部のハイブリッドバイクで体感できるが、ISGのノイズと振動の少ないエンジン始動を味わってしまうと、セルモーターに戻れないと感じること請け合いだ。
80年代に流行ったアンチノーズダイブ、現在は電子制御サスペンションが姿勢を制御!!
ところで、キャブレターでキック式スターターもまだまだ残っていた1980年代、スポーツモデルに採用されたのが「アンチノーズダイブ」などと呼ばれる(メーカーによって呼び名が異なった)サスペンション機構だ。
簡単にいうと、ブレーキ操作に連動してフロントの減衰力を高めることでノーズダイブを抑えるというもので、登場当初はブレーキングの姿勢を安定させ、コーナリング性能を高めるメカニズムとして脚光を浴びたものだ。
ただし、結果的には走りにおいてプラスとなるという評価は少なく、アンチノーズダイブ機能をキャンセルするライダーも出てくるなど、あっという間に消えてしまった記憶がある。
とはいえ、ブレーキングに合わせてサスペンション特性を変化させるという狙いそのものが間違っていたわけではない。現在のスーパースポーツでは姿勢変化を検知するセンサー(IMU)と電子制御サスペンションを連動させるといったメカニズムも当たり前のように備わっているのが、その証だ。
レポート●山本晋也 写真●ヤマハ/カワサキ 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実
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キック併用って地味に安心なんですよね