現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 小椋藍選手がMoto2チャンピオン獲得!!「3度目の正直」に必要だったものとは【MotoGP第18戦タイGP】

ここから本文です

小椋藍選手がMoto2チャンピオン獲得!!「3度目の正直」に必要だったものとは【MotoGP第18戦タイGP】

掲載 更新 3
小椋藍選手がMoto2チャンピオン獲得!!「3度目の正直」に必要だったものとは【MotoGP第18戦タイGP】

日本人ライダーとして、15年ぶりのチャンピオン誕生

 Moto2クラスに参戦する小椋藍選手(MTヘルメット – MSI)は、MotoGP第18戦タイGPを、タイトル獲得に王手をかけた状態で迎えていました。前戦オーストラリアGPで、チャンピオンシップのランキング2番手に浮上したアロン・カネト選手(ファンティック・レーシング)に対して65ポイント差をつけ、小椋選手が5位以上でゴールすればチャンピオンが決まる、という状況だったのです。

【画像】2024年シーズンのMoto2チャンピオンが決定した小椋藍選手を見る(11枚)

 小椋選手自身も、「タイではかなりチャンスがあると思う」と、この大会でのチャンピオン獲得に狙いを定めていました。

 ここ数戦の小椋選手は、いつにも増して落ち着いて見えました。金曜日には、セッション前にもかかわらずクルーと会話をして笑顔を見せるシーンもありました。小椋選手自身だけではなく、そこにいるクルーが、ピットの雰囲気が、プレッシャーを持たずに週末の仕事に集中しています。肩の力が抜けているのにしっかりと足が地を踏みしめているような、そんな雰囲気がありました。

 実際のところ、金曜日には午前中のフリープラクティスで、ピットレーン出口がクローズドになったあとにコースインするミスをしてしまったり、午後のプラクティス1ではエンジンに不調が出たりもしました。トラブルはありましたが、それは小椋選手と小椋選手の周りにいる彼らにとって障壁にはなりませんでした。ちなみに、ピットレーン出口クローズドでのコースインについては500ユーロの罰金となり、エンジンについては土曜日に向けて載せ替えとなっています。

 そして決勝レースの朝には、スコールが降り注ぎました。Moto3クラスの決勝レースが始まるころにはコースの路面状況はドライコンディションに回復したのですが、レース後に再び雨が降りました。ただ、サイティングラップで走ってみると、確かにホームストレートはウエットだったものの、その他はドライ。ウエットレースモードに入っていた小椋選手は「ついてる!」と思ったそうです。「表彰台争いをするあたりで走れるかな」と。

 ポールポジションについた小椋選手には、さすがに今回は緊張がありました。と言っても、チャンピオンがかかるレースでナーバスになっていたわけではなく、「ウエットコンディションで、どうなるかわからなかったので緊張しました。ドライだったらあまり緊張しなかったと思うんですけどね」ということだったそうです。

 そんな決勝は、やはりいつもの小椋選手のレースでした。5位にさえ入ればチャンピオンは決まります。しかし、もちろん守りの走りをすることはありませんでした。序盤は路面状況もあって様子を見ていましたが、状況を把握すると、6周目以降に猛然とポジションを回復し始め、14周目に2番手に浮上したのです。

 ところが、トップのカネト選手を追っていたところでまたしても雨が降り始めます。ペースを落としたところで、21周目に天候を理由に赤旗が提示され、全周回数の3分の2を完了していたことから、レースは2周を残して終了となりました。

 この瞬間、小椋選手の2024年シーズンMoto2チャンピオンが決定しました。日本人ライダーとしては、2009年250ccクラスの青山博一さん(現ホンダ・チームアジア監督)以来、15年ぶりのチャンピオン誕生となったのです。

「もちろん、チェッカーを受けたかったですよ。でも、こういうコンディションなので仕方ないですね。チェッカーを受けた方が実感が湧くと思うんですけど、レッドフラッグは急だったから、心の準備ができていなかったです」

 小椋選手は、チャンピオンを獲得した直後の心情について、そう語っていました。

小椋選手がパルクフェルメと表彰台で見せた表情

 クールダウンラップでのセレブレーションを終えてパルクフェルメにやって来た小椋選手は、メカニックやチームスタッフたちに迎えられました。たくさんのハグ。インタビュー。カメラに向かってポーズ。パルクフェルメは新しいチャンピオン誕生の歓喜に満ちています。

 その合間、合間に、小椋選手は何かをかみしめる表情をしていました。じんわりと湧き出てくる何かを少しずつ、けれど逃すことなくしっかりと感じ取るように。

 ついにパルクフェルメでは涙を見せなかったのですが、表彰式のあと、現地に駆け付けたお父さんから手渡されたスマートフォンでお母さんとビデオ通話をしたときばかりは、こみ上げるものがあったそうです。

「簡単なお祝いの言葉をもらいました。そのときは、けっこう……」

 ビデオ通話をしていたとき、小椋選手は表彰台で背を向けて、目頭を押さえていました。それは、彼がひとりの小椋藍に戻った時間だったのかもしれません。

 けれどその後、こちらにくるりと向き直ったときには、いつもの様子でした。小椋藍は、どこまでも「小椋藍」なのです。

今年、チャンピオンを獲得するために必要だったもの

 レース後のチャンピオン会見で、小椋選手は「今年、チャンピオンになるために何が変わったのでしょうか?」と聞かれ、こう答えています。

「僕のレース人生において最も大きな目標は、世界チャンピオンになることでした」

「Moto3、Moto2、MotoGP、クラスにかかわらずね。だから、すごくすごく嬉しいですよ。これまでに2度、チャンピオンになるチャンスを失ってきて……。一度はMoto3で、一度は2022年のMoto2でしたが、そのあと、僕はこのタイトルをただ夢見ていました。いつの日かMotoGPライダーになれるかもしれない、ということも考えなかった。世界チャンピオンだけを夢見てきたんです。そしてついに、成し遂げました」

「僕は自分がどういう人間なのか知っています。もっと若かったとき、僕は最速ライダーではなかったし、自分にものすごい才能があるとも思っていませんでした。でも、すごく頑張れば、こういうことを成し遂げられると信じていました。だから、MotoGPのチャンピオンに5回なりたいとかそういうことは……もちろんあり得るかもしれないけど、すごく可能性は低いですから(考えることはなく)、僕は、“世界ナンバーワン”だけをただただ目指してきたんです」

 ここに、レース後に聞いた、小椋選手のクルーチーフ、ノーマン・ランクさんの話を加えましょう。

「最大のポイントは、アイがレースにおける自分の生活の全てを、結果を得るために、世界チャンピオンを獲得するために集中してきたということだ」

 さらに会見のあと、小椋選手に「今年、チャンピオンを獲得するために必要だったものは何だったのでしょうか?」と尋ねました。

 小椋選手は「それを言い出したらすごく細かくなっちゃうんですけど」と言って、こう説明しました。

「Moto3(のタイトル争い)で足りなかったものをMoto2で蓄えて、それでも2022年(のタイトル争いで)足りなかったものを2023年で……と思ったけれど、怪我をしてしまいました。ほんとにちょっとしたものなんですけど、確実に自分の中で(足りなかったものを)つぶしていって、今年を迎えられて、それが形に表れてくれました。それが全てだと思います」

 いつか、小椋選手に走りの向上についての話を聞いていたとき、こう言っていました。

「(走りについて)変えたり頑張ったりしたものって、すぐ(結果に)表れてはくれないんです。その瞬間から“ここがよくなった!”、“ここが変わった!”とはならないんですよ。半年や1年、2年前から頑張ってやっていることが、気づいたら表れていた、ということなんです」

 小椋選手の「チャンピオンを獲得するために必要だったもの」の答えもまた、この姿勢につながっているように思います。

 1本1本は細いかもしれない(あるいは太い糸もあるかもしれない)糸が、おそらくは何百本もひとつの終着点に向かって伸びていたのでした。何年も前から伸びている糸もあれば、2024年に加わった糸もあるでしょう。それらがついに束になって届いたのが、2024年だったのです。

 言うは易く、行なうは難しいことです。しかし、小椋選手のそれは、この言葉がまさにぴたりと当てはまるのではないでしょうか。

「小椋藍は、世界チャンピオンを獲得するために“全てを”懸けてきた」

■Moto2クラスとは……

 Moto2クラスは、トライアンフ「ストリートトリプルRS」の排気量765ccの3気筒エンジンをベースに開発されたオフィシャルエンジンと、シャシーコンストラクターが製作したオリジナルシャシーを組み合わせたマシンによって争われる。タイヤは2024年よりピレリのワンメイクとなった。クラスとしてはMotoGPクラスとMoto3クラスの中間に位置する。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

最終戦を4位で締めくくった小椋藍選手「難しかった……」と表すMoto2の4シーズン【MotoGP第20戦ソリダリティGP】
最終戦を4位で締めくくった小椋藍選手「難しかった……」と表すMoto2の4シーズン【MotoGP第20戦ソリダリティGP】
バイクのニュース
MotoGPマシンデビューの小椋藍選手 初走行の印象は……【MotoGPバルセロナ公式テスト】
MotoGPマシンデビューの小椋藍選手 初走行の印象は……【MotoGPバルセロナ公式テスト】
バイクのニュース
「お疲れ様」中上貴晶選手がラストレースを終えて自分にかけた言葉【MotoGP第20戦ソリダリティGP】
「お疲れ様」中上貴晶選手がラストレースを終えて自分にかけた言葉【MotoGP第20戦ソリダリティGP】
バイクのニュース
Moto2ソリダリティ決勝|カネットがバレンシアに捧げる優勝。小椋藍は粘りの走りも表彰台逃す
Moto2ソリダリティ決勝|カネットがバレンシアに捧げる優勝。小椋藍は粘りの走りも表彰台逃す
motorsport.com 日本版
日本人初の快挙! moto2チャンピオン小椋藍がトライアンフ トリプル トロフィーを受賞
日本人初の快挙! moto2チャンピオン小椋藍がトライアンフ トリプル トロフィーを受賞
バイクのニュース
「絶好の機会」を呼び込んだエンゲルとマカオ6連覇のメルセデス。「自力では勝てないと分かっていた」
「絶好の機会」を呼び込んだエンゲルとマカオ6連覇のメルセデス。「自力では勝てないと分かっていた」
AUTOSPORT web
バルセロナ公式テストは小椋藍を含めた新役者が勢揃い。A.マルケス最速も日本メーカーがトップ10入り
バルセロナ公式テストは小椋藍を含めた新役者が勢揃い。A.マルケス最速も日本メーカーがトップ10入り
AUTOSPORT web
「彼が上手かった」モレイラに敗れ4位の小椋。チームとはタイトルの喜び分つ最終戦/第20戦ソリダリティGP
「彼が上手かった」モレイラに敗れ4位の小椋。チームとはタイトルの喜び分つ最終戦/第20戦ソリダリティGP
AUTOSPORT web
「今の最優先事項はコーナーの進入」小椋藍MotoGP初走行は最多86周回で21番手/MotoGPバルセロナテスト
「今の最優先事項はコーナーの進入」小椋藍MotoGP初走行は最多86周回で21番手/MotoGPバルセロナテスト
AUTOSPORT web
MotoGPバルセロナテスト|アレックス・マルケスがトップ。ルーキー小椋藍は最多86周を走り込み
MotoGPバルセロナテスト|アレックス・マルケスがトップ。ルーキー小椋藍は最多86周を走り込み
motorsport.com 日本版
岩佐歩夢の気になる去就。「F1に向いているハイブリッド思考」担当の小池エンジニアが話すローソンとの比較
岩佐歩夢の気になる去就。「F1に向いているハイブリッド思考」担当の小池エンジニアが話すローソンとの比較
AUTOSPORT web
悲喜交々のST-4。「複雑な気分」のENDLESS GR86と「逆に清々しい気持ち」で5連覇を逃した冨林勇佑
悲喜交々のST-4。「複雑な気分」のENDLESS GR86と「逆に清々しい気持ち」で5連覇を逃した冨林勇佑
AUTOSPORT web
ホンダ:レプソルカラーは見納めに。ザルコは強力な追い上げでポイント獲得/第20戦ソリダリティGP 決勝
ホンダ:レプソルカラーは見納めに。ザルコは強力な追い上げでポイント獲得/第20戦ソリダリティGP 決勝
AUTOSPORT web
「グリッドでは感極まったがレースはとても集中できた」A.エスパルガロは『満点』評価、笑顔で現役終了/第20戦ソリダリティGP
「グリッドでは感極まったがレースはとても集中できた」A.エスパルガロは『満点』評価、笑顔で現役終了/第20戦ソリダリティGP
AUTOSPORT web
マルティン「長い道のりだった。自信があった。ゴールラインを越えた瞬間に泣いた」/2024MotoGPチャンピオンコメント
マルティン「長い道のりだった。自信があった。ゴールラインを越えた瞬間に泣いた」/2024MotoGPチャンピオンコメント
AUTOSPORT web
波乱満載の週末に先行ビョークを捉えたミケリスが連覇。自身3度目の世界王者に/TCR WT最終戦マカオ
波乱満載の週末に先行ビョークを捉えたミケリスが連覇。自身3度目の世界王者に/TCR WT最終戦マカオ
AUTOSPORT web
リタイアに終わったTGM GP。小川颯太と佐藤凛太郎「リベンジしたい」/マカオFRワールドカップ
リタイアに終わったTGM GP。小川颯太と佐藤凛太郎「リベンジしたい」/マカオFRワールドカップ
AUTOSPORT web
実は大きく違う!? モータースポーツ総合エンターテイナー濱原颯道が開催した「クシタニライダー台湾人スクール」で感じた台湾人ライダーと日本人ライダーの練習環境の違いとは
実は大きく違う!? モータースポーツ総合エンターテイナー濱原颯道が開催した「クシタニライダー台湾人スクール」で感じた台湾人ライダーと日本人ライダーの練習環境の違いとは
バイクのニュース

みんなのコメント

3件
  • なおぞう
    ワールドシリーズでどっちが勝ったかなんかより、小椋のチャンピオン決定の方が大ニュースなのにどこも取り上げてくんないのよね。
  • yuz********
    小椋さんの強みは後半に勝負できる
    タイヤマネジメントのうまさかなと思う
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村