アウディ A7スポーツバックは洗練されたラグジュアリーなムードでいっぱいだった【10年ひと昔の新車】

2011年5月、アウディ A7スポーツバックが日本に上陸した。スポーティなクーぺとフォーマルなセダン、実用性の高いアバント（ステーションワゴン）の要素を兼ね備えた「4ドアクーぺ風の5ドアハッチバック」というコンセプトは、すでにA5スポーツバックで人気となっていたが、ラグジュアリークラスでどう受け入れられるか大きな注目を集める中での登場となった。Motor Magazineでは日本上陸まもなく独自取材を行っているので、ここではその時の模様を振り返ってみよう。（以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年7月号より）

フロントアクスルを前出しして美しいスタイリングを実現
本国では新型A6がすでに登場しており、その日本導入が待たれているところだが、先んじてA7スポーツバックが上陸を果たすことになった。

このクルマは、クーペ風のスマートなアピアランスを実現しつつ、4枚のドアと大きく開くリアのハッチゲートにより、セダン流の快適性と、ワゴン的な活用も可能な高いユーティリティをも併せ持つという、アウディの新しいモデルライン。すでにA5に設定されて大きな成功を収めているが、その戦略をラグジュアリークラスにも発展させようという意欲作である。

ボディサイズは全長4990×全幅1910×全高1430mm。長さに関してはEセグメントを上回り、Fセグメントの領域すら伺う豊かさ。幅方向も新型A6よりも拡大されており、一方で全高はスポーティ度を高めたという新型A6よりも、さらに25mmも低い。

このディメンジョンがもたらす雰囲気には一種独特なものがある。長くてワイドで低いボディは、それだけで何とも贅沢な気配を周囲に漂わせる。

キャラクターラインというよりも、厚みを持たせたショルダーから、エッジを立ててサイドパネルに落とし込んだアーチ型の伸びやかなサイドラインは、プロフィールに彫刻的なカタマリ感を生んでいる。

A7スポーツバックは、アウディお得意のアルミ技術を多用しており、外板やエンジンコンパートメントのストラットまわりを中心に、全体の20％ほどにアルミを用いるハイブリッドボディだ。アルミはプレスでエッジを立てるのが難しいが、このサイドラインは加工技術の高さを物語っている。

さらに、フロントシートの乗員頭上をピークにして、テールエンドまでなだらかに引き下ろされたルーフラインが、ほれぼれとするほど美しい。カッチリとしたセダンも悪くないが、パーソナルカーならこれくらい華やかさがあっても良いと考える人も少なくないだろうと予感させる魅力的なプロポーションだ。

さて、もうひとつ興味の焦点となるのが、新型A6と共用する新しいプラットフォームである。A7スポーツバックはブランニューモデルなので比較すべき先代は存在しないが、A6ではフロントアクスルを前に出して、オーバーハングを短縮するというパッケージング改革を行った。現在のA4／A5と同じような進化を遂げているというわけだ。

フロントアクスルを前へ出すということは、重量配分の改善など走りに大きな影響を及ぼすだけでなく、プロポーションを良くする上でも絶大な効果がある。実際、2915mmと長めのホイールベースにより、タイヤが四隅に寄せられたA7スポーツバックのスタンスは、伸びやかで安定感がある。この美しいスタイリングも、このパッケージングがあったからこそ実現できたに違いない。

搭載されるエンジンは、Vバンク内に置かれたスーパーチャージャーにより過給を受けるV6の3.0TFSIのみの設定。ダウンサイジングに積極的なアウディらしいチョイスで、最高出力は300ps、最大トルクは440Nmと、現行のA8やQ7が搭載するユニットから、さらにパワーアップが図られている。

それと同時にアイドリングストップやエネルギー回生システム、サーマルマネジメントシステムを採用し、エネルギーロスを徹底的に低減。さらにトランスミッションはデュアルクラッチ式の7速Sトロニックと、アウディの最新技術が惜しみなく投入されている。

滑らかなパワーフィールと軽快なコーナリングは見事
パワーフィールは実に滑らかだ。エンジン自体の味わいもそうだが、それよりも際立っているのがSトロニックの制御である。トルクがあるのも滑らかさを生む要因だが、低速域でのクラッチの断続でもショックはまったく感じられないし、シフトアップはもはや変速自体を意識させない。

Sトロニックのシフトスケジュールは、新たにMMI内で操作するようになったアウディドライブセレクトで変えることができるが、これをスポーツに変更しても粗さは出てこない。パドルシフトを駆使したマニュアル操作では、ブリッピングとダブルクラッチも鮮やかに決まり、スムーズかつ必要なギアまで的確にシフトダウンすることが可能だ。

コーナリングは、低い構えのボディとワイドトレッドから想像されるとおり、実に軽快だ。ロックtoロックが2.9回転のステアリングホイールは、ノーマルモードでも適度な重みがあり、センターの座りも良い。以前のA6のシャシではステアフィール自体が軽めで、また切り込んだときの初期応答性が敏感過ぎる感覚だったが、A7スポーツバックは、実にしっとりとした操縦性を手に入れた。

乗り心地がしっとりと良質ながら、旋回時の姿勢も極めてフラットで、かつグイグイと曲がって行く積極性も秘めている。クワトロシステムはセルフロッキング機構をセンターデファレンシャルに採用した新世代のシステムで、旋回加速時には最大60％のトルクをリアタイヤに掛ける。

また旋回時に内輪に軽く制動を与えてヨーモーメントを作り出す手伝いをするトルクベクタリング機構も備えており、ターンインから立ち上がりまでアンダーステアをほとんど意識させない、極めて素直な旋回性能を味わわせてくれる。

もちろんそこには、フロントアクスルを前に出したことによる、前後重量配分の最適化も大きく貢献しているはず。ちなみにA7スポーツバックの前後軸重はフロント1060kg、リア860kg。イーブンではないが、これまでに比べると前後重量配分はかなり良くなって来ている。

品質の高いインテリアと充実した装備も魅力的
室内に目を移そう。A7スポーツバックの乗車定員は4名。後席は左右が独立していたり、中央にフロアコンソールを設けるようなことはしていないが、ヘッドレストは左右にしかないし、中央にはシートベルトも用意されていない。バックレストの一部を前に倒してアームレストとするのが正しい使い方のようだ。

後席左右は座面が明確に下がっているが、そこに深々と腰掛けてもヘッドクリアランスは拳1個分プラスといったところ。大柄な人でも頭がルーフに触れることはないだろうが、包まれ感の強いリアシートなのは確かだ。

ラゲッジルームは深さはそこそこだが、ともかく奥行きがたっぷりある。実に1197mmもあるという。ちなみにリアゲート側にトノカバーが付いており、閉めた状態でトランク内は見えない。リアゲートも長大だが、これはパワーゲートが標準装備される。リアシートは左40：右60 の分割可倒式。標準シート状態の荷室容量は535L、左右を倒せば1390Lとなるなどユーティリティも高い。

フロントシートは太めのフロアコンソールで左右に隔てられており、インパネはドア側のウッドパネルまで回り込んだラップラウンドタイプ。ここでも強めの包まれ感を演出している。

インテリアはレザーと木目をふんだんに使ったアウディクオリティ。ポップアップ式のMMIディスプレイを含め、基本的なレイアウトはA6と共通としている。そのMMIにも進化の跡が見える。先に述べたようにドライブセレクトの操作を受け持つようになり、インパネがスッキリとした。オーディオやナビの呼び出しや階層化もよりわかりやすくなっているし、セレクターノブが回転とプッシュだけの操作になったのも歓迎だ。

さらに新しい操作デバイスとしてシフト横にMMIタッチと呼ばれるタッチセンサーが装備されている。ナビの目的検索など、ここに指で文字を書いて入力できるのだ。左側にあるので右利きの僕にはちょっと慣れが必要だったが、新しい試みであるのは確かだ。

この他にもA7スポーツバックは数々の新機構やドライバー支援システムを満載している。フロントウインドウに各種の情報を表示するヘッドアップディスプレイ、自動停止まで行うアダプティブクルーズコントロール、サーモグラフィカメラの映像をメーター間のディスプレイに映し出し夜間走行を助けるナイトビジョンアシストなどだ。オプション設定もあるが、MMIやクルーズコントロールは車両価格879万円に含まれている。

新しい存在感、優美なスタイリング、何とも贅沢なパッケージングと、意外なほど高い実用性。この辺に価値を見い出すなら、けっこうバリューな価格だと感じられた。（文：石川芳雄／写真：小平 寛）

アウディ A7スポーツバック 3.0 TFSI クワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高：4990×1910×1430mm
●ホイールベース：2915mm　
●車両重量：1900kg
●エンジン：V6DOHCスーパーチャージャー
●排気量：2994cc
●最高出力：220kW（300ps）／5250-6500rpm
●最大トルク：440Nm（44.9kgm）／2900-4500rpm
●トランスミッション：7速DCT（Sトロニック）
●駆動方式：4WD　
●車両価格：879万円（2011年当時）

[ アルバム : アウディ A7スポーツバック はオリジナルサイトでご覧ください ]

Comments

[bor********]

Ａ７はこの初代のデザインが秀逸ですね

[Lore in]

過去に所有してました。
S7はV8ターボの７速DCTでフルタイム四駆
A7はV6スーチャーの７速DCTでフルタイム四駆
骨格から四駆設計だから小回りが効き軽量で後席が広い
加えて全てが綺麗なサッシュレスドアのハッチバック

見た目よし走りよし運搬よしで、趣味車として一台でここまで完結した車種はなかなかなかった
ナビが収納できたりツィーターが電動で競り上がったり、電動リアスポが付いてたりとヘッドライト以外にもギミックで楽しませてくれた
いやぁ〜いい車だったなぁ