最近、街中を走っていると、全身黒づくめのクルマを見る機会が多い。ゲレンデヴァーゲンやジープラングラー、レンジローバー、ランボルギーニなどが多いが、その人気を反映させたのか、トヨタがランクルプラドやC-HRの黒づくめの特別仕様車を発売した。
今年7月には世界一黒いといわれる塗装が施されたポルシェ911が話題となったのが記憶に新しい。なぜ今、全身黒づくめのSUVが人気なのか、迫ってみた!
マットブラックのランクルプラド特別仕様車が完売! 全身黒づくめのSUVはなぜ人気なのか?
文/柳川洋
写真/ベストカーweb編集部、トヨタ
■ブラックアウトされたプラドはやはり人気だった
2022年8月に発売されたトヨタ ランドクルーザープラド特別仕様車 TX“Lパッケージ・Matt Black Edition”
8月1日に発表された、ランドクルーザープラドのTX ”Lパッケージ・Matt Black Edition”。
ラジエターグリル、ヘッドライト、フォグランプ周りとアルミホイール、バックドアガーニッシュ、ルーフレールが、通常のシルバーのメッキではなくマットブラック、つまり艶消しの黒で塗装された特別仕様車で、クルマ全体からにじみ出る迫力が半端ない。
都内のトヨタディーラーの基幹店舗の新車販売責任者に聞いたところ、プラドそのものは2009年からのロングセラーモデルにも関わらず、この特別限定車への問い合わせが発表以降非常に多いそうだ。
特別仕様車ということで、台数限定なのかと思ったが、実は期間限定での発売という。しかし現時点ではいつまでの販売とは決められていないらしい。通常のTXの12万円高で外装部品をマットブラックに変更していてそれ以外はTXと同一のため、限定車とはいえ柔軟に生産が行えるということなのだろう。
8月26日時点での納期の目安は2023年4月上旬の予定で、納車まで7ヵ月はかかるということだったが、その後、9月に入り、8月末で受注停止(標準グレードを含む)になったという連絡が入った。
外装色はブラックとブラックメタリック以外にもパールホワイト、レッドメタリック、ブロンズメタリックが選べる。通常のプラドだと、外装色の一番人気はパールホワイトで全体の4割、ブラックは二番人気で3割程度だというが、Matt Black Editionはやはり「全て真っ黒」にしたい人が一番多いという。まさに全身黒づくめ、恐るべしである。
■全身黒づくめはメルセデスベンツ、BMWが多い?
そもそも”全身黒づくめ”のルーツはどこにあるのだろうか? 古くは、10年ほど前だろうか。ランボルギーニやフェラーリ、ゲレンデヴァーゲン、ジープラングラーにマットブラックのカーラッピングが流行したことが始まりと思われる。
メーカー純正としては、3~4年前頃からメルセデスベンツ&メルセデスAMG、BMWが全身黒づくめの限定車を出してきた。例えば2019年に登場したAMG G63のエディションマットブラック、2020年8月にはGLC 220d 4MATIC特別仕様車としてアブティシアンブラックの「ナイトエディション」を発売、そのほかにもAMG GTのナイトエディションなどマットブラックの限定車を多くリリースしてきている。
2019年に販売された特別仕様車メルセデス・AMG G63 エディション マットブラック
2020年8月に発売された特別仕様車、GLC 220d 4MATIC。ボディカラーにオブシディアンブラック(とダイヤモンドホワイト)を用意。オプションの“AMGスタイリングパッケージ”をベースに、 通常シルバー加飾となるフロントグリル/スポイラー、ウィンドウモール、リアバンパー、ルーフレールなどにブラックカラーを施し、ハイグロスブラックペイントの19インチツインスポークアルミホイールを採用
いっぽうBMWは“ブラックエディション”や“ピュアブラック”、“ブラックアウト”の名を与えたブラック仕様の特別仕様車を登場させることを見ても、ブラックの特別仕様車を販促素材として巧みに活用していることがわかる。
サファイアブラックのボディカラーにハイグロスブラック仕上げのキドニーグリル/バーやブラッククローム仕上げのテールパイプを与えたBMW118dピュアブラックや内外観を漆黒で統一した限定車「8シリーズフローズンブラックエディション」を発売。
2019年9月のフランクフルトショーに出展されたBMW X6のコンセプトカー
ナノレベルの超微細なカーボン素材で覆われた「ベンタブラック」と呼ばれる、まさしくスペシャル素材で仕立てられたBMW X6は、2019年9月のフランクフルトショーで披露された。
このモデルに施されたベンタブラックコーティングは、世界で最も黒く、可視光の99%以上を吸収し、ほとんどすべての反射を除去するとされ、ボディ表面は、人間の目には明確な特徴を失い、2次元に見えるとされ、まさに吸い込まれるような“漆黒”に仕上げられていた。
今年7月には、そのBMW X6を超える「世界一黒い塗料」を使用して、ポルシェ911の全塗装を施工(岐阜県岐阜市のピットワン)したことが話題になった。この「真・黒色無双」はX6に使用されたVantablack VBx2(全反射率1%)よりもさらに全反射率が低い(全反射率0.6%)という。
世界一黒いといわれる塗料で全塗装したポルシェ911
全身黒づくめといえば、1980年代のハウスマヌカンやDCブランドブームを思い起こされるが、現代のファッションにおいても黒づくめは最先端であるようだ。
ストリートファッションの巨匠として世界的に知られる藤原ヒロシ氏が、2021年6月、マセラティとコラボした限定車「ギブリフラグメント」を発売した。
このギブリフラグメントを手がけた藤原ヒロシ氏はデザイン集団「Fragment Design」を主宰し、世界のさまざまなブランドやアーティストとコラボレーションしてヒット作を生み出しているのでご存知の方もいるだろう。
黒(オペラネラ)と白(オペラビアンカ)の両モデルが用意され、全世界で175台、日本ではオペラネラが36台、オペラビアンカが4台販売となった。
■全身黒づくめの特別仕様車はトヨタが力を入れている
2020年7月に欧州トヨタが発表したRAV4ハイブリッドブラックエディション。フロントグリル周りやバンパー、ドアミラーやリアガーニッシュ、スポイラーをオールブラックで仕立て、19インチアルミホイールもブラック
2020年8月、ランドクルーザー70周年を記念して2021年6月に設定されたランドクルーザープラド TX“Lパッケージ・70th ANNIVERSARY LIMITED”
全身黒づくめのクルマは、日本車では、実はトヨタが一番力を入れているメーカーだ。
欧州トヨタが2020年7月に発表したRAV4ハイブリッドの「ブラックエディション」をはじめ、2020年8月にはランドクルーザープラドの70周年記念車、ブラックエディションを発売。ブラックのメッキグリル&ヘッドランプガーニッシュの加飾や専用ブラック塗装の18インチアルミホイールなどを装備。
続いてトヨタは、6月3日にプリウスの特別仕様車「Aツーリングセレクション」と「Sツーリングセレクション」にブラックエディションを、さらに同4日にC-HR “Mode-Nero Safety Plus II”」を発売した。
そしてこの8月1日には前述のプラドのTX ”Lパッケージ・Matt Black Edition”に加え、マットブラック塗装とダークスモークメッキナットの18インチアルミホイールを装着したC-HRに特別仕様車 G“Mode-Nero Safety PlusIII”、G-T“Mode-Nero Safety PlusIII”を設定し、8月29日に発売した。
トヨタは2018年からこうしたブラック仕様をほぼ毎年特別仕様車として登場させているのだ。
2022年8月29日に発売したC-HRの特別仕様車 G“Mode-Nero Safety PlusIII”、G-T“Mode-Nero Safety PlusIII”。特別色イナズマスパーキングブラックガラスフレークを外板色に設定したほか、マットブラック塗装とダークスモークメッキナットの18インチアルミホイール、ブラックエクステンション加飾のBi-Beam LEDヘッドランプを採用
また、フリードブラックスタイルや来春に発売予定のZR-Vのブラックスタイル、グリルを精悍なブラックとしたスペーシアベースなど、グリルやアルミホイールなどマットブラックをアクセントとするクルマも流行している。
■フォーマルな場でもOKで存在感あるブラックアウトされたSUVは隠れたニーズに「刺さった」
真っ黒なSUVが人気の理由を、某外国車のインポーターの営業担当役員に伺ったところ、「アメリカでシークレットサービスやCIA、FBIなどの政府機関が使っている真っ黒なSUVの警護車両がクールでかっこいいイメージがあり、それへの憧れがあるのでは」、とのことだった。
日本だと、警護対象者が乗るセンチュリーやレクサスLSの前後に随伴している警護車両は、普通のパトカーや黒塗りのレクサスLSやクラウンのセダンが多いが、アメリカでは、シボレーサバーバンやタホなどのSUVが使われるケースが多い。
筆者が米系金融機関で働いていた頃、NY本社に出張で行ってマンハッタン中心部を移動中に、海外ドラマ24などによく登場するその手の覆面車両の実物をしばしば見かけ、確かにかっこいいのでついつい見入ってしまったことがある。
一緒にいた9.11も経験したニューヨーカーの同僚に言わせれば「このクルマが停まっているということは近くに要人がいてテロに巻き込まれるリスクが高いから、見とれてないでこの場から早く離れよう」と急かされたのを思い出す。
トランプ前大統領、バイデン大統領の来日時にも、巨大な大統領専用車「ビースト」の前後を、シークレットサービスの要員が乗る、真っ黒でピカピカに磨き上げられフロントグリルの奥に赤と青のLEDパトライトが仕込まれたシボレーのSUVが前後を固めていた。
●バイデン大統領のエアフォースワンと専用車"ビースト"を振り返る - 自動車情報誌「ベストカー」
SUVとはいえ黒塗りだと皇居や首相官邸などフォーマルな場でも場違いな感じはしない。
車列にはアメリカ大使館所有と思われる黒塗りの200系ランクルと現行ランクルプラドも加わっていたが、シボレーと比べればボディサイズの差もあり押し出しはやや弱いものの、同様にフォーマル感と威圧感が感じられ、同じく随伴していた「国産オラオラ系代表」であるアルファードやヴェルファイアがむしろおとなしいクルマのように見えた。
いわゆる「押し出しの強い」国産のクルマが欲しい人が、こんなシーンをテレビで見ると、「おっ、黒塗りランクルプラドかっこいいじゃん」、となっても全くおかしくない。
レクサスLXグラファイトブラックガラスフレーク
国産オラオラ系の頂点に君臨する(?)レクサスLX600の外装色グラファイトブラックガラスフレークと比べると、プラドの特別仕様車は430万円スタートと価格は半分以下でお手頃。
アルファードやヴェルファイアはもう街で見飽きるほど走っているのに比べ、全身ブラックアウトされたランクルプラドを見ることはあまりなくて新鮮。
黒づくめでアウトドア感が薄まり、フォーマルな場でも場違いにならずどこにでも乗っていける。押し出しの強さの割には、街中でもギリギリセーフの運転しやすいサイズ感。ゆったりした室内は本革シートが奢られ、3列シート仕様も用意され高級感と実用性も十分。
今回のランクルプラドのマットブラックエディションは、「他の人とは違う、存在感を感じさせ押し出しの強いクルマが欲しい」という隠れたニーズの「ど真ん中」に突き刺さる、マーケティングリサーチの勝利といってもいいモデルだったようだ。
アルファードがモデルチェンジされたとしても、上記の条件やニーズを満たす国産SUVに対する需要は必ず残るだろう。
■真っ黒なクルマはお手入れが大変
真っ黒なクルマは、見た目はかっこいいが、実際に買うと「かっこよさ」を保つためには相当な努力が必要だ。アウトドア感が強いSUVであれば少々汚れていた方がむしろかっこいい部分もあるが、フォーマル感も併せ持つクルマがほこりまみれだと、逆によりみすぼらしく見えてしまって余計にカッコ悪い。
最近のクルマのブラック塗装は高意匠化が進んでいて、クリア層の透明度が高められ、平坦ではなく立体感のある深みを感じさせ高級感のある美しい「黒光り」が出るものとなっている。メタリック塗装の場合は、アルミフレークの向きや密度がコントロールされ、反射率と輝度が高められている。
そのため、ピカピカの塗装面に曇りをもたらすほこりがつくと、汚れが非常に目立つので頻繁に洗車したくなる。だがクリア塗装の強度が高められているとはいえ、洗車するとどうしても磨き傷がつきがちだ。洗車機で洗うのは基本おすすめできない。
オーナーは「洗わないと汚れが目立つ、洗いすぎると今度は磨き傷が目立つ」というジレンマに悩まされることになる。青空駐車だと本当に頭が痛い。屋内保管でも、しばらく乗らないでいると静電気でほこりが付着するので油断ならない。
もっと大変なのは外国車に多いマットブラック、いわゆる艶消し塗装だ。
通常の塗装よりは汚れはやや目立ちにくいものの、塗装面に細かな凹凸があるせいで汚れや水滴が風圧や重力で流れ落ちていきにくく、乾いてしまう前にすぐに拭き取らないとカルシウム分などが塗装面上に固着してウォータースポットが残りやすい。
通常塗装だと磨けば取れるが、マット塗装だと磨いてしまうとそこだけテカテカに光ってしまうので、そういうわけにはいかない。
同様に、黒は小傷が目立つが、小傷をつけてしまってもマット塗装だとコンパウンドで磨いて目立たなくする、というやり方はNG。専門の塗料を持ち技術のあるディーラーやショップで修理することが必要になるそうだ。
このようなメンテナンスの大変さを回避するために、ボディ全体にマット色のラッピングシールを貼るケースも増えているという。傷つけたり汚れてしまっても、最悪剥がしてしまってまた貼ればいい、という割り切りだが、施工費用は100万円を超えるケースも。
だが、その話をAMG G63のマグノナイトブラックとCLS450のセレナイトグレーマグノのマット塗装車2台持ちの超大富豪の友人にすると、「そんなのお金かけさせたい業者が言ってるだけじゃないの?」と笑い飛ばされた。
「メタリック塗装よりお手入れお手軽だよ、新車コーティングもワックスも不要というか禁止と言われているし、ブレーキダストでの大口径ホイールとカラーキャリパーの汚れの方がボディの汚れよりよっぽど目立つので、足回りの汚れが気になったタイミングで洗車機でエコノミー洗車してるよ。専門の業者にわざわざ頼むのは時間がもったいないので」とのこと。
自分の時間が一番大切で、細かいことは気にしないお金持ちの感覚なのかもしれない。
我々のような普通の市民は(?)、今回のプラドのホイールやフロントグリルなど、汚れが付着しやすいところのお手入れはマット塗装対応のケミカル剤を使うのが吉だろう。
見た目のかっこよさを保つために努力が必要なのは、筆者のような中年男性のカラダだけに限らないようだ。
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