テスラは2023年11月30日にテキサス州オースティンの本社で注目のニューモデル「サイバートラック」の出荷イベントを開催し、改めてスペックや価格を発表した。
「サイバートラック」は2019年に登場が予告されたが、革新的なモデルだけに開発、生産体制の構築が遅れていた。しかし、ようやくデリバリーが開始され、2024年半ばからはデリバリーが本格化するとしている。
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このサイバートラックの予約受注台数は2019年11月から開始され、予約台数は累計で200万台に近いといわれている。予約した人が全員購入に踏み切るとは考えられないが、アメリカにおけるフルサイズのピックアップトラックでナンバーワンのフォードFシリーズをも脅かす存在といえる。そのため、当初は年間12万台強の生産台数を2025年までには年産25万台に引き上げるとイーロン・マスクCEOは強調している。
サイバートラック出荷イベントで多くのファンの前で車両の説明をするイーロン・マスクCEOしかし、このサイバートラックは、デザインからハードウエアまで自動車業界を驚愕させるほど革新的であるだけに、大量生産を実現するためには多くのハードルを乗り越える必要がある。
実際に、コンセプトの発表からテキサスのギガファクトリーでの量産体制の確立、そしてラインオフまでに4年間を費やしているのだ。
例えば、ボディに1.8mm厚の超硬ステンレス鋼を採用しているため、プレス加工も通常の技術では不可能。またそれ以上に新採用のテスラ・オリジナルの高出力型リチウムイオン電池「4680」(直径46mm×長さ80mm)の生産体制を整えることに相当に手こずったことも生産開始の遅れの理由になっている。
4680電池は、構造、電極材料を革新し、より低コストでより高出力だが、生産技術の開発に時間を取られ、大量生産の立ち上がりが遅れたのだ。
4680型リチウムイオン電池その他に、ステアバイワイヤー、後輪操舵システム、エアサスペンション、電装品の48V化の採用などクルマ全体がまったく常識破りで、開発に予想以上の時間を費やしている。
■コンセプトとデザイン
イーロン・マスクCEOは、2012年頃にEVのピックアップトラックの構想をし、「クレイジーなトルク、ダイナミック・エアサスペンション、そしてレールの上を走るようにコーナーリングするスーパートラック」をイメージしていたという。
明らかにアメリカにおけるベストセラーのフルサイズ・ピックアップトラック「フォードF350」のポジションを狙うEVトラックをテスラ流に実現しようというのだ。
そして2019年秋に、アイデアを形にした量産前提のプロトタイプを発表した。サイバートラックのデザインはこれまで通りフランツ・フォン・ホルツハウゼンが担当しているが、従来とは全く異なる平面を組み合わせたシャープな形状の誰もが思いつかないようなフォルムを採用した。
その理由は単に未来的なデザインを追求しただけではなく、超硬度鋼のボディパネルが一般的なスチールパネルのような曲線的なプレス加工は不可能だからでもある。だが、発表会ではこの奇抜なデザインは自動車業界の人々には評価されなかった。
マスクCEOはサイバートラックについて、デザインのイメージは映画「ブレードランナー」と、映画「007」に登場したロータス・エスプリだとしている。そしてフランツ・フォン・ホルツハウゼンがクレイ・モデルをマスクCEOに見せると、これこそ私のイメージ通りだと喜んだという。なお「CYBER TRUCK」の風変わりなロゴは、市街地の壁面などにある落書きをイメージしたものだという。
様々な小口径銃でボディを射撃。弾丸が貫通しないことをデモンストレーションサイバートラックのプロトタイプの発表段階ではボディパネルは3.0mm厚の超硬スチール鋼板を採用しており、小口径のピストルでボディを撃っても弾丸を跳ね返し、大きなハンマーでドアを打撃しても凹みも生じず、傷がつかず、そして合わせガラス製のドアガラスには鉄球を投げつけてみせた。
さすがに鉄球により窓ガラスは割れたが、生産モデルでは野球のボールを投げつけ跳ね返す状態をアピールしている。ボディパネルは生産段階では3.0mm厚の超硬スチール鋼板から1.8mm厚の超硬ステンレス合金板に変更されている。
一般的にクルマのボディパネル用のスチール鋼板の厚さは0.4mm~0.8mm程度だから、サイバートラックのボディパネルがいかに分厚いかわかる。超硬の厚板を採用することでモノコック構造化させることも狙いであることはいうまでもない。
サイバートラックは、単にEVのフルサイズ・ピックアップトラックというだけではなく、悪路や荒れ地走行で他モデルと比較していかにタフであるかを強調し、荒れ地での作業、荒野での走行、アウトドア・ライフなどピックアップトラックに想定されるシーンでの圧倒的な強靭さ、頑丈さをアピールしている。ピックアップトラックに万能性を求めるアメリカ人のハートに響く存在なのである。
■パワートレインとボディ、シャシー
AWDモデルはフロントアクスルに最大出力226kWのインダクション(交流誘導式)モーター、リヤアクスルに最大出力221kWの永久磁石モーターを使用し、合計出力は612ps(450kW)となっている。
「サイバービースト」と名付けられて最強の3モーター・モデルはモーターの位置を入れ替え、永久磁石モーター(280ps/206kW)をフロントアクスルに、左右2基のインダクションモーター(288ps/212kW)をリヤアクスルに配置。ビースト(野獣)モードで最大合計857ps(630kW)という大出力を発生する。
そのため、「サイバービースト」の0-100km/h加速は2.7秒で、ポルシェ タイカンを上回る強烈な加速力を発揮する。前後2モーターのAWDモデルでも0-100km/h加速は4.3秒で、スポーツカークラスの動力性能を備えている。
またAWDシステムは前後の駆動力配分は自動モード以外に、オフロードモードなど多数のモードから選択も可能で、後輪駆動のみも選択できる。
「4680」電池セルを採用したバッテリーは電圧800Vとなり、350kWという高出力の直流急速充電を可能にしている。250kW出力の急速充電器を使用して15分間で200km以上の航続距離が得られるという。
標準のバッテリー容量は123kWhで、航続距離は3モーターAWDモデルで515km、AWDモデルで545km、後輪駆動モデルはバッテリー容量を少なくし402kmとなっている。なお、AWDモデルはオプションでレンジエクステンド(航続距離延長)用として50kWhのバッテリーを追加できる。このレンジエクステンド用のバッテリーはサイバートラックの荷台に設置され、このオプションのバッテリーを使用すると航続距離は約200km延長することが可能だ。
外部電源出力により他のEVの充電も可能また、サイバートラックは240V/120Vの外部電源出力が可能で、野外での家電製品や電動工具を使用することが可能になっている。
通常の低電圧の電装系は48Vシステムを採用している。12Vの電装システムからの大きな進化としており、12Vシステムより細く軽量な配線が実現している。
従来のフロア配置のバッテリーパック(上)と、CTB構造のバッテリーパックフロア面にフラットに配置されるメインのバッテリーパックは、それ自体が構造メンバーで、高強度なインテグラル式を新採用している。このフロアのバッテリー構造体と高強度のステンレス鋼製のアッパーボディのモノコック構造の組み合わせたCTB(セルtoボディ)構造で、ボディ全体はF1マシン並みの圧倒的な高剛性を実現している。また、前後のサブフレームはいずれもギガプレス製、つまり世界最高レベルの高圧鋳造による一体アルミ鋳造製である。
サスペンションは前後アクティブ制御のエアサスペンション/可変減衰ダンパーの組み合わせで、サスペンション・ストロークは300mmと通常の乗用車の1.5倍とし、最低地上高は440mmと通常のSUVの2倍にまで設定することができる。もちろんアクティブ式制御のため、積載荷重に応じて自動的にセルフレベリングも行なわれる。
世界初の市販化を実現したバイワイヤーステアリングサイバートラックはリヤ・ステアリングも採用しており、最大操舵角10度としている。このためロングホイールベースにもかかわらず小回りが可能。そしてフロント・ステアリングは新開発のステアバイワイヤーを採用している。ステアバイワイヤーの市販化はサイバートラックが世界初となる。
このようにサイバートラックは、従来のアメリカのフルサイズ・ピックアップトラックのイメージを一変させる革新的な存在であり、大排気量の内燃エンジンからEVへというテスラの野望を具現化している。
インテリアは、フロントに18.5インチにスクリーン・ディスプレイ、リヤ席に9.4インチのタッチスクリーンを配置。車内で映画を楽しむことができる。そしてオーディオは15スピーカー、ウーファーを装備するなどハイレベルのオーディオ環境が充実されている。
また音声コントロール、最新のインフォテイメント、そしてもちろんオートパイロットも装備されている。
サイバートラックは新型バッテリーの搭載から、独自の車体構造、48Vの電装の採用、そしてステアバイワイヤーの採用などハードウエアとしても画期的であり、伝統的な自動車メーカーには作ることができない独自性、先進性を備えているということができる。
なお、サイバートラックはフルサイズのピックアップトラックだけに、アメリカ市場にターゲットを絞っており、日本への導入の可能性はないが、イーロン・マスクCEOは、より小型のピックアップトラックの構想は当然ある、と語っている。
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テスラ 公式サイト
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みんなのコメント
例の鉄球でガラスが割れた時の半分(?)くらいになってるわけで
防弾性能とか低下してるんじゃないの?
電装の48V化は、見習ってよいか・・・な?
従来車が12Vなのは感電事故を考慮したからだと思うけど
車重3tは、1tの車の3倍環境負荷が高いと見るべき
発進加速しか誇示できないのがほほえましい
そらそうと記事にある「超硬スチール(?)」というのが気になります。
超硬と名のつく合金は、戦車の砲弾に使われる
タングステン超硬合金くらいしかしりませんし
スチールの中で最も硬いのは、ドリル刃に使われるハイス鋼だと思いますけど
なんかテキトーなこと言ってません?