映画では「凶器」 現実世界では運転手とトラックを守るもの
欧米やオーストラリアなどを走るトレーラーや大型トラックのフロント部分には、バンパーというには大きくイカつい保護パーツが付けられているのをよく見かけます。日本でもランドクルーザーやジムニーを始めとした四輪駆動車などでは同様のパーツを付けた車体を、時折目にすることがありますが、トラックのそれは、はるかに巨大でイカつい印象です。
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それら車両が付けているパーツは「カンガルー・バー」や「ブル(雄牛)・バー」、「グリル・ガード」などと呼ばれており、海外ではトレーラーや長距離バスなど僻地を走る大型車に比較的多く装着されています。パーツの形状は規定化されておらず、そのデザインは様々ですが、基本的には太いパイプ状の部品で作られており、それが車体の前部に取り付けられています。
実はこの「カンガルー・バー」は日本国内でもよく見かける時期がありました。それは1990年代のRV(レクリエーション・ビーグル)ブームが起こったときで、装着していたのもトレーラーやトラックといった事業用車ではなく、個人が乗る自家用車の方でした。
その目的は車両保護というよりもドレスアップパーツとして取り付けられることが多く、野生動物との事故とは無縁な、街乗りモデルのクルマにも装着されていました。
ブームだった頃は、メーカー純正のオプションパーツまで存在するほど人気がありましたが、現在はそれも下火となり、流通しているのは社外品のアフターパーツが中心です。
日本じゃ想像ムリ! 海外の過酷な道路状況
日本で「カンガルー・バー」がメジャーでなくなった理由、それは歩行者保護に逆行するからです。車体前方に鉄でできた突起物が付くので、歩行者や自転車などのいわゆる交通弱者と接触した場合、その被害が大きくなる恐れがあります。
ゆえに、日本ではメーカー純正から姿を消し、社外パーツでのみ残るようになったと言えるでしょう。なお、ブームの最後の方にはプラスチック製の「カンガルー・バー」もどきと形容できるようなものもありました。
では、オーストラリアなどで走る車両が「カンガルー・バー」を装着する理由はなんでしょう。それは万が一、事故が起きた場合の車両とドライバーの生命を守るためです。
カンガルーといえばオーストラリアを代表する動物であり、国獣として飛行機の国籍マークなどではシルエットとして用いられるほど、同国の代名詞的存在として浸透しています。しかし、野生に生息する個体は大きいものでは体重が80kgもあり、これが高速で走る車両と衝突すれば車体に深刻な損傷を与えることになります。特に車体前部のフロントグリルにぶつかった場合、その中にあるラジエーターやエンジンが破損して、最悪、走行不能になる可能性もあります。
車が走れなくなった場合、日本ならばロードサービスを呼べばそれで済みます。しかし、オーストラリアの場合、国土の大部分が荒野と砂漠であり、トレーラーやトラックのような長距離運行の車両は集落すらない僻地を走ることが多く、そのような場所で車が走行不能になることは文字通り、ドライバーの生存に繋がる深刻な事態といえるでしょう。
筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は以前、オーストラリアに行った際に現地のトラックドライバーにハナシを聞きました。彼は僻地運行の危険性について、「オーストラリアの自然や野生動物は尊いものだが、それが人に優しいというワケではない」と語ってくれました。
国によっては保険の割引適応まで
オーストラリアと同様に、野生動物との衝突事故が深刻なのがスウェーデン、ノルウェー、フィンランドといった北欧の国々です。これらの国々では野生のヘラジカなどの大型動物による交通事故が度々起きており、ドライバーに対してヘラジカの注意喚起を促す道路標識まであるほどです。
ヘラジカはカンガルーよりも大きく、その平均体重は300から500kgにもなります。衝突事故が起きた場合、車体が受ける被害もカンガルーの比ではなく、「カンガルー・バー」のようなパーツは立派な実用品といえるでしょう。ちなみに、これら地域では「ブル・バー」と呼ばれる方が多いです。
なお、北欧の一部の車両保険では、EU基準(CEマーキング)を満たした「グリル・ガード(ブル・バー)」を装着した車体について、一定の割引制度を設けているものまであるそうです。
「カンガルー・バー」を始めとした「グリル・ガード」は、そのビジュアルから映画などのフィクション作品に登場する大型車両などに演出として重宝され、ゾンビや悪漢と戦うために使われるという設定で登場する作品もあります。そのような、ある意味で過酷なフィクションの世界ではなく、実際に過酷な海外の道路事情のために、車両を保護するパーツが存在しているのです。
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みんなのコメント
車つぶす前につけるべきか悩みますねー