「わからない」の力
わからないからいいんだね――。日本自動車界の伝説・本田宗一郎は、生前のテレビ番組で「無知の知」を説いた。現代社会は合理化が進み、物事の予測可能性は上がった。そしてビジネスマンは知識武装し、SNSは「知」と自己顕示欲に満ちている。そんな今こそ「無知の知」に立ち返り、知の傲慢と対峙すべきではないか。本連載では本田を通して考える。
※ ※ ※
「わからないからいいんだね。もし僕がわかるようなことをしていたら、若い連中はボンクラですよ。(中略)僕もわからんようなことをやってるから、私はうれしくて、希望に燃えているわけです」(フジテレビ系「今夜は好奇心!」1992年8月放送分「夏休み人物伝1 本田宗一郎 挑戦と成功」より)
「わからない」ということは、人によっては不安になるだろうし、知識偏重の社会では恥ずかしいことにもなりかねない。そこをあえて
「わからないからいい」
といった、ホンダの創業者であり技術者でもあった本田宗一郎の言霊を、イノベーターになるという観点から再考したい。
ちなみに「無知の知」とは、自分が何かを知らないことを自覚するという概念である。自分が何かを知らないことに気づいている人は、それに気づいていない人よりも賢いということだ。提唱したのは、古代ギリシャの哲学者ソクラテスである。
現代で自動車メーカーの創業者といえば、テスラのイーロン・マスクだろう。正確にいえば、イーロン・マスクは、テスラの創業者のひとりという位置付けであるが、元々物づくりが好きで、自らの手でさまざまな製品を生み出してきた点は、本田宗一郎と変わるところはない。
イーロン・マスクは、世界的な電気自動車メーカーという地位を確立したテスラのほか、ロケットを自社開発して今や6000基を超える人工衛星を運用しているスペースXなどを率いてきた。彼の発言や哲学から、イノベーターになるための言霊を探ってみよう。
イーロン・マスクの哲学
本屋の経営者コーナーに行くと、今やイーロン・マスクに関する本が所狭しと並んでいる。筆者(灘真、テックライター)がいくつかの本を読んでいくうちに、イーロン・マスクの哲学は、次の3点に特徴づけられた。
・壮大すぎるほどのビジョンとプラン
・失敗を恐れず、成功するまで諦めない姿勢
・自分の仕事への自負
壮大すぎるほどのビジョンとプランは、イーロン・マスクでいえば「火星への移住」であり、本田宗一郎であれば
「マン島TTレースでの優勝」
だろう。頑張れば手が届くのではなく、実現に向けた技術や道筋から積み上げていかなければならない目標は、自分自身を奮い立たせて、かつ周囲のものを同じ方向に向かって駆り立てるには十分だろう。
もちろん、壮大な計画は、ややもすると大風呂敷とやゆされるだけで終わる可能性がある。そのためにも、失敗を恐れず、成功するまで諦めない姿勢は欠かせない。この点は、イーロン・マスク、本田宗一郎も同じであり、
「成功するためには、成功するまで続けることである」
といった松下幸之助もそうだ。諦めない姿勢が、周囲をも巻き込み、壮大な計画を実現するのかもしれない。
ただ、諦めない姿勢を貫き通すためには、自分自身から湧き出る尽きることのない根源的なエネルギーが必要だ。この根源的なエネルギーが、自分の仕事への自負や愛着、あるいは使命感ではないだろうか。イーロン・マスクだと「世界に役立つことをしているという自負」であり、本田宗一郎だと
「得手に帆をあげて」
となる。やはり自分自身が事業や目標にのめり込めないと、諦めない姿勢を維持できないし、失敗を乗り越えられないといえる。
両者の違い
この
・壮大すぎるほどのビジョンとプラン
・失敗を恐れず、成功するまで諦めない姿勢
・自分の仕事への自負
という3点は、いい方に若干の違いはあれど、本田宗一郎やイーロン・マスクだけでなく、時代を築いてきたイノベーターに共通している点といっていい。
ただイーロン・マスクに関する資料を見たかぎりでは、本稿の主題である「無知の知」に対する言及が見つからなかった。なんとか近しいところで、
「難しいからこそやりがいがある」
「ずっと同じものの見方をしていると、いつまでたっても変わらない」
ぐらいだ。「無知の知」をはっきりと自覚しているところが、本田宗一郎とイーロン・マスクの違いなのかもしれない。
ネットを検索して得た情報では、ジーユーの代表取締役社長である柚木(ゆのき)治氏の座右の銘が、「無知の知」だそうだ。柚木治は、「無知の知」を自覚しているからこそ人の話をよく聞くという。
この場合、「無知の知」をどちらかといえば自分を戒める言葉として、あるいは処世訓として捉えており、
「だから面白い」
という本田宗一郎と異なるように思える。
本田宗一郎の宇宙観
ドイツの詩人ゲーテは、
「天才とは努力する才能をいう。努力し続けられるのは、強い意志と、崇高な目標が宿っているからだ」
といった。本田宗一郎やイーロン・マスクはもちろん当てはまるし、イノベーターだけでなく、スポーツ選手、芸術家など、さまざまな分野で傑出した人物全てがそうだといえよう。
本田宗一郎の場合、ゲーテのいう努力する才能に、
「そもそも機械が好き」
であることと「無知の知」が加わったといっていいだろう。とはいえ、「無知の知」ほど実践が難しいものはない。
本田宗一郎の著書「得手に帆をあげて」(光文社)に、ミュンヘン科学博物館で宇宙の未知の部分を示した石の円盤を見た際、人類の既知の部分がいかにわずかであるかに、あらためて気付かされたとある。そのとき、
「モノは考えようだ。オレのためにこれだけの未知の世界が残されていると思えば、かえってファイトが湧くじゃないか」
と、負け惜しみではなく本当に実感したという。
「無知の知」は、自分への戒めとして使うだけでもかなりの謙虚さや修養を必要とする。さらに
「だから面白い」
「わからないからいい」
まで昇華させるには、イノベーターとなるための資質だけでなくプラスαの生まれつきの才能や性格が必要なのかもしれない。
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みんなのコメント
つまり物作りより金と名誉が好きなだけであった