6LのW型12気筒ツインターボという、近年のベントレーを代表するエンジンの歴史が2024年4月に幕を閉じることとなる。そのフィナーレを飾るのにふさわしい、格別の存在として企画されたのが、世界でわずか18台のみが顧客に届けられるこのモデルである。(Motor Magazine2023年8月号より)
心臓部は最高出力750ps、最大トルク1000Nm
2030年までにエンドトゥエンドでのカーボンニュートラル化を目指し、電動化への歩みを急速に、かつ着実に進めているベントレー。そのプロセスのひとつとして、彼らは24年4月をもって、近代ベントレーのアイコンというべきW型12気筒エンジンの生産を終了することを発表した。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
その最後を飾るモデルとして、ベントレーのビスポーク部門であるマリナーが作り出したのが、全世界で台限定生産車の「バトゥール」である。
「W12の生産を中止し、電気自動車の未来に進む前に、W型12気筒のあり方を最終的かつ究極的に表現するものとして、実にユニークな位置を占めているのです」
そう語るのは、マリナーのチーフテクニカルオフィサーを務めるポール・ウィリアムズ氏だ。
エンジンは、排気量は6Lのままながら、ターボチャージャーの大型化、インタークーラーとインテークの大型化、そしてECUマッピングの変更によって最高出力750ps、最大トルク1000Nmという仕様の歴代最高となるチューニングを達成している。何より、冷却能力の向上がキーになっているという。
それに合わせてリアトレッドが20mm拡大されているほか、強化された8速DCT、大径のカーボンシリコンカーバイトブレーキローターが標準装備となる。基本的にはコンチネンタルGTスピードのコンポーネンツが踏襲される。
一方、25年以降に登場するBEVモデルなど未来のベントレーのデザインを先取りしたというのがボディで、ベースモデルと共通なのはフロントウインドウとAピラーのみ。インテリアも、ステアリングホイールなど操作系やインパネの基本躯体のみ共通で、他は専用デザインとなっている。カーボンファイバー製ボディパネル採用、リアシートの撤去などで40kgもの軽量化を果たしている。
ワープするような体感性能。製品企画の凄さもまた圧倒的
今回、スペイン領テネリフェ島で試乗したバトゥールは、最初に作られた#0、その経験を活かしたほぼ生産型に近い#00という2台のプロトタイプだった(ちなみに4月に東京で公開された白い個体はデザイン用のショーカー)。
ウィリアムズ氏によると、#0の右フロントフェンダー、そしてサイドスカートには綾織によるナチュラルファイバーを試験的に使っているという。しかし近くで見ると不規則な繊維の跡が目立ってしまうため実用化には至っていないが、インテリアに使われている低炭素レザー、古い宝飾を溶かしてリサイクルした18Kのセレクターなど、サスティナブルな素材を積極的に使用しているのもバトゥールの特徴であるとのことだ。
最高出力750psと聞いて、一体どれだけ凄いクルマなのだろうと期待して接すると拍子抜けしてしまうほどバトゥールは扱いやすく、室内も静かで乗り心地も良く快適だった。
スタンダードのコンチネンタルGT同様、アクセルペダルに力を入れなくても2000rpm以内ですべてが完結する。唯一の欠点はフロントまわりを刷新した影響なのか、ACCが備わらないことだが、いざアクセルペダルに力を込めると、そんな些細なことは一瞬にして吹っ飛んでしまう。
スペックシートには、コンチネンタルGTスピードを上回る0→100km/h加速タイム3.4秒、最高速度337km/hという文字が踊るが、体感的には「ワープ」という表現が相応しいほどその加速力は圧倒的。そこに輪をかけて素晴らしいのがシャシ性能だ。
軽量化とリアのワイドトレッド化に加えて4WSやeLSDの効果により、高速時の直進安定性はもちろん、タイトなワインディング路でもノーズの入りがシャープな上にリアがしっかりと粘る。なので、多少早めにアクセルペダルを踏み込んでも挙動が乱れない。
とにかく、すべての面においてコンチネンタルGTスピードを1枚も2枚も上回っているバトゥールだが、実はこれを生み出したプロデュース力こそがマリナーの真骨頂であり凄さなのだ。その仕事は自由度の増すEVの時代になれば、より存分に発揮されるはずだ。(文:藤原よしお/写真:ベントレーモーターズ)
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みんなのコメント
これこそが限定車種だよな。