12月20~21日、鈴鹿サーキットで行われた全日本F3選手権の合同テスト。このテストには、例年を大きく上回る7名もの外国人ドライバーが参加した。テストに参加したドライバーたちの目的と声を聞くと、いまF3というフィールド、そして日本のモータースポーツ界を取り巻く環境で何が起きているのかについて興味深い内容を聞くことができた。
■3名のドライバーの思惑。アイロットは鈴鹿を満喫
今回の全日本F3選手権の合同テストに参加したのは、B-MAX RACING TEAMからサッシャ・フェネストラズ、ルーカス・アウアー、ハリソン・ニューウェイという3名。ThreeBond Racingからはヒューゴ・デ・サドレー、リッキー・コラード、OIRC team YTBからはカラム・アイロット、ジェームス・プルという7名だ。
まるでヨーロッパ!? 全日本F3鈴鹿テスト参加の2チームに外国人ドライバー/スタッフが多数
この7名のなかで、シート獲得を目指したものではないテスト参加は3名。アウアーとニューウェイは、全日本スーパーフォーミュラ選手権に向けた鈴鹿サーキットの習熟がメインの目的。一方、アイロットはOIRC Team YTBがイギリスの名門・カーリンのマシンを購入したこともあり、そのセッティング出しが主目的だった。
「マカオで一緒にレースをしたヨシ(片山義章)がテストに招いてくれたんだ。クルマを開発して欲しいということで、僕は日本も初めてだし、鈴鹿サーキットの経験もなかったからね。F3は良く知っているから、いい機会だと思って参加した」とさすがの速さをみせたアイロットは語る。フェラーリの育成ドライバーでもあり、2019年はヨーロッパで戦うのが確定的だ。
「日本も鈴鹿も素晴らしいよ。人々もトラックもいいし、何をするにもイージーだ。とても楽しめたよ! 将来何があるか分からないけど、今回日本に来られたことも何かの機会だし、もし2019年にスーパーフォーミュラのテストができたらいいね」
■「F3とGT300に出たい」フェネストラズの希望
一方、具体的なシート獲得を目指していたのはフェネストラズ、デ・サドレー、コラード、そしてプル。そのなかでも今回のテストで“相思相愛”に感じられたのは、印象的なスピードをみせつけたフェネストラズだった。マカオGPで3位表彰台を獲得した注目の若手だ。
「チームもコースも初めてだったけど、いいテストになったと思う。ヨーロッパとの違いについても学ぶことができたよ。クルマはほとんど同じだけど、タイヤも違うし、仕事の仕方もセットアップもやはり違うから」とフェネストラズはテスト後語った。
「鈴鹿は素晴らしいコースだよ。第1セクターは特に速いし重要だ。いつか鈴鹿は走ってみたいと思っていただけに、その意味でも今日はいい一日になった」
そんなフェネストラズは、B-MAX RACING TEAMの組田龍司代表が「もともと目をつけていた」と語る弱冠19歳のフランス人ドライバー。これまでルノーの育成プログラムでFIAヨーロピアンF3などを戦っていたが、どうやらルノーの育成からは外れた様子。そして、組田代表の誘いを千載一遇のチャンスとして今回のテストに参加したのだ。
「2019年に日本でレースをするのに向けていい一日にできた……と言っても、乗ることができればだけどね(笑)。今回チームでは多くのドライバーがテストに参加したし。でもどこのチームになるにしても、僕は全日本F3に参加したいと思っている」とフェネストラズは日本で戦いたい希望を語った。
「とりあえず2019年は全日本F3と、そしてスーパーGTのGT300クラスに参加できればと思っていて、交渉しているんだ。そして将来に向けては……いま横にルーカス(アウアー)がいるから言いづらいけど(笑)、スーパーフォーミュラ、そしてスーパーGTのGT500か、何か別のカテゴリーにステップアップできればと思っているんだ」
■高騰する欧州フォーミュラ。日本はその点“格安”!?
デ・サドレー、コラードらも同様に日本でステップアップしたい希望を持ってのテスト参加だったという。聞けばいま、ヨーロッパを主戦場にしていたドライバーたちにとって、日本はふたつの魅力がある地域なのだとか。
まずひとつめは、日本で全日本F3、そしてスーパーフォーミュラにステップアップしたいという希望だ。今ヨーロッパではFIA国際自動車連盟によってFIA F2、F3とジュニアフォーミュラが再編されているが、この参戦費用が高騰しているのが日本を選ばせる最大の理由なのは間違いない。
FIA F2やF3、2018年までのFIAヨーロピアンF3は、F1をドライブするためのスーパーライセンスポイントが一気に稼げ、F1関係者も見守るカテゴリーだが、その影響か現在費用が上がっており、FIA F2に至っては1シーズン戦うのに安くとも1億6000万円ほどから、高ければ3億円近くの費用を用意しなければならないという。ヨーロピアンF3も1億数千万円はすると言われている。
やや夢のない話ではあるが、いまやヨーロッパのドライバーの中では“持ち込み”は必須条件。速いだけではステップアップフォーミュラのシートは得られないのが現状だ。フォーミュラ・ルノーやF4の段階で力をみせ、メーカーやF1チームの育成プログラムに加わらなければF3やF2のシートは得づらい状況になっているのだ。もしくはもともと家庭が資金力を持っているか。そうでなければ夢のF1などは見えてこない。
その点で、全日本F3とスーパーフォーミュラは、現段階では費用が欧州に比べ抑制されており、ヨーロッパで戦ってきたドライバーたちからすれば、ある意味“バーゲンプライス”で非常に高レベルなレースを戦えるというわけだ。特に、F2や現在各地で成立している地域F3の評価があまり高くなく、かと言ってアメリカに行くとレース文化の違いが大きい。全日本F3もスーパーフォーミュラも、トップカテゴリーで戦うために学ばなければならないハイダウンフォースのマシンであり、日本はその意味では、非常に魅力的なフィールドになっているのだ。特にこのサイズ・速さのフォーミュラがドライブできるのが世界でも「ここだけ」に近いスーパーフォーミュラの価値が急速に高まっている。
実際、今回テストに参加したドライバーたち以外にも、全日本F3に参戦する各チームに海外からの問い合わせが相次いでいる状況だ。
■「スーパーGTに出たい」ニーズの高まりの先には……!?
また、フェネストラズのコメントにも見られるように、もうひとつの魅力となっているのはスーパーGTの存在だ。いまやインターネットで動画が観られるようになったことも影響してか、外国人ドライバーからスーパーGTの注目度が大いに高まっているのだ。
GT300の場合はGT3カーという世界統一の規格を中心に争われていることも好影響の一因と思われるが、レースとして非常にレベルが高いこと、世界的に見ても観客動員が多いこと、そして世界でも唯一に近いタイヤコンペティションがあることがドライバーを惹きつける魅力のひとつなのは間違いない。
そしてもしスーパーGTのシートを獲得して、そこで自らの速さをアピールすることができれば、将来はGT500のシートに繋げられる可能性もある。いまやF1という若手ドライバーたちの目標が限りなく“狭き門”になっている状況で、若者たちの次なる目標は、“自動車メーカーのワークスドライバーになること”になりつつある。そして日本には、その自動車メーカーが多く、ワークスに近い体制でスーパーGTを戦っているのだ。
もし仮にGT500、スーパーフォーミュラのシートを得られれば、メーカーのシートを獲得できるとともに、さらにダブルチャンピオンともなれば、F1をも見据えることができる。またホンダであればF1が、トヨタであればWEC世界耐久選手権のシートが、ニッサンであればフォーミュラEにも届くかもしれない。またGT300でも、うまくすればヨーロッパのメーカーの“枠”を別ルートから得ることができるかもしれない。
今のスーパーGTには、多くの可能性があると言えるだろう。また、すでに日本で戦っている外国人ドライバーたちから日本の住みやすさなどもSNSなどで発信されているほか、欧州メーカーのシートを得たアンドレ・ロッテラーや、日本でGT王者を得たニック・キャシディらの成功例も好影響を与えている可能性が高い。
ただ日本にはすでに、メーカーの育成プログラムで育ってきたドライバーたちの“シート空き待ち”になっているほか、激しいタイヤコンペティションがあるスーパーGTは、いまやGT300でも初年度でいきなりトップ争いができるほど生やさしくはない。逆に今や特殊なGT用タイヤを使いこなせない外国人ドライバーが多いほどだ。コースや日本の文化に慣れるために一年間F3を戦い、その上でGTのシートを狙うのが“筋”としては正しいだろう。
近年の世界的なフォーミュラのピラミッド再形成のなかで、俄然注目を集めている感がある日本のフォーミュラのシート。経済面はもちろん、強力な外国人が増えれば、日本人ドライバーの実力向上にも繋がるはず。日本のモータースポーツ界にとってはチャンスとも言えるだろう。
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