世界的にも有数のトップ企業であるトヨタ。販売台数、企業力、技術力など、間違いなく自動車業界をリードし、現行モデルもフルラインナップを誇る。メーカーとして盤石の体制といっていいだろう。
しかし、クルマ好きがぞっこん惚れ込む要素がトヨタに満載されているか? というと、必ずしもそうではないのかもしれない。
【価値の落ちないクルマはどれだ!?】 あのメーカー・クルマの「値落ち最新事情」
ここでは、フルラインナップのトヨタでは味わえない“個性派”モデルが各社にはある、というテーマを設け、編集部で10台を選出。4人の自動車評論家に、それらクルマの唯一無二のよさやトヨタ車にはない魅力を語ってもらう。
※本稿は2019年1月のものです
文:国沢光宏、渡辺陽一郎、松田秀士、清水草一/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年2月26日号
■アイデアの勝利で1位。ヴィッツHVにはないノートe-POWERの魅力
(TEXT/渡辺陽一郎)
昨年、小型/普通車で最も多く売れた車種は日産ノートだ(軽自動車を含めた総合順位は5位)。この主力グレードがe-POWERだから魅力が多いモデルといえる。
e-POWERはエンジンは発電に専念して、モーターが駆動を行うため、加速感が滑らか。モーターは瞬発力が高くアクセルペダルを踏み増した時の反応も機敏だから、スポーティに運転できる。
エコ/S モードを選ぶと、アクセルペダルを戻すと同時に強い回生充電が始まって充電効率も高い。この時、強い制動力が生じるからアクセルペダルだけで速度を調節できる。ウリの“ワンペダル”走行だ。穏やかに走る市街地では、ブレーキペダルを使わずアクセルの戻しだけで停車できるほどだ。
この個性に対し、トヨタヴィッツハイブリッドの走りは平凡。アクアなどと同じくなじみやすいが、e-POWERのような面白さはない。
そしてノートはホイールベースが2600mm。ヴィッツよりも90mm長く、後席の足元空間は実はLサイズセダン並みに広い。身長170cmの大人4名が乗車した場合、後席に座る乗員の膝先空間はコブシ2つ半と広い。かなり出来のいいコンパクトカーだ。
■デリカD:5の光る個性。アルファード/ヴェルファイアでも対抗できない
(TEXT/渡辺陽一郎)
デリカD:5は、現行型を何台も乗り継ぐユーザーがいるほど安定した人気。一番の理由は、ミニバンのなかでは悪路走破力が最も高いから。4WDにはロックモードが備わり、最低地上高も210mm(ディーゼルの改良版は表記を185mmに変更)だから、トヨタのアル/ヴェルを含めてほかのミニバンでは不可能な場所も走破できる。
またミニバンでは唯一クリーンディーゼルを搭載し、改良版の最大トルクは38.7kgm。アル/ヴェルのV6、3.5Lよりも性能が高い。
全長は4800mm、全幅は1795mmだから、4950mm&1850mmのアル/ヴェルよりも小さく、街中でも運転しやすい点も強み。そしてモデルチェンジを受けたフロントマスクはトヨタのモデル以上に存在感が強い。
しかも価格は改良版ディーゼルを搭載したGパワーパッケージが約408万円とアル/ヴェルの平凡な直4、2.5Lの中級グレードの4WDと同等。デリカD:5は個性が光るうえに価格も割安だ。
■コンパクトカー充実のトヨタ。しかし、デミオXDに太刀打ちできるか?
(TEXT/松田秀士)
トヨタはコンパクト分野でも、ハイブリッドでエコ技術の先頭を突っ走っている。アクアだけでなくヴィッツにもハイブリッドを投入した。
しかし、燃費とのトレードオフの関係にある加速性能という部分では、悪くはないが目をつむるしかない。
加速性能、そして走りの楽しさという点においてデミオXDに搭載されたディーゼルエンジンは要注目だ。1.5Lのクリーンディーゼルターボの低速域からのリッチな加速感は、内燃機関特有の徐々に盛り上がっていく混じりけのない心地よさ。ディーゼルエンジンとしては低い圧縮比なので、加速フィールはガソリンエンジンに近い。とはいえそこはディーゼルターボなので、低速域からもしっかりとトルクが太い。それでいて燃費もよく、しかも軽油なのでコスパにも優れる。
さらに俊敏性は別格だ。ボクは3年前にスーパー耐久のST5クラスにフィットで出場したが、その時ライバルにデミオがいた。コーナリングがバツグンなのだ。ハイブリッドの場合はモーター、バッテリー、パワーコントロールユニットなどの装備が必要で、それらのスペースが設計段階から決められている。さらに荷室スペース効率も求めるわけで、これが素の状態での走りの違いを生んでいる。
■フツーに使って感動の走り、スイフトスポーツ。ヴィッツGRは遠く離された!
(TEXT/清水草一)
現行スイフトスポーツは、コンパクトスポーツとして出色の出来だ。驚くほど楽しくていいクルマだが、その素晴らしさはクルマ好きだけにアピールするものではない。フツーの人がフツーに使うのにも最適。ニッポンの国民車にしても何ら問題のない万能性を持っているのが凄い。
何よりも感動するのは走り出した瞬間に感じる「いいもの感」だ。ボディがしっかりしていて実に揺るぎない。足は硬めだがしなやか。1.4Lターボエンジンは実用トルクが豊かでブチ回すよりもフツーに走って楽しい。日常をハッピーにしてくれる。デザインもインテリアもグッドだ。
こういうのは、付け焼刃ではできない。ヴィッツにはGRシリーズがあるが、ベースのヴィッツがダメなので、やればやるほどスィートスポットが狭くなる。内外装ともにダメ。それをコテコテにしても余計ダメ。ヴィッツGRは、スイフトスポーツとは比べるべくもない。
トヨタがGRシリーズを展開している意気込みは買うが、まずはヴィッツのフルモデルチェンジを待ちたい。ぜひ、スイフトスポーツと肩を並べるようなヴィッツ(ヤリス?)を出してもらいたい。
■セレナe-POWER、混戦のミニバン界の主役へ。ノア/ヴォクも真っ青!
(TEXT/渡辺陽一郎)
激戦のミニバン界へ、日産の懐刀、e-POWERを搭載して撃って出ているのがセレナだ。ノートのものとは制御が異なり、セレナの動力性能はノートの1.3倍。ガソリンエンジンでいえば、3L並みの性能で力強い。
対するトヨタは人気者のノア/ヴォクシーのハイブリッド。動力性能が2Lエンジンを少し上回る程度だから、セレナe-POWERに比べて加速力が弱く、加速時の静かさでも差が出る。さらにセレナe-POWERはおなじみになりつつあるワンペダル走行。これも強み。
JC08モード燃費はノア/ヴォクハイブリッドが23.8km/L、セレナのほうが26.2km/Lだから燃料代も安い。
ミニバンの命、3列目シートの足元空間もセレナが秀でて広く快適性も優れている(スライド機能装着車)。また、運転支援機能の「プロパイロット」は操作のわかりやすさが評判で扱いやすい。
ミニバンのライバルたちと大きな差がないようなセレナだが、e-POWERという個性で道を切り拓いている。
■設計思想ありきで開発されたCX-8。RX450hLはその思想が薄い
(TEXT/松田秀士)
ちょうど今、CX-8の広報車をお借りしている。このクルマでスキーに行くことが主な目的。CX-8にした理由はACCとLKAが装備され、なおかつその制御がしっかりとしていること。遠出の高速走行で疲労を軽減することができる。この点ではレクサスRX450hLも遜色はない。
ただCX-8は走行中の室内静粛性が高く、車室内での会話が2列目、3列目とも大声を出すことなくできる。これは人の声の周波数を分析して、これを遮る音域帯のノイズを集中して下げているからだ。
RX450hLは2列シートのRX450hを3列シートにエクステンションした。が、CX-8はCX-5をレクサスと同じ手法でロング化したのではなく、1クラス上でもともと3列シートのCX-9(米国などで販売)と同じプラットフォームを使用。だから3列目も快適。ここが大きく違う。さらにサスペンションアーム類はCX-5のものを流用せず、CX-9のモノの長さを短くして採用しているのだ。
それゆえ、路面の凸凹が必然的に粗くなってしまう雪道などでの乗り心地や振動感が圧倒的に優れている。
3.5L V6エンジン+ハイブリッドのRX450hLは加速性能など、走りの部分でも素晴らしくデザインも目を引くが、まず3列シートSUVに何が必要なのか? という設計思想ありきで開発されたCX-8にはCX-9で培った一日の長がある。
■アウトランダーPHEVを凌駕できるか?ハリアーHVでは役不足!?
(TEXT/国沢光宏)
私がアウトランダーPHEVを買った時、ハリアーハイブリッド(HV)はショッピングリストに載っていなかった。もっと正確に書くと、意識の外であり考えもしなかったです。同じようなボディサイズ&価格帯のSUVなのになぜ対象にならなかったのか?
こらもう簡単。ハリアーHVのようなクルマは珍しくないのに対し、アウトランダーPHEVって唯一の存在だったからです。考えていただきたい。ハリアーHVの特徴って「燃費のよさ」であります。だとしたらディーゼルもいい。
CX-5のディーゼル、ランニングコストで考えたらハリアーHVに勝るほど。一方、アウトランダーPHEVには「電気だけで45kmくらい走る」という素晴らしい得意技がある。近所での用なら電気だけで走れてしまうし、東京都内の移動だと帰り道の途中でエンジンかかる程度。
電気で走らせるアウトランダーPHEVは、45kmまでなら電気代100円。それ以上に嬉しいのは徹底的に静かで滑らかなこと。渋滞だってエンジンかかったり止まったりしないです。満足度100点でしたね。
■スーパースポーツ分野ならGT-RとNSX。レクサスLCではやや物足りない
(TEXT/松田秀士)
レクサスLCは国産スーパースポーツとしてかなり刺激的。注目はその斬新なデザインだが、ボクが注目するのはV8、5Lの刺激的なエンジン。自然吸気エンジンの素晴らしいレスポンスとエンジン音。カムなどの動弁系の音すらノイズに感じない。10速ATも素晴らしいシフト感だ。
が、トヨタ系のスーパースポーツにはないものがある。ハイパワーを制御する4WDだ。その意味でNSXとGT-Rは異なる楽しみと味わいがある。特にGT-Rはデビューから12年経過するなかで進化を重ねて熟成されている。
GT-Rの4WWDコントロールはハイパワーを効率よく路面に伝えるだけでなく、ハンドリングとの両立を達成している。超高速安定性が素晴らしく、本誌のテストにおいてJARIの高速周回路で321km/h(メーター読み)を記録したことが記憶に新しい。
その時のドライバーを務めさせていただいたが、300km/hを超えても抜群の安定感だった。アウトバーンでも300km/h走行したが、空力も含めた完成度の高い4WD。この技術は今のところトヨタ車にはない。
■「武闘派」WRX S4。トヨタどころか世界中探してもない!
(TEXT/国沢光宏)
このクルマの評価をさせたら、自動車評論家のなかで最も妥当だという自信あります。なんてったってオーナーだし、WRX S4で国際ラリーにまで出てますから。
そもそもWRX S4を選んだのは、こういったクルマがほかになかったから。アウディにもあるでしょ、という突っ込み入るかもしれないけれど、じゃアウディS4をラリー車に仕立ててグラベル路面を全開で走れるか、といえば難しい。
よく「CVTがあかん!」という声も出る。確かに課題あるけれど、メリットだって大きい。考えていただきたい。サーキットならコーナーの数は多くて15。加えて何度も走っていれば、そのコーナーに合うギアを決められる。6速とか7速あれば充分かと。しかしラリーの場合、ツールド・コルスで6600くらいコーナーあるのだった。ギアなんか合わせられないです。
CVTならアクセル踏めば常時最適のギアレシオを選んでくれる。実際、立ち上がり加速という点じゃラリーやっていて「すげぇな!」と思う。
ノーマルで全開走行するとCVTの油温が上がるなど課題も出てくるものの、一般道を走るかぎり問題なし。WRX S4のような「武闘派」のスポーツセダンはトヨタに存在しないばかりか、世界中探してもないです。
■オープンスポーツはトヨタにはない。“走る宝石”マツダロードスター
(TEXT/清水草一)
マツダロードスターの傑作ぶり、世界の自動車シーンにおける存在感は格別。実に国宝レベルである!
確かに86もスバラシイ。こういうモータースポーツのベースとして格好の小型FRは、世界広しといえども86/BRZくらい。トヨタはスバルと組んで実に素晴らしいものを作ってくれたが、しかしロードスターが放つ光彩の前にはやや霞む。
ロードスターには、86にはないエレガンスやエロスがある。そしてなにより、30年の歴史と世界的名声がある。
思えば、国産登録車のオープンスポーツは今やロードスターだけ。オープンカーというのは基本的にエレガンスがなければ成立しないものなので、数あった国産オープンはそのほとんどが消滅せざるを得なかった。一代かぎりなら作れても、30年も継続するのは本当に偉大なことなのだ。
しかもロードスターには、RFも用意されている。どうしても幌はダメという人にも、選択肢が残されている。
こんなにコンパクトで楽しくて、しかも世界一級の美しいデザインを持つオープンスポーツ、マツダロードスターは、大トヨタといえども、逆立ちしても手に入らない宝石だといえるだろう。
■トヨタ車に足りないものがあるとすればそれは“尖った個性”だ
(TEXT/編集部)
盤石ともとれるフルラインナップを誇るトヨタ。一見すると死角などなさそうに見えるが、しかし、モデルで見ればスーパースポーツやコンパクトカーなどの分野で、いまひとつユーザーの期待に応えられていない部分もあるといえそうだ。
裏を返せば、トヨタ以外の日本メーカーには唯一無二の秀でる要素やモデルが多いということでもある。トヨタも決してうかうかはしていられない、ということだ。トヨタには“尖った個性”、これを色濃く打ち出してほしい。
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