レーシングカーから公道仕様に戻されたフェラーリF40
レーシングカーをそのまま市販スポーツカーとしたようなフェラーリ「F40」は、その血統の確かさを証明するかのように、デビュー後スーパーカー/GTレースで大活躍を果たしたことは、スーパーカー愛好家ならば誰もが知る史実である。
5億2800万円! エンツォ最後のフェラーリ「F40」は「米国仕様」も高額プレ値が!! カッコ悪いバンパーも正規の証
そんな数奇な運命を象徴するかのごとき興味深いF40が、2022年8月の北米カリフォルニア州「モントレー・カーウィーク」における最大級のオークション、RMサザビーズ北米本社の主導による「Monterey」に登場することになった。
もともとはロードカーからレーシングカーに改造されていた!
間違いなく1980年代における最も象徴的なスーパーカーであるフェラーリF40は、発表されたときのセンセーションに終わらず、今日まで世界的なアイコンであり続けている。
もともとストラダーレとして開発されたものながら、多くのプライベーターたちがその可能性を見出したことから、フェラーリはミケロットに北米IMSA選手権のルールに準拠した一連のレースサンプルを生産することを許可。当時の世界最速ロードカーに、レーストラックでの地位を獲得する機会を与えた。
フェラーリのレーシングパートナー、パドヴァの「ミケロット」社は「F40 LM」と分類される19台のレース用F40を製造した。まずは7台のF40 GTがミケロットによって「イタリア・スーパーカー選手権」で使用するために製造。続いてLMの進化形であるF40 GTないしはF40GTEが、「BPRグローバルGTシリーズ」用にさらに7台製作されたことになっている。
さらにF40 LMおよびGT/GTEが全世界のレース界で果たした成功を背景に、ロードカーとして生まれたF40の中にも、レースで使用するためにアップグレードされる車両が複数製作されることになった
今回ご紹介するシャシーナンバー「#80782」もその一つ。初期の「触媒なし、非調整」F40として製造され、1989年11月にマラネッロで完成したのち、オランダにおけるフェラーリ正規輸入代理店である「クロイマンスBV」社に、新車として納車された。それ以来、このF40はオランダに生息していたのだが、製造から3年後、クロイマンスBV社のレーシング部門である「カヴァリーノ・チューニング」がレース用に改装を施した。
この時点ではエンジンに作業は行われなかったが、新たに開発したショックアブソーバーを含むレース用のサスペンション、スタック社製のシステム計器、ブレーキ、黄色への再塗装を含むボディワークを特装。完成後、F40はオランダ国内のレーシングチームに譲られ、H・W・テ・パス氏らのドライブでヨーロッパ全土のシリーズ戦に挑んだ。
そして1995年になると、#80782はレースでの競争力を維持するために、さらなる改造が施されることになる。この作業はイギリスの「G-Tex」社によって行われ、アップグレードされたロールケージとエアジャッキの取り付けも行われたが、最大のトピックはエンジン。出力は700psをはるかに超えるものになったと考えられている。
世界一速いロードゴーイングF40とは?
RMサザビーズ「Monterey」オークション出品時に添付されたドキュメントによると、700psスペックへの改造は有名なミケロットとのコラボレーションで行われたとのこと。
加えてデーヴィッド・ハート氏によって改造され、ハートとマイク・ヘーズマンスがドライブする「フェラーリ/ポルシェ・チャレンジ」に参戦。1998年には再びH・W・テ・パス/デーヴィッド・ハート/バート・プローグの3人体制で同シリーズに参戦したこともヒストリーに残されている。
1997年後半、このF40はフェラーリのコレクターでレーシングドライバーとしても知られるミシェル・オプリー氏に売却。彼はそれまでレースで走らせていたフェラーリ348 GTから乗り換え、1990年代末から2006年までフェラーリ・ポルシェ・チャレンジで大きな戦果を挙げた。
その後はイギリスに本拠を置くレーシングチームに売却され、2009年までレースを続けたことが判っている。
2019年に現在の所有者が入手したのち、このF40はイタリア・マラネッロの有名なボディショップ「ザナージ(Zanasi)」グループに入庫した。フェラーリのファクトリーから目と鼻の先にあるザナージは、フェラーリと60年近くにわたる関係を築いており、フェラーリの特別塗装プログラム「エクストラカンピオナリオ」のペイント担当、「テーラーメイド」エディションの製作、「イコナ」シリーズ製作のオフィシャルショップとしても認知されている。
ザナージによるボディワーク修復の一環として車体は完全に分解され、ペイントは総剥離。伝統的な赤ではなく3層の「グリージョ・ナルド(Grigio Nardo)」に再塗装されるとともに、対照的なエレクトリックブルーのファブリックシートと「スクーデリア・フェラーリ」のシールドが際立つ、独特のスタイルで仕上げられた。同時にメカニカルパートも整備されて、1992年にレースカーへと転向して以来、約30年ぶりにロードカーとして公道を走ることができるようになったという。
ザナージにおける一連の作業についての請求書は、わずか数カ月前に完了したという作業も合わせて12万3000ユーロ以上を計上していたとのことである。
現在では、入念なセットアップによって700ps~1000psのパワーを生み出すとされ、RMサザビーズ社のオークションカタログでは「本当にスリリングなドライビングエクスペリエンスを実現する」と記されていた。
最低でも5億円以上、ひょっとしたら10億円超えも!?
ところが実際の経緯は不明ながら、オークションを前にしてこのF40は突然出品を中止。そののち世界中のエンスージアストが動静を注視していたのだが、この秋になって再びプライベートセール、衆人環視のオークションではなくRMサザビーズ北米本社の得意客のみを対象として、個別に販売されることになったようだ。
「世界一速いロードゴーイングF40」とも言われるこのナルド・グレーのF40は、8月のオークションでもエスティメート(推定落札価格)が明かされず、今回もプライベートセールのセオリーどおり販売価格を公表してはいない。
しかし、同じ「Monterey」オークションでは北米仕様のF40ストラダーレが385万5000ドル。当時の日本円換算で約5億2700万円という価格で落札されたことを思えば、それ以上の価格でなければ商談が進まないのは間違いないところであろう。
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