マセラティ第二のSUVとして2022年に登場したグレカーレ。グレカーレ トロフェオはF1由来のテクノロジーを採用した3L V6ネットゥーノエンジン搭載する。そのフラッグシップモデルのハイパフォーマンスぶりを堪能した。(Motor Magazine 2023年11月号より)
スポーツドライビング性能を高める4WDシステム
グレカーレは新世代マセラティのブランドエントリーモデルとして、そしてレヴァンテよりひと回り小さな体躯を活かした機動力の高いSUVとして企画された。ちなみにこれまでその任を担っていたギブリはクアトロポルテと一本化され、フラッグシップサルーンを1車種とするというのがマセラティが描く未来図となる。
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日本で展開するグレカーレのラインナップは3グレードとなる。標準的な立ち位置となる「GT」は2L 4気筒ターボを基に電動コンプレッサーを組み合わせ、さらに48VのBSGによって低~中回転域のトルクを補うマイルドハイブリッドで、そのエンジン本体の側のパフォーマンスをさらに高めたのが「モデナ」だ。
そしてグレカーレのフラッグシップ的な位置づけとなるのがこの「トロフェオ」となる。ちなみに欧州では2023年6月にBEVの「フォルゴーレ」が発表されており、パワートレーンのアプローチは異なれど見方を変えればこちらもフラッグシップ的な位置づけと見ることができるだろう。
グレカーレのプラットフォームは同じグループのアルファロメオが採用するジョルジオプラットフォームを基に、独自のエンジニアリングを加えたものを用いている。足まわりはフロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンクとなり、GTとモデナはコイルサスペンション、トロフェオはエアサスペンションが標準となる。
四輪駆動システムは多板クラッチのカップリングを電子制御でコントロールする今日的な仕組みだが、その制御ロジックが基本的に100%の後輪駆動を前提としていることが特徴的といえるだろう。必要に応じて最大50%までを前軸側に配分するその味付けは、もちろんオンロードでのスポーツドライビング時の回頭性を重視したものだが、ドライブモードによっては低ミュー時のグリップ力を重視した側へと基本設定を変更することもできる。
外寸的にはポルシェ マカンやアルファロメオ ステルヴィオといったDセグメント級SUVよりも若干大きめとなるグレカーレだが、相応の利はパッケージングにもたらされており、たとえば荷室容量はトロフェオで570Lとそれらを軽く上回り、メルセデス・ベンツGLCやBMW X3といったあたりにほど近い。
また、外形からは想像できないほど室内形状はプレーンで、後席に座っても足元の余裕はもとより、膝まわりや腰まわりの角度や高さ、側頭部の間の取り方なども適切と、兄貴分のレヴァンテよりむしろ快適度は高いと思う。
コクピットまわりはレヴァンテに対すれば一気にデジタル化が進められており、12.3インチのメーターパネルも含めたすべてのインフォメーションは液晶パネルで表示される。センター部にも上下二段構えのディスプレイを装備する。
ライバルをも上回る加速力。ネットゥーノエンジンはやはりいい
トロフェオに搭載されるエンジンは、気筒内にF1テクノロジー由来のプレチャンバーを備えた3L V6ツインターボのネットゥーノとなる。ご存知のとおり、MC20の発売と共にデビューしたそれは、今後のマセラティにおける内燃機パワートレーンの側の象徴を担うべく、彼らがゼロスタートで開発したものだ。
そのアウトプットは530ps/620Nm。生粋のスーパースポーツとなるMC20に比べると、クルマの性格や用途的にもパワーを落として扱いやすさを高める方向でチューニングされているが、それでもピークパワーはポルシェマカンターボやBMW X3 Mをも上回り、クラス最強のスペックを実現している。
ちなみに0→100km/h加速は3.8秒、最高速は285km/hに達するというから、その速さは頂点的なグレードに相応しいものといえるだろう。
プレチャンバーによる高速燃焼で熱効率を高めることを可能としたネットゥーノの回転フィールは、MC20に搭載されているそれと比べると爆発の粒感がきめ細かく、低中回転域の微振動も綺麗に取り払われていた。
車体構造やマウント類の差も相当なものとはいえ、高級車としても通じるような滑らかな回転質感を見るにつけ、このエンジンの異なる可能性を知らしめられた気がする。
出力特性は気持ち高回転型で、実効的なトルクが得られるのは1500rpmから上という印象だ。そこから6500rpmのレッドゾーンを超えんがばかりの勢いでパワーを乗せていく、その快活さはMC20の血筋を感じさせる。
サウンドは3気筒や5気筒のように中音が強めに響く印象があるが、高回転域でのプォーンと響く快音はライバルにもないトロフェオならではの個性だろう。
ハンドリングはまるで4WDのネガを感じさせない一方で、制御的に曲げてもらってる印象もない。至って自然にストレスなくノーズの向きを変えてくれる素直さが印象的だ。持てるパワーを鑑みればリアグリップを失いそうな状況にそうやすやすと陥らない、その接地感も見事なら、路面のオウトツをスタスタと軽やかにいなす接地感の按配の絶妙さもお見事だ。
ボディコントロールデバイスのVDCMは黒子に徹して、普段乗りでは抱えるパワーを思わせないほどカドの取れた丸い乗り心地を供しながら、いざ求められた時には即座にアシストの手を差し伸べる。
運動性能にもまた、マセラティらしいエレガンスが貫かれているのがトロフェオの凄みといえるだろう。(文:渡辺敏史/写真:井上雅行)
マセラティ グレカーレ トロフェオ主要諸元
●全長×全幅×全高:4860×1980×1660mm
●ホイールベース:2900mm
●車両重量:2030kg
●エンジン:V6DOHCツインターボ
●総排気量:2992cc
●最高出力:390kW(530ps)/6500rpm
●最大トルク:620Nm/3000-5000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・64L
●WLTCモード燃費:11.2km/L
●タイヤサイズ:前255/40R21、後2950/35R21
●車両価格(税込):1604万円
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