F1チームには多数の人々が関わり、さまざまな職種が存在する。この連載では、普段は注目を浴びる機会が少ないメンバーに焦点を当て、その人物の果たす役割と人となりを紹介していく。今回は、角田裕毅のパフォーマンスコーチに今年就任したマイケル・イタリアーノに焦点を当てた。
F1ドライバーのパフォーマンスコーチの仕事は、ドライバーの身体的、精神的な状態をベストなレベルに保つため、トレーニング、食事、睡眠管理、ストレス解消などのために取り組むことで、ドライバーを最も身近から支える存在のひとりだ。
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F1ファンにとって、顔は知っているけれど名前は知らないというF1関係者が何人かいるのではないだろうか。いつもドライバーのそばにいる人物で、よく一緒に写真に映っているが、あれは誰なのだろうという存在で、マイケル・イタリアーノはそのひとりだと思う。彼は以前ダニエル・リカルドのコーチを務めていたが、今年から角田裕毅のパフォーマンスコーチとして彼を支えている。
オーストラリアのパース出身のイタリアーノは、最初からF1関係の仕事を目指していたわけではなく、元々は地元で土木技師として働いていた。鉱業の分野を主に専門にしていた彼の人生を変えたのは、ロバート・キヨサキの「金持ち父さん貧乏父さん」という一冊の本だった。この本は、「お金の力を正しく知る」というテーマのベストセラーだが、イタリアーノはここに書かれていた金銭的な教訓というよりも、情熱を追求してキャリアを築くという考え方からインスピレーションを得た。健康、フィットネス、スポーツに強い関心を持ち、オーストラリアンフットボールでセミプロレベルの選手として活躍した彼は、コーチングとストレングス&コンディショニングの分野に踏み出した。
その道のプロになるために、イタリアーノは、早朝6時から8時は地元のジムで働き、その後、パース中心部のオフィスに出勤してフルタイムで本業に取り組み、夜6時から8時半は再びジムで仕事をするという忙しい生活を送るようになった。数カ月後、イタリアーノはコーチングを専業にできるだけの数のクライアントを獲得、2年後にはクライアントの人数は50人にまで増えた。
そのころには、アマチュアアスリートのコーチも務め、何人かのスタッフを雇うようになった。大きな変化が訪れたのは、2017年のことだ。イタリアーノは、共通の友人を通じてリカルドのことを11歳のころから知っていた。その後、世界的な大スターになり、レッドブル・レーシングで走っていたリカルドから、2017年末、自分のコーチになってほしいというメッセージを受け取ったのだ。
冬の間に話をした結果、ふたりは契約を結ぶことになり、イタリアーノは、リカルドのレッドブルでの最後のシーズン、その後のルノーでの2年とマクラーレンでの2年を、彼のそばで過ごすことになった。2022年末でリカルドはマクラーレンを離脱し、F1レースドライバーの仕事から離れることを決めたため、イタリアーノとリカルドの関係は5年で終わりを迎えることになった。
リカルドが2023年にはレースに出ないと決めたのが比較的早い時期だったため、イタリアーノとの契約に多くのドライバーたちが関心を示した。しかしそのなかでタイミング的に最も適していたのが、角田との契約だった。当時、角田のコーチを務めていたノエル・キャロルがF1の仕事から身を引くことを決めたのだ。
まず、レッドブル・レーシング代表クリスチャン・ホーナーと、モータースポーツコンサルタントのヘルムート・マルコが、シーズン最後から2番目のサンパウロGPの週末に、イタリアーノとのミーティングの場を設け、彼に角田と仕事をする気があるか、仕事をする場合、レッドブルとして彼に何を求めるかについて話し合った。インテルラゴスでは、同様の会合がアルファタウリF1チーム代表フランツ・トストとの間でも行われた。
これらの話し合いの後にイタリアーノは決意を固め、最終戦アブダビで、角田と1時間共に過ごし、コーヒーを飲みながら話をした結果、ふたりはうまくやれるだろうこと、楽しいパートナーシップを築けそうだという確信を持つことができたのだという。
こうしてイタリアーノは角田のパフォーマンスコーチに就任した。彼の仕事は、おおまかに言うと、シーズン前には開幕に向けて角田のフィットネス面の準備を整えること、シーズン中には、そのフィットネスレベルを維持することだ。一番重要な仕事は、レースウイークエンド中の取り組みで、角田が4日間をできるだけスムーズに過ごし、最大限のパフォーマンスを発揮できる状態を整えることにある。
イタリアーノの仕事には、角田の食事と栄養に関する準備も含まれる。さらに、角田に食事が提供されるタイミングを調整し、ドライバールームにおいて、レーシングスーツなどを整え、ウォームアップを行う。角田の心を正しい状態に持っていくことも大事な仕事で、角田の言葉に親身になって耳を傾け、彼のストレスを発散させ、アドバイスをすることもある。
さらにイタリアーノは、角田の生活習慣(携帯電話の使用など)を見守り、すべての仕事に遅れないようスケジュールを設定し、最高の状態を保つため十分な睡眠がとれるように調整する。
つまり、イタリアーノはグランプリウイークエンドの4日間は働き詰めということになる。とてもハードな仕事だが、彼は、世界中を旅しながら、アスリートがポテンシャルを最大限に発揮するためのサポートをする仕事に、大きなやりがいを感じているという。
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