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【F1ロシアGP無線レビュー】フェラーリ、チームオーダーの“見解”で思わぬ誤算。ベッテルは「完全にスリップから外れていた」と主張

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【F1ロシアGP無線レビュー】フェラーリ、チームオーダーの“見解”で思わぬ誤算。ベッテルは「完全にスリップから外れていた」と主張

 2019年F1第16戦ロシアGPでは、ポールポジションからスタートしたシャルル・ルクレールをスリップストリームを使ったセバスチャン・ベッテルがトップに浮上しフェラーリのワンツー体制に。そこまではフェラーリの作戦通りの展開となったが、順位の入れ替えで思わぬ誤算が……。フェラーリ、そして後方から追撃するハミルトンの無線を振り返る。

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フェラーリ:レースの中でポジションをスワップすることを考えているよ。

ルクレール:了解、了解。僕はちゃんと分かっているよ。

 ロシアGPが始まってすぐに飛び込んで来た無線が、またしてもフェラーリに一悶着が起きることを知らせた。モンツァでは予選のスリップストリーム使用を巡って、そしてシンガポールGPではピットストップでの順位の入れ替わりを巡ってドライバーたちとピットウォールの間で激しい交信がなされ、シャルル・ルクレールは「自分に直すべきところが合ったとすれば無線でのメッセージだ」と言ったほどだった。

 ロシアでは最初のブレーキングポイントであるターン2までの距離が非常に長いため、前走車のスリップストリームをいかに使うかで順位が大きく入れ替わる。いっぽうでポールポジションのドライバーは、スリップストリームを使うことができないため必ずしも有利とは言えない。そのためフェラーリはふたりのドライバーで協力してライバルのルイス・ハミルトンにスリップストリームを使わせないようチームオーダーを用意していた。

 その結果、3番グリッドから好発進を切ったセバスチャン・ベッテルがルクレールのスリップを使ってイン側に並びかけ、ルクレールはチームの利益を最優先に考えて争わずにベッテルを先行させ、「1-2体制で1周目を完了する」というターゲットを完遂することを目指したのだ。

 フェラーリは映像やデータからベッテルがルクレールのスリップ効果によって首位に立てたと判断し、ポジションを譲り返すことを指示した。

 しかしベッテルの見解は違っていた。ターン2にアプローチする遥か以前から横に並んでおり、スリップストリームを使ったという感覚はなかったからだ。

ベッテル:いずれにしても僕は彼を抜けたはずだ、完全にスリップから外れていた。とにかくあと2周待とう。

 チームからはすぐに順位を入れ換えるよう指示が出るが、ルクレールとのギャップは1.5秒ほどあり、タイムロスしたくないベッテルはもっと追い付くよう訴える。ただし、その一方で自身はファステストラップを更新し続け、逃げても行く。勝ちたいというドライバーとしての本能だ。

フェラーリ:ルクレールを先行させてくれ。

ベッテル:それなら彼にもっと近付くように伝えてくれ。

 これに対してルクレールはあくまで冷静に不満を訴えた。数周はベッテルについていったものの、前走車の背後でダウンフォースが乱れた状態でプッシュすればタイヤはすべりオーバーヒートする。

ルクレール:僕にベッテルの後ろを走らせるんだね。僕は全てを尊重し(このポジションを受け容れ)たのに。詳しくは後で話そう。当然だけど今となってはギャップを縮めるのは難しいよ。

フェラーリ:もう少し後でポジションを入れ換える。ハミルトンが近付いて来ているからギャップを広げてくれ。今は自分自身のレースに集中してくれ、すまない。

ルクレール:僕は完全に理解しているよ。とにかくこれだけは言っておく、僕は全てをリスペクトして彼にスリップストリームを使わせたんだ。それ自体には問題ないよ。それからレース序盤にプッシュしようとしたけどタイヤがオーバーヒートしてしまった。とにかく、問題ないよ。このレース状況を上手くマネージメントするだけだ。

 ベッテルとルクレールのギャップは3秒以上に広がっていき、コース上でふたりを入れ換えることを諦めたフェラーリは、ベッテルに「プランCを考えている」と伝え、ベッテルには第1スティントを引っ張りミディアムタイヤに履き替える戦略を採らせることを決める。ピットストップで順位を入れ換えるという暗黙の了解だ。

 フェラーリ勢はペースを上げ、ミディアムタイヤを履くハミルトンは「彼らのペース、マジかよ!?」と驚きを隠せないが、ハミルトンもこれについていく。それでもミディアムのデグラデーションは事前の想定よりも小さく、こちらも大幅に第1スティントを長く引っ張り、コース上で抜くのが難しいフェラーリをピット戦略で抜こうという考えだ。

 もちろん、フェラーリがピットインしてから自分たちのタイヤがタレるまでの間にセーフティカーが出れば、ピットタイムロスが帳消しになり大きなゲインを手にするチャンスもある。


メルセデス:ターゲット+15、デグラデーションが想定していたよりも小さい。

ハミルトン:僕は少しデグを感じているよ?

 フェラーリは22周目にルクレールをピットインさせ、ベッテルをアンダーカットさせる準備に出る。ルクレールの左リヤタイヤがタレてきていたのもその理由のひとつだ。

メルセデス:ルクレールがピットインした。落ち着いて行け。我々はスティントを引き延ばす。リヤタイヤが鍵だ。

ハミルトン:あぁ、僕は落ち着いているよ。

 23周目には同じタイヤを履くベッテルもリヤタイヤがタレ始めるが、フェラーリはすぐにはピットに呼び入れず26周目にようやく動く。

ベッテル:リヤがタレてきているよ。

フェラーリ:ペースはルクレールと同等だ、38秒8だ。

フェラーリ~ルクレール:プッシュしてくれ、この周でプッシュだ。

 フェラーリ自身はアンダーカットさせたことを否定するが、結果的にここで2台の順位が入れ替わり、ルクレールが実質的なトップに立った……かに思われたが、その直後の27周目にベッテル車をトラブルが襲った。ERS(エネルギー回生システム)の不具合で120kW(約160馬力)のディプロイメントが切れてしまったのだ。

ベッテル:ノーK! (MGU-)Kを失った!

フェラーリ:ボックス……ストップしてくれ、今すぐ止めてくれ。

ベッテル:本気で言っているのか?

フェラーリ:止めてくれ。

ベッテル:はぁ……V12エンジンに戻してくれよ!

 メルセデスAMGが“セーフティカー待ち”の状態にあることは分かっていたため、当初はピットまで戻ってくるよう指示をしたものの、ERSのトラブルだけに最悪の場合は漏電の可能性も考えられるため、フェラーリはドライバーの安全を考慮してすぐにマシンを止めるよう指示を出した。

 ベッテルは比較的スペースが広く、マシンを排除するためのウォールの切れ目も近いターン15のランオフエリアにマシンを止めたものの、バーチャルセーフティカー(VSC)が導入されて各車はスロー走行となる。この間にメルセデスAMG勢はピットに飛び込み、ハミルトンはルクレールの前でコースに復帰し首位を奪い取った。

 フェラーリとしては、自ら招いたVSCでリードを失ってしまったことになる。元々メルセデスAMGが採ろうとしていた第1スティント引き延ばしによるオーバーカットやレース終盤のソフトタイヤによる猛攻がどういう結果になったかは分からないが、それを待つまでもなく勝敗がついてしまった。

 その後、ジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)のマシンにトラブルが発生しウォールにクラッシュ、VSCからセーフティカーが導入された。フェラーリはソフトタイヤのメルセデスAMG勢に対してミディアムタイヤでは勝負にならないと判断し、セーフティカー先導中にルクレールをもう一度ピットインさせてソフトタイヤを履かせ、バルテリ・ボッタス(メルセデス)の後ろ3番手から挽回を目指すことになった。ルクレールにとってセーフティカー導入はある意味で幸運だった。

 最高速は速いフェラーリだが、レースペースの中で純粋なペースではメルセデスAMGを凌駕するほどの速さはない。それでもルクレールはボッタスに猛攻を仕掛け、プレッシャーを掛け続ける。


メルセデス:ストラット7に戻してくれ。ボッタスがルクレールからプレッシャーを受けている。

ハミルトン:僕には僕のレースをさせてくれ。ペースを上げる必要はないのか?

メルセデス:このギャップを維持してくれ。もしルクレールがボッタスをパスしたら伝えるよ。

 42周目にはボッタスに対してポジションを守るべくパワーユニット(PU/エンジン)のモードを上げる指示が飛ぶ。

メルセデス:ギャップは1.1秒。HPP1ポジション3、5回プッシュできるよ。

 その一方でルクレールも最後のプッシュに賭ける。

ルクレール:もしまだ何かあるなら僕にあるもの全てをくれ。

フェラーリ:了解。

 だがその差は如何ともし難く、抜くことはできない。過去3戦の連勝は確かに速さの進歩もあったが、予選で前に出たことが大きかったことが証明された。そしてメルセデスAMGもそれをよく知っていたからこそ、フェラーリとは異なるタイヤ戦略でこの展開を狙っていた。

 勝利を諦めたルクレールはファステストラップを狙いに行く。

ルクレール:次の周クールダウンラップをやってその次にファステストラップを狙うよ。今のファステストはいくつ?

フェラーリ:36秒3だ。

ルクレール:それなら行けると思うからトライするよ。

 その言葉通り、ルクレールが記録したのは1分36秒193。

 しかし、その直前にハミルトンがタイムアタックを行なって1分35秒761と大きく上回るタイムを記録し、“ポケットの中身”を披露してフェラーリの心を打ち砕いた。

 ポジションスワップを巡って一悶着あったとはいえ、メルセデスAMG勢を抑え込んで1-2体制を築いたフェラーリの戦略は決して間違ってはいなかった。ピットストップを終えた段階でルクレール、ベッテルの順で実質的にメルセデスAMGに先行していたのだから。

 波乱なくルクレールが勝利を収めていれば、ここまでの騒動になることはなかったかもしれない。しかしフェラーリの連戦連勝が、こと決勝に関しては極めてギリギリのバランスで成り立っていたものだったことが改めて証明されたロシアGPだった。

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