2018年6月22日、日本を代表する最高級セダン、トヨタ センチュリーが21年ぶりとなるフルモデルチェンジを行い、通算3代目となる新型が発売された。センチュリーは1967年に初代を発売。以降、“日本で最も高価な乗用車”だった時代もあったほか、御料車としても重用され、名実ともにニッポンの最高級車として君臨してきた。近年では1000万円超の国産車も増えた。だが、日本の最高級セダンが歩んできた歴史を振り返ると、センチュリー独自の存在意義が見えてくる。
文:片岡英明
写真:編集部、TOYOTA、NISSAN
なぜ売れなくなる? ホンダ車人気衰退スパイラルに次期フィットが挑む
トヨタ、プリンス、日産が鎬を削った勃興期
クラウンエイト(1964-1967)/全長×全幅×全高:4720×1845×1460mm、価格:165万円(1965年当時)
日本は欧米より50年ほどモータリゼーションの発達が遅かった。幕開けは1955年で、この年にトヨタは中型乗用車のクラウンを発売している。
富裕層のクルマ好きが運転する高級セダンだったが、公用車では後席に貴賓を乗せるショーファーカーとしても使われた。
1957年にスカイラインを発売したプリンス自動車は、1959年4月にその上に位置するグロリアを発売している。
日産も60年春にセドリックを発表し、高級車競争に加わった。
6気筒エンジンを積む上質な走りのプレステージセダンが誕生するのは1963年だ。
2月に日産は、2.8Lの直列6気筒OHVエンジンを積み、ホイールベースを145mmも延ばしたセドリック・スペシャルを送り出している。これは後席に座るVIPのためのプレステージセダンだ。
同じ時期にプリンスは、2代目のグロリアに2Lの直列6気筒SOHCエンジンを搭載。これ以降、公用車だけでなく、大会社の役員や中小企業の社長も6気筒エンジンのプレステージセダンに乗り換えている。
トヨタは1964年4月には2代目クラウンに、ワイドボディのクラウンエイトを追加した。これはクラウンの全幅を1845mmまで広げ、日本初のV型8気筒OHV(2.6L)エンジンを搭載したVIP向けの高級セダンだ。
5月にはプリンス自動車も3ナンバー車のグランド・グロリアを発売に移している。エンジンは2.5LのG11型直列6気筒SOHCだ。上質なマホガニー化粧合板や西陣織の高級クロスを用い、パワーアンテナとパワーウインドウも標準装備する。パワーシートやオートライト、ティンティッドガラス、エアコンなどはオプション設定だ。
御料車もあったプレジデントの誕生
初代プレジデント(1965-1973)/全長×全幅×全高:5045×1795×1460mm、価格:300万円(1965年当時)
1960年代の後半になると、高度成長に後押しされ、日本にも欧米のように後席の快適性を最優先したVIPカーの時代が訪れた。
欧米のリムジンと肩を並べる正統派のVIPカー第1号は、1965年10月に登場した日産のプレジデントだ。
それまでの日本車にはなかった風格を漂わせ、ボディサイズもひと回り大きい。フラッグシップは4LのV型8気筒OHVを積み、パワーステアリングも標準装備した。
この時期、プリンス自動車は日本の自動車メーカーとして初めて御料車の設計を手掛けていた。日産に吸収されたため、御料車はニッサン・プリンス・ロイヤルを名乗っている。ロールスロイスやベンツのリムジンと肩を並べる超高級車だが、これは皇室のために開発され、市販されていない。
50年前に誕生した初代センチュリー
初代センチュリー(1967-1996)/全長×全幅×全高:4980×1890×1450mm、価格:268万円(D、1967年当時)
1967年秋、トヨタはクラウンエイトの後継となるVIPカーのセンチュリーを発売する。プレジデントと同じように専用ボディを採用したプレステージセダンだ。
エアチャンバーを用いたユニークなフロントサスペンションや1982年から搭載された最新技術を駆使したアルミ合金製のV型8気筒エンジンなど、メカニズムにも見るべきところが多い。
セルシオが登場した1989年10月には室内を650mm延ばし、より快適性を高めたリムジンを仲間に加えた。
これはメーカー製としては日本初の本格リムジンだ。フットレストやオットマン、ビデオデッキ、8インチのテレビ、温冷蔵庫、テーブルなど、装備内容もすごかった。
センチュリーは、プレジデントとともに日本を代表するお抱え運転手付きのショーファードリブンだ。ちなみにプレジデントはキープコンセプトのまま1973年に第2世代にバトンタッチしている。
1989年秋、トヨタはクラウンの上の車格を与えたセルシオ(初代レクサスLS)を、同時期に日産はインフィニティ Q45を発売。
だが、直接のライバルは、ベンツのSクラスやジャガーXJ、BMWの7シリーズである。ショーファードリブンにもなるが、性格は最上級オーナーカーだった。車格としてはプレジデントとセンチュリーの下になる。
21世紀になるとシーマをベースにしたプレステージカーに生まれ変わった。
また、三菱もデボネアの後継として投入したプラウディアのリムジン仕様、ディグニティを発売する。エンジンは4.5LのV型8気筒だ。皇室でも使っていたが、FF車だったこともあり、2年ほどで姿を消した。後に復活するが、これはシーマの兄弟車だ。
「唯一無二」に昇華した2代目センチュリー
2代目センチュリー(1997-2017)/全長×全幅×全高:5270×1890×1475mm、価格:987万円(1997年当時)。その後2001年モデルで1000万円の大台を突破。最終型は1253万8286円
30年に渡って基本設計を変えなかったセンチュリーは、1997年にフルモデルチェンジを断行した。
外観は初代の面影を残しているが。ひと回り大きくなり、安全性能と快適性能も大きく向上させた。エンジンは日本車として唯一のV型12気筒DOHCだ。
シルクのように滑らかな独特のパワーフィールと優れた低速性能が自慢だった。パレード走行も余裕でこなす。また、左右バンク6気筒ごとに独立した電子制御としているため、万一の時には片側6気筒での走行を可能にしている。
CO2排出量の少ない圧縮天然ガスを使うCNG車も追加された。トランスミッションは4速ATだ。が、2005年に安全装備を充実させたのを機に、6速ATにグレードアップしている。
4輪ともダブルウイッシュボーンの電子制御エアサスペンションを採用し、穏やかな乗り味を実現しているのも特徴だ。後席の快適性は、名門のロールスロイスやマイバッハに勝るとも劣らない。第2世代の御料車、ロイヤルは、このGZG50系センチュリーをベースに開発され、皇室に納入された。
新型にみる日本最高級車の意義
新型センチュリー(2018-)/全長×全幅×全高:5335×1930×1505mm、価格:1960万円
2018年6月、21年ぶりにセンチュリーがモデルチェンジを実施。コンセプトは日本人が愛する「もてなし」の精神だ。重厚なグリルには七宝文様の柄を配し、鳳凰のエンブレムも名工の匠の技によって制作された。
最新モデルは5LのV型8気筒エンジンにモーターのハイブリッド車になり、快適性能だけでなく環境性能も大きく向上させている。
最新のレクサスLSもショーファードリブンとしての性格を強めたが、V型6気筒にモーターの組み合わせだし、オーラも風格もセンチュリーには及ばない。日本を代表するリムジン、センチュリーは孤高の存在である。
ライバルとするのは、名門のロールスロイスやベンツのマイバッハ、ベントレーなどの超高級ゴージャスセダンだ。これらと比べても実力と風格は負けていない。快適性と安全性も世界トップレベルにある。また、買い得感においてもライバルを圧倒するなど、世界に誇れるVIPカーに成長した。
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